ソニー製品に見るユーザーインタフェースの「あったらいい…な?」|企業クライアント戦略|ブログ|Computerworld

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企業クライアント戦略

ソニー製品に見るユーザーインタフェースの「あったらいい…な?」

Posted by 横山哲也 ( 2011年11月21日 )

■ソニー vs. パナソニック

東京都品川区にある「ソニー歴史資料館」。歴代の製品が並んでいる

ソニーとパナソニック(筆者は松下電器産業の方が慣れているが、ここでは新社名の「パナソニック」で統一する)は昔からよいライバルだが、経営方針は対照的である(と思われている)。ソニーが新技術を使った先行逃げ切り型であるのに対して、パナソニックは「ちょっとだけ後で、ちょっと良い物を、ちょっと高く売る」とされる(パナソニックの友人談)。

だから、ソニーの新製品は画期的なものもあるが、妙なものも多いし、使い勝手の良くないものも多い。誰も使っていないから、何が使いやすいか分からないのだろう。ソニーの歴代の製品を見たければ、「ソニー歴史資料館」に行くと良い。ただし、残念ながら、ここで紹介するような裏話は紹介されていない。

一方、パナソニックは先行技術を良く研究しており、製品にそつがない。旧社名の松下電器を揶揄して「まねした電器」などと呼ばれるが、技術力は一流である。パナソニックの人は「真似できるものならやってみろ」と思っているに違いない。PCも「ソニーVAIOのカタログを見てPCを買いに行った人の多くは、帰りにパナソニックのLet'snoteを持っている」と言われる。この安定感はソニーにはない。

パナソニック創業者の松下幸之助は「うちは東京に『ソニー』という大きな研究所があります」とソニー創業者のひとりである盛田昭夫氏に語ったと言われている。

一方、ソニーが先行開発した技術を後発企業が量産することを指して「ソニーは(実験動物としての)モルモットだ」という記事が出たことがある。後にもうひとりのソニー創業者である井深大氏は「モルモット精神もまた良きかなと」と語ったという。

■初代ウォークマンの「あったらいいな」

ヘッドフォン端子が2つ。「あったらいいな」の恋人仕様なのか?

初代ウォークマンが非常に不思議な製品であることはよく知られている。録音機能はないのにマイク機能がある(写真右上の側面)。これは、外部の音をヘッドフォンに流すためである(写真上部に見える黄色いボタンを押すと音が聞こえる)。ウォークマンと同時発売されたヘッドフォン「H・AIR(ヘアー)」は「オープンエアー型」と呼び、外部音を拾いやすい構造になっているが、それでも音楽再生中は普通の会話がしにくい。マイクから音を拾うことで、ヘッドフォンを外さずに会話ができるというわけである。

ウォークマンは、当初録音機能を搭載する予定だったそうである。マイクはその名残だが、それを使って外部からの音を聞くというのが斬新だが、本当に必要だったのだろうか。

英語に「Nice to have」という表現がある。日本語では「あったらいいな症候群」と病名のように言われる。「誰も使わないかも知れないけど、あったら便利に違いない」という機能を追加したくなる開発者の病気である。ほとんどの場合、「あったらいいな」はなくても困らない。実装することで余計なコストがかかり操作が複雑になるので、むしろない方がいいくらいだ。

ウォークマンの場合、録音機能をそぎ落とした結果、余ってしまったマイクの使い途を無理矢理考えて「あったらいいな」にしてしまったのではないかと想像する。その証拠に後継機からはマイク機能が省略された。

初代ウォークマンにはヘッドフォン端子が2つ付いている、これも「あったらいいな」である。2人で音楽を聴けるのはなかなか楽しいと思うだろうが、実際に2つのヘッドフォンをつないでいると、2人が常に密着していなければならず、不便で仕方がない。

■スカイセンサー5900: 複雑過ぎて使いこなせない

1970年代に「BCLブーム」というのがあり、短波放送の受信が中高生の間で流行した(詳しくはWikipediaの「BCL」などを見て欲しい)。

海外向け短波放送は5KHz間隔で放送周波数が並んでいるが、ラジオの周波数目盛りはかなりいい加減なため、チューニングは至難の業であった。当時の技術では精度が出なかったこともあるが、最大の問題はチューニング用のコンデンサ(バリコン)容量を直線的に変化させても、周波数が直線的に変化しないためである。

ソニーは「スカイセンサー5900」という機種でユニークな方法を採用した。まず、250KHz単位の周波数目盛りをメインダイヤル(写真右上部のダイヤル)で選択する。目盛りだけでは不正確なので、水晶発振子による校正(キャリブレーション)機能を併用する。次に、サブダイヤル(写真中央のダイヤル)で250KHz未満の値を選択する。たとえば、3925KHzの放送を受信したければ、主ダイヤルを3750KHzに合わせ、サブダイヤルを175KHzに合わせる。これで3750+175=3925となり、目的の放送が受信できる。

足し算をしながら操作したチューニングダイヤル

非常に複雑なことはおわかりいただけたかと思う。2つのダイヤルを回すだけでも面倒なのに、250KHz単位の足し算である。特に高い周波数の受信に関しては、他社製品に比べて圧倒的に高性能だったにもかかわらず、パナソニックのクーガシリーズと人気を二分するに留まったのはユーザーインタフェースのせいであろう。

特に前期型はサブダイヤルに0から250の目盛りしかなかったため、計算が非常に面倒だった。後期型は0-250、250-500、500-750、750-000の4種類の数値が併記されるようになったため、足し算の苦労からはある程度解放されたが、本質的な作業は変わらず、煩雑さは相変わらずだった。写真はソニー歴史資料館の展示品(後期型)である。

ちなみに、筆者は計算の煩雑さに加え、技術的な理由から10.7MHz付近の受信ができないこともあって、スカイセンサー5900ではなくクーガ115を持っていた。

パナソニックは、後に「クーガ2200」というラジオを発売し、スカイセンサー5900の欠点をすべて払拭した。特に周波数直線型バリコンは画期的であり、筆者も感心したことを覚えている。しかし、登場時期がスカイセンサー5900の1年後だったせいか、使い勝手の良さが逆に特徴をアピールできなかったせいか、歴史に名を残すことはなかった。

■ユーザーインタフェースの難しさ

「あったらいいな」は、あったらいいが、なくても困らない。もし、開発者自身が何に使うか分からないようであれば「あったらいいな」は排除したほうがいい。逆に、本当に必要だと思ったら使い方をアピールし、強制的に使わせるべきだ。

ただし、複雑すぎて使えないのでは敬遠される。多くの手順が必要だったり、状況判断が必要だったりすると利用者はその機能を使いたくなくなる。競合製品が全くない状態であれば、それでも使う人はいるだろうが、利用者にストレスを与えてしまう。実際の利用者に製品を使ってもらう「ユーザービリティテスト」が重要なのはこのためだ。

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