ドリルの正しい使い方|企業クライアント戦略|ブログ|Computerworld

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企業クライアント戦略

ドリルの正しい使い方

Posted by 横山哲也 ( 2011年11月14日 )

■ドリルが欲しい人

「ドリルを買いに来た人はドリルが欲しいわけではない(穴を空けたい)」というのは、マーケティング業界の名セリフである。応用例をいくつか挙げてみよう。

「新聞広告を出したい人は、売り上げや認知度を上げる方法が欲しい」
(Twitterやブログのようなソーシャルメディアの方が効果的かもしれない)

「自動車を買いに来た人は、移動手段が欲しい」
(東京都心部なら、地下鉄の路線案内アプリケーションの方が便利かもしれない)

「赤鉛筆を買いに来た人は、目立つ色の筆記用具が欲しい」
(赤いボールペンの方が手軽かもしれないし、緑でもいいかもしれない)

そして、IT業界で重要なことはこれ。

「コンピュータを欲しがる人は、ビジネスツールが欲しい」

■クラウドの特徴

クラウド・コンピューティング・サービスが最も重要な点は、必要な時に必要なだけ使える「サービス」であることだ。資産を持たなくてもよいので、身軽な経営ができ、新しい需要や減っていく需要に迅速に対応できる。

技術面でいうと、クラウドは「スケールアウト」つまり「台数を増やして性能を上げる」ことを追求したことに特徴がある。スケールアウトに向かない技術はあまり好まれない。

例えば、データベース。広く使われているリレーショナルデータベース(RDB)はスケールアウトにあまり向かない。そこで、より単純で(しかし使いにくい)特別なデータベースが提供される。「(RDBの特徴である)SQL文を使わない」という意味で「NoSQL」とも呼ぶ。KVS(キーバリューストア)データベースはNoSQLの代表例だ(RDBが非常に使いやすいことが改めて評価され、NoSQLの勢いは以前に比べると多少は落ちている)。

また、迅速にコンピューティング環境を構築するため、ほとんどの場合はサーバー仮想化ソフトウェアを使う。Amazon Web Servicesはオープンソースの仮想化システムXenを使っているし、マイクロソフトはWindows ServerとHyper-Vをベースに下システムを使っている。

しかし、コンピュータの本来の導入目的を考えた場合、これらの技術的側面はそれほど重要ではない。たとえば、私も担当している教育コース「クラウドコンピューティング概要」を受講していただいたお客様の多くは、NoSQLや仮想化にほとんど興味を示さない。

現時点でクラウドに対する一番の期待はコスト削減であり、一番の心配事はセキュリティである。クラウド固有の技術サービスを使おうという方は非常に少ない。もちろん、これは「クラウドコンピューティング概要」受講者に限った範囲で、かつ、皆さんが本当のことを言っていると仮定した場合の話ではある。

■穴を空けるための道具

ドリルを買いに来た人は穴が欲しい。だからドリルを売る人は希望の穴を空ける手伝いをしなければならない。

厚さ1mmのアルミ板に、直径3mmの穴を4つ空けるのであれば手回し式のハンドドリルで十分だが、40個空けるのなら電動ドリルが欲しい。厚さ1mmのベニヤ板に、直径1mm程度の、あまり正確さを要求されない穴が2つ欲しいのならキリの方が便利だ。1mmのラワン材に、直径30cmの穴を空けたい場合は、ドリルでは無理なので、大型のカッターナイフを使う。円形カット専門の「サークルカッター」というものもある。

このように、一口に「穴が欲しい」と言われてもさまざまなバリエーションがある。顧客は「ドリルが欲しい」と言うかもしれないが、本当にドリルでいいのかどうかは分からない。売り手は顧客が欲しいものではなく、したいことを聞き出す必要がある。

従来のITベンダーは、どんな穴が欲しいのかを詳細にインタビューし、要件定義書にまとめて顧客に確認を求め、その後でシステムを構築していた。ドリルで言えばこんな会話だ。

顧客「ドリルください」
店主「何に使われますか」
顧客「穴を空けたいんです」
店主「何のためですか」
顧客「壁に額をかけたいんです」
店主「じゃあ、額をかけるフックがあればいいですね」

このあと、店主は額の大きさと重さや壁の材質について尋ねることだろう。あるいは、強力な接着剤を使ったフックを勧めるかもしれない。そうしたら穴は空けなくていい。

セルフサービス時代のクラウド購入では会話がない。スーパーでの買い物みたいなものだ。

顧客「ドリルあるかなあ」
顧客「あった、コンクリートの壁に穴を空けられるかな」
顧客「コンクリート用と書いてあるドリルの刃を使えばいいのかな」
顧客「3Kgの額をかけるにはどれくらいの大きさのフックがいるのだろう」

すべて自問自答である。

■クラウド移行に必要なこと

クラウドコンピューティングは、今まで自前でまかなってきたことを外部委託するシステムだ。自炊からまかないへの変更とも言える。

同じ食事がしたければ、自炊していたときは気にしなかった多くのことを明文化して伝える必要がある。好き嫌いやアレルギー、毎日の食事のタイミングや予算など、必要なことは多くある。クラウドが本当に難しいのはここである。道具としてのクラウドは急速に進化しており、使うのはそれほど難しくない。しかし、自分の仕事に合った道具を見つけるのは難しい。

クラウド時代、ITベンダーの仕事はなくなると言われている。いわゆる「中抜き」である。しかし、多くの人は自分がコンピュータで何をしているのか、何をしたいのかをうまく説明できない。ITベンダーの仕事のうち、単純な構築部分はクラウドによって確かに減るだろう。しかし、要件定義や系統だったテスト、プロジェクト管理は人間が関わるところなので、そう簡単には自動化できない。ITベンダーの意義はここにある。

顧客の方も、自分たちの業務を理解することが今まで以上に重要になる。すべてをITベンダーに任せていたら、コスト削減にならないからだ。どこにどんな穴が欲しいのかを説明できない人は、正しいドリルを買うことはできない。

教育ベンダーも動いている。例えば、筆者の勤務先であるグローバルナレッジネットワーク株式会社では「クラウド人材育成」のWebページを作るとともに、ビジネス視点で見たクラウド移行についての研修「Cloud Essentials ~ビジネス視点から検討するクラウドへの移行管理~」を開始する。また同コースの体験無料セミナーとして「ビジネス視点から検討するクラウド移行概要 ~ 『Cloud Essentials』 無料体験セミナー」を、12月2日(金)の夕方に東京で開催する。興味のある方はぜひ参加して欲しい。

キリ手軽だが手が疲れる。大きな穴は無理だし、硬いものにも文字通り刃が立たない(左)。
ハンドドリル 「チャック」と呼ばれる先端部にドリルの刃を付けて使う。キリほどではないが手が疲れる。木材やアルミにはよいが、鉄板だと難しく、コンクリートは無理(中央)。
大型カッターナイフ 薄いベニヤ板や模型用のラワン材ならこれが一番便利(右)。

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