慣れれば快適? Windowsの新ユーザーインタフェース
■プロのUI
そろそろお忘れの方も多いと思うが(筆者は1か月ぶりに思い出したクラウド時代のクライアント戦略 )、本ブログのテーマは「企業クライアント戦略」である。「企業」が使う道具というのは、個人(コンシューマ)が使うものとはちょっと違う評価ポイントがある。
企業クライアントで重要なことは、教育コストが低く、変化が少ないことである。
教育コストが低いというのは短期間で覚えられるという意味である。これにより配属されたあとすぐに業務を遂行できるようになる。つまり初期コストの削減である。
変化が少ないというのは、何年たっても必要な業務以外の研修が必要ないということである。つまり運用コストの削減である。
とりわけ重視されるのは運用コストのほうである。初期コストは、長く勤務することで回収できるが、業務遂行中の変更である運用コストはなかなか回収できないからだ。
現在、企業クライアントはWindows XPが導入され、Windows Vistaを飛ばしてWindows 7へ移行しようとしている最中である。そして、多くの企業がWindows XP上でWindows 2000準拠のUIを使っている。それは新しいUIに対する教育コストをかけたくないからである。あるいは、新しいことを学習したくないからである。
■[Enter]か[Tab]か
筆者が勤務している会社には、あるERPシステムが導入されている。そのERPシステムのWindowsクライアントは、入力画面の項目移動に[Enter]キーを使う。Windowsの標準キー割り当て規則では、項目移動は[Tab]キーなので、少々戸惑う。[Tab]キーも使えなくはないのだが、予想外の項目に飛んでしまう。
おそらくこのERPはPCが登場する前、「オフィスコンピュータ」と呼ばれたシステム用に設計されたのだろう。当時は[Enter]キーで項目移動するのが一般的だったらしい。Windows版クライアントを開発するにあたり、ERPの開発元と顧客との間でこんな会話がかわされたに違いない。
顧客 [Enter]で項目移動ができないじゃないか
開発元 Windowsではこれが標準です
顧客 だが、以前のバージョンと操作が違うだろう
開発元 そうなんですが、Windowsアプリケーションはみんなそうなってます
顧客 だめだ。同じソフトウェアなのだから、以前と同じ操作体系を提供しないと絶対だめだ
その結果、他のWindowsアプリケーションとは全く違う操作体系となり、今ではこんな会話がされている。
顧客 [Tab]キーで思ったところに移動しないじゃないか
開発元 本ソフトではそういう仕様になっています
顧客 仕様ならしようがない、なんて言えるか。他のソフトと全然違うだろ
開発元 ですから、本ソフトでは昔から…
ちなみに、IBMに代表されるメインフレームはまたちょっと違ったUIになっていた。メインフレーム端末(インテリジェント端末)は、基本的に半二重通信をしており、端末上で画面項目を組み立てる。各項目の移動は、専用の移動キーで行い、全部の項目を埋めてから最後に[送信]キーを押す。UNIX端末は1文字入力するごとにホストへ送っていたが(インテリジェント端末に対して「ダム(ばか)端末」と呼んだ)、メインフレームの端末は画面単位で送信をしていた。今のWebフォームとほとんど同じやり方である。
だから、メインフレームからWindowsやWebアプリケーションへ移行した人はそれほど戸惑わなかったのではないかと想像する。若い人は時々メインフレームを「古いもの」とばかにするが、基本的な考え方はWeb時代と同じなのである。
■WindowsのUI
マイクロソフトでは、こうした批判をかわすため、旧バージョンのUIを選択できるようにしていた。Windows 95のタスクバーなど例外もあるが、Windows XPやWindows Vista、Windows 7では旧バージョンのスタイルを選択できるようになっている。
しかし、新しいUIは広範囲なテストをして決められたものであり、必ずしも悪いものではない。今までの経験では、確実に使いやすくなっている。最初は慣れなくても、すぐに使いやすさに気付くはずだ。
そして、Windows 8ではMetroと呼ばれるまったく違った操作体系が採用されようとしている。Metroは単なるUIではなく、プログラム開発環境すべてを含んだ体系である。タブレット端末との統合が目的だそうだ。筆者はWindows XP Tablet Editionの時のような専用バージョンが出るかと思っていたが、いきなり統合だそうである。
現在、Windows 8のプレビュー版(ベータ以前の、開発者向け評価版)が公開されている。これを使う限り、従来のUIに戻す方法はない。正確には、従来のアプリケーションを従来の方法で使うことはできるのだが、新しいMetroベースのアプリケーションはMetroでしか使えない。開発環境まで含めてのMetroなのだからやむを得ないのだろう。
また、Windows XPやVista/7で古いUIを選択できるようにしたら、新UIへの移行が遅れ、マイクロソフトのサポート負担も大きかったから、今回は一気に切り替えるという話もある。
真相はわからないが、とにかく現状ではUIは一気に変わる予定である。まだまだ流動的なので、最終的にWindows 7のAero Glass互換のUIがMetroアプリケーションにも追加されるかもしれないが、念のため、大きな変化は覚悟しておいたほうがよいだろう。
そして、Metroも「使い込めば、非常に使いやすい」という評価が得られることを期待したい。