坂の上のクラウド(後編)
「これまでの歴史において、社会的なイノベーションは、技術的なイノベーションよりも大きな役割を果たしてきた。19世紀の主な産業は、新しい社会環境としての工業都市を、事業上の機会や市場に転換した結果生まれた。最初にガス、次に電気による照明事業が起こり、市内電車、郊外電車、電話、新聞、デパートなどの事業が起こった。したがって、社会の問題を事業上の機会に転換するための最大の機会は、新技術、新製品、新サービスではなく、社会の問題の解決すなわち社会的イノベーションにある。」
上記は、ドラッカーの「マネージメント」の中の一文ですが、クラウドの推進を行う上で、我々は、「クラウド」の技術的側面のみを見るのではなく、社会的なイノベーションとして捉えることが大切だと思います。
「クラウド」の本質は共有するということです。そもそも、そのインフラとなるインターネットというネットワーク自体が、まさに「共有」することで成り立っているネットワークです。クラウドも共有のレイヤーが上がっただけで、あくまでその延長と考えることもできます。
これまでの日本のIT産業自体が無駄の上で成り立っていたといっても過言ではないかもしれません。SIベンダーは、同じようなシステムを、お客様毎に、個別に構築してきました。個別に構築すれば、当然、個別に、エンジニアの工数、システム環境が必要になり、その分の費用をお客様に請求することでビジネスをしてきました。これは日本全体でみると大きな無駄があります。無駄なIT投資と作業によって、ITの利活用の推進が阻害されていることになります。これは社会としての問題であり、これを解決するためにも「クラウド」的発想が必要です。
情報システムを利用するユーザー間で「共有」するというだけでなく、情報システムを提供するIT企業側でも「共有」の理念の下、いろいろな協業をすすめ、スマートにITサービスを提供していく必要があります。クラウドによって、IT産業自体の最適化がすすむことになるでしょう。
NIST(米国標準技術局)のデプロイモデルの定義で「プライベート・クラウド」、「パブリック・クラウド」、「コミュニティ・クラウド」という整理がありますが、私は、その中で、今後どういった「コミュニティ・クラウド」ができていくか、今後どういった「コミュニティ・クラウド」を仕掛けていくかということに注力していきたいと思っています。
コミュニティ・クラウドといっても、いろんなレベルのものが出てくるでしょう。業界全体を巻き込んでの大掛かりなものから、これまで単独の企業ではIT化してもペイしなかったことをカルチャーの近い複数の企業が集まって、「共同でシステムを作って(コミュニティ・クラウド)シェアしようよ。」というレベルまで。様々な展開が考えられます。
未曾有の不景気に対する危機感は、中小企業に比べて、まだまだ、大企業では切迫していないような印象を受けます。また、業界によっても、大きく異なると思います。その中で苦しい業界や企業群ほど、より変革の必要性に迫られており、クラウドの成功事例もこういったところから出てくる可能性が高いと思われます。
単に既存のITシステムをクラウド化することによって、利用コストを下げるというだけではなく、業界、地域、各コミュニティにおいて、これまで考えられなかったようなエリアでのITの利活用がすすみ、ユーザーが便利になり、皆が幸せになる、そんなクラウドの発展を推進していきたいと思います。
「共有」の概念は、本来、日本人が古来より大切にしてきたことです。CBAに集まったメンバーが協力し合い、クラウドのテクノロジーとクラウド的な発想で、日本から共存共栄のエコシステムを築き上げていくことが、CBAが目指すべき「坂の上のクラウド」です。
<筆者紹介>
クラウド・ビジネス・アライアンス 理事
株式会社EWMジャパン 代表取締役社長
IBMより独立し、2001年にEWMジャパンを設立。企業でのウェブの有効活用のための手法、エンタープライズ・ウェブマネージメントを推進。故郷の佐賀県に子会社EWMファクトリーを設立し、国内オフショアスタイルでのウェブシステムの構築と運用を行うと同時に、ITによる地域活性化をテーマに、様々な取り組みを実施。