顧客満足度と要求仕様|企業クライアント戦略|ブログ|Computerworld

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企業クライアント戦略

顧客満足度と要求仕様

Posted by 横山哲也 ( 2011年12月19日 )

■顧客満足度(CS)の意味とは

▲中華料理は、紙、火薬、羅針盤、印刷術に並ぶ発明だと思う(写真は本文とは別の店のディナーコースの一部)

先日、夕方の2時間半ほどの時間を使って「顧客満足度(CS: Customer Satisfaction)」の社内研修が行なわれた。同僚の田中淳子もブログ記事「CS(1):プロダクトの質と提供者の感じよさ」で紹介しているので、別の視点で知りたければそちらを読んで欲しい。

ビジネスにおいて「顧客満足度」を無視する人はいないだろう。日本には「チップ」という制度がないため、満足度に応じた対価を支払う習慣はない。それでも、サービス業はもちろん、製造業も流通業も顧客満足度を重視している会社が多い。それはなぜだろう。研修で学んだことはこうだ。

  • 製品品質は、対価を払うか払わないかを決める尺度である
  • 顧客満足度は、もう一度利用するかどうか(リピーターになるかどうか)を決める尺度である

■製品品質と顧客満足度のバランス

ある中華料理屋で、頼んだものが来なかったことがあった。何度か催促したが、結局注文をキャンセルし、金を払わずに店を出た。料理が来なかったので金を払わないのは当然である。

この時、店員の態度が丁寧であれば、次回もその店に行く可能性は高い。クレーム対応の基本は「そこまでしてくれなくてもいいのに」と思わせることだそうだ。顧客が店員の対応に満足度すればリピーターになり得る。つまり、製品品質が低くても、顧客満足度が高いという可能性もある。

同じ店の別のエピソードを紹介しよう。この店では、ランチ時の混雑を平均化するために昼12時以前にのみ提供される割安なサービスメニューを始めた。11時58分にサービスメニューを頼むと、ウエイターは自分の時計を見て12時直前であることを確認し、「はぁ」と溜息をついて注文を受け入れた。

どう考えても接客する態度ではないが、出された料理は美味しくいただき、きちんとお金を払って店をあとにした。ただし、こういう態度で接客されれば、たいていの人はその店に二度と来ないだろう。

顧客満足度が低いというのはこういうことである。製品品質が良くても、満足度が低ければ再利用はない。

■要求仕様と付加価値のバランス

以前、「使い勝手の重要性~弁当選択と非機能要件~」という記事を書いた。「機能要件」は「本来の目的を満たすための要件」で、「非機能要件」は「その機能を実現するための目標値や、あった方が望ましい要件」のことだ。料理の場合だと、カロリーと栄養素が機能要件で、接客サービスは非機能要件である。ファストフードでは「注文から受け渡しまで平均3分以内」というのも非機能要件である(数字は一例)。

機能要件を満たしているのは製品採用の最低条件である。最低条件を満たした製品の中から実際にどれを買うかは非機能要件で決まる。「製品満足度ナンバーワン」という宣伝文句がある。同じ買うなら顧客満足度の高い製品の方が安心できるが、それも機能要件が満たされていればこそである。

一般に、非機能要件は付加価値だとされるが、近年のIT業界では非機能要件を要求仕様書に取り入れるようになった。要求仕様に明記されている非機能要件は、単なる付加価値ではなく必須要件になる。

要求仕様を満たさないシステムを納品されても検収することはできないのでお金は払えない。しかし、たとえ要求仕様を満たしていても、要求仕様にない部分の使い勝手が悪い、開発担当者の感じが悪い、こういったことがあれば継続したビジネスは難しい。

ITシステムの応答時間は非機能要件の代表だが、東証のシステムArrowheadの要求仕様には「応答時間10ミリ秒」という要件が含まれていた。完成したシステムの実測値は2ミリ秒だったが、もし15ミリ秒だったら要求仕様を満たさないため納品できていない、つまりお金をもらえないところだった。ただし、達成したのが9ミリ秒であっても支払金額が下がることはなかったはずだ。要求仕様を満たしていれば支払額が下がることはない。

では10.001ミリ秒だったらどうだろう。証券取引分野で0.001ミリ秒(1マイクロ秒)が持つ価値を筆者は正しく判断できないが、おそらく若干の値引きくらいで済んだのではないだろうか。このように同じ要求仕様でも、非機能要件の場合は融通を利かせやすいという特徴がある。そして、非機能要件こそが競争力の源泉である。

東証システムでは速度が非常に重要視された。このことはベンダーにも伝わっていたため、要求仕様を大幅に超えた2ミリ秒を実現した。顧客である東証はこれを「無駄な開発」ではなく、「努力の結果」と高く評価しているという。おそらく次期システムの受注にも有利に働くはずだ。つまり「リピーターの獲得」である。

■それでもリピートしてもらうには…

本ブログの熱心な読者の方なら、最初に紹介した店の予想が付いているかもしれない。そう「中華料理のサービスレベル」で紹介した「サービスレベルの低い店」である。

冒頭のエピソード、実は店から謝罪の言葉はなかった。客に対して溜息をつかれても、以前紹介したように注文を間違えられても、文句を言いながら筆者らは同じ店に通い続けた。2010年秋にオフィスが引っ越してから行っていないが、「また行きたい」という声が時々出るくらい人気がある。

サービスの良し悪しは、レストランに求められる非機能要件の1つであるが、最も重要な要素ではない。ランチに求められる最も重要な非機能要件は味の良し悪しだ。味さえ良ければ何とかなる。つまり、非機能要件にも重要なものとそうでないものがあることは覚えておきたい。仮に味を数値化できたとしても要求仕様とは考えない。要求仕様は最低ラインを決めるもので、相対的な比較ではないからだ。

■非機能要件はリピーターを獲得するためにある

非機能要件には重要なこととそうでないものがある。重要な非機能要件は、その製品の存在価値そのものである場合もある。

要求仕様として盛り込まれた非機能要件にも、仕様以上の値を達成することで顧客満足度を上げられる場合がある。また、重要な非機能要件は、他の非機能要件に少々問題があってもリピートを獲得できる可能性がある。

要求仕様は製品に求められる最低ラインに過ぎない。重要な非機能要件の満足度を上げることで、他の問題を跳ね返すこともできる。これが今回の研修で筆者が学んだ最も大きな成果である。

この時期、イルミネーションがきれいなので撮ってみた。 イルミネーションには明確な機能要件は見当たらない。非機能要件の要求仕様として、光源の色や個数、消費電力などがある。 その上で飾り付けのセンスや工事担当者の対応がリピーター獲得に有効である。
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