2011年を振り返って――東日本大震災の爪痕
2011年の話題と言えば何をおいても東日本大震災だろう。発生から9か月を過ぎ、一時期よりは落ち着いたとは言え、収束とはほど遠い状況である。
こうした大災害で、ITに何ができて何ができなかったか、これから何をすべきかについて改めて考えてみよう。
■パケット交換と回線交換
地震発生直後、電話回線がほぼ壊滅状態となった。阪神・淡路大震災では携帯電話加入者が少なく、比較的つながりやすかったが、今回は全く駄目だった。しかし、インターネット経由の電子メールは大幅な遅延があったものの、なんとか使える状態にあった。
一般の電話は「回線交換」と呼び、通話の開始から終了まで1本の回線全体を専有するため、安定した通信を簡単に実現できる。ただし、休みなしに喋り続けようが、沈黙を続けようが、ネットワークの使用率は変わらないため回線の利用効率が悪いという欠点がある。
一般的な電話(いわゆる「固定電話」)は、8KHzでサンプリングした信号を8ビットでデジタル化するため、64Kbpsの帯域を消費する。俗に「アナログ電話」と呼ぶが、アナログなのは家庭から電話局までで、現在日本の電話網は全てデジタル化されている。携帯電話は圧縮を行なうので、無音時の利用帯域はずっと少なくて済むが、通話中に回線を占有することには変わりがない。
一方、インターネットで使われている「パケット交換」は、データを「パケット」と呼ぶ塊に分割し、実際の通信データだけを転送するため回線利用効率がよい。ただし、回線の状態によってはデータの遅延や欠落が発生してしまうため、安定性に欠けるとされてきた。
実際に、震災時の状況を振り返ってみると、電子メールは最大数時間以上の大幅な遅延があったと聞くが、使えることは使えた。Skypeのようなインターネット電話がどうだったのか、直接聞いた話ではないがなんとか使えたらしい。
現在、NTT各社は一般電話も回線交換からパケット交換へ移行する準備を進めている。今回の震災でその方向性の正しさが証明されたと言える。
・「TCP/IPの強さの秘訣 ~災害時の信頼性~」3月13日
■シンクライアント
震災直後は、本社ビルが被害を受けなくても、交通機関が麻痺したり、停電があったりして、通常勤務が困難な方も多かった。幸い、インターネット回線は比較的復旧が早かったので、在宅勤務を許可する企業が増えた。
自宅から会社のシステムを使うには、従来VPN(仮想プライベートネットワーク)を使うのが一般的だが、VPNは会社のネットワークを自宅まで延長することを意味する。しかし、適切に管理されていないPCを会社のネットワークにつなぐのはリスクがある。そのため、会社支給のPCを使うケースが多かったが、震災ではVPN接続希望者が多すぎて、支給PCが足りなくなった企業も多かったらしい。
そこで改めて注目されたのが「シンクライアント」である。シンクライアントは、会社のサーバーから画面情報のみを転送するため、セキュリティに比較的強い。今回の震災を機会に、自宅にある個人所有PCをシンクライアントとして使う企業が増えたという。
シンクライアントについては以下の記事で扱っている。震災以前の記事もあるので、興味のある方はBCPの視点から改めて読み返してみてほしい。
・「そんなに大事なPCなら持ち歩かなければいいのに」1月31日
・「シンクライアント専用機の行方――重要なアプリはOfficeではなくRDC」2月7日
・「クライアント管理の課題を解決するもうひとつの方法 ~シンクライアントの利用~」9月4日
・「VDI: シンクライアントの応用」9月12日
■クラウド
もう1つの話題は「クラウド」である。震災直後、アクセス負荷の増大によりダウンしたWebサイトも多かった。マイクロソフトを含め、多くのクラウドベンダーが無料使用を許可し、ミラーサイトの構築がボランティア的に行なわれた。
筆者は「クラウドになればIT管理者は不要になる」という見方には否定的だが、緊急時のシステム構築にIT管理者を必要としない時代になったのは確かである。IT管理者の仕事は、継続的な業務改善や安定稼働の実現が中心であり、新規構築時の出番はほとんどない。これからもクラウドの利用はどんどん進むだろう。
・「災害時にITがサポートできること」3月21日
■2012年に向けて
震災の被害は、ある程度落ち着いたが多くの方が難民同様の生活をしていらっしゃるし、被災した原発の処理手順は決まっていないことの方が多い。まだまでやらなければならないことは多い。
来年は、クラウドサービスのさらなる利用、スマートフォンによるインターネット利用の一般化、シンクライアントによる在宅勤務などが重要技術になると筆者は考えている。
■おまけ: 告知
私事で恐縮だが、年末に東京国際展示場(通称「東京ビッグサイト」)で開催されるコミックマーケットに、写真サークル「まぐにゃむフォト」として友人とともに参加する。
もし興味のある方がいらっしゃったら、まぐにゃむフォトのFacebookページまたはブログを参照して欲しい。