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クラウドコンピューティング

OpenSocialという業界標準

Posted by Cloud BusinessAlliance ( 2010年08月03日 )

前回は「クラウドカオス」について述べた。様々なベンダーが独自ののアーキテクチャでクラウドのプラットフォームを提供している。そして、SaaSベンダーはそのプラットフォームの上にアプリケーションを構築するかもしくは、IaaS上の独自のアーキテクチャ上にアプリケーションを構築する。一方ユーザの立場からすると、使いたいサービスを組み合わせて使うことになるため、必然的にマルチクラウドの環境にならざるを得ない。そして、全てのシステムがクラウドに置き換わるまで、社内システムとクラウドシステムを柔軟に組み合わせて使うことになる。

これらをうまく組み合わせて利用するためには、マルチクラウドをマネージメントできる、アーキテクチャとアーキテクトが企業システムには必要となることもすでに述べた。しかし、そのアーキテクチャはどうやって構築すればいいのだろうか? もちろん、独自にアーキテクチャを一から設計する能力がある企業はそれでもいい。しかしながら、ほとんどの企業では一から作るということは難しい。なぜならば、企業システムというのは、それぞれの企業がもつミッションを遂行するための道具であり、システム自体がお金を生むことは少ないため、それらの構築に時間をかけることができないからである。

そこで、何かをベースにそのアーキテクチャを設計するということになる。もちろんアーキテクチャ自体を外から購入(調達)することも考えられるが、私の知る限り、商用のアーキテクチャをそのまま採用してうまく行っているところは少ない。やはり独自のカスタマイズを加えることになるからである。そこで注目したいのが「業界標準」というものである。業界標準をベースに独自のアーキテクチャを作ることにより、素早く、しかも柔軟なシステムの構築が可能になる。業界標準を取り入れることは大変重要である。

例えばHTMLを考えてみよう。現在では、HTMLはインターネットの標準技術となっている。これと同じようなものを一から設計し、自社で採用するとなると大変なコストがかかる。このHTMLは標準としてW3C(World Wide Web Consortium)で議論されている。標準であるからこそ、HTMLを取り入れるのに安心できるのである。例えばHTMLを扱うブラウザとしては、MicrosoftのInternet Explorer(略してIE)やオープンソースのFireFoxなどがある。どちらのブラウザでも、W3Cで標準化されているドキュメントを扱う限りは問題なく使える。そのため、企業システムでもHTMLを表現の言語としてシステム構築が行われてきた。安心できて、しかも素早く実現できることがポイントであったと思う。

ブラウザで扱うことができるが、HTMLとして標準化されていない技術を使った場合、例えばIEで扱えるActiveXを使ったシステムを作ってしまった場合、企業システムとしては業界標準から外れたシステムとなってしまう。IEでは動作するが、FireFoxでは動作しないシステムになってしまうわけだ。少し辛口の表現をすると、ActiveXを使ったシステムを構築してしまった企業は、アーキテクチャを無視し、アーキテクトを重要視しなかった企業であるといえる。それぐらい、どの技術を採用するかというのは重要なことなのである。もちろん、どうしてもActiveXでしか出来ないことが業務上必要であり、他のブラウザへの移行が出来ないことを知った上で導入をしたのであれば、それを批判するつもりはない。業界標準の技術でどこまで出来て、そしてそれを逸脱するとどういうリスクが存在するのかを知りながら、アーキテクチャを設計することは非常に重要である。

業界標準にはもう一つ役割があると思う。それは、技術者の確保である。独自の技術で作り上げられたアーキテクチャであるとすると、それらを理解できる技術者を確保することには限界がある。しかし、業界標準であれば別である。前述のHTMLを理解できる技術者を確保するのに困ることはないだろう。

さて、本題に入ろう。今回紹介するのは「OpenSocial」という標準である。もともとこの標準はGoogleがiGoogleの中で使っていたGadgetという技術が使われている。OpenSocialにはGadgetとSocial APIの2種類からなるが、今回はGadgetを話題にするため、OpenSocial Gadgetと呼ぶことにする。

OpenSocial Gadgetとは簡単にいうと、ミニWebアプリケーションを作成するための標準である。つまり、アプリケーションの一部が小さなウィンドウとして表示されることになる。例えば、1カ月ごとのカレンダーを表示するGoogle AppのCalendarのガジェットがあったとしよう。CBA(Cloud Business Alliance)のホームページにこのガジェットを組み込むことで、CBAのイベントカレンダーとして表示することが可能となる。これによりCBAのホームページとGoogle AppのCalendarがあたかも一つのサイトで作成されたかのように表示することが可能となる。

例えば、プロジェクト管理のサービスに企業内で利用できるTwitterのようなサービスを取り込めるとすると、サービスの幅が広がる。SFAのサービスに対して名刺管理のサービスを取り込むことも可能かもしれない。それぞれの得意分野を活かし連携することで更なるサービスの可能性が広がる。GadgetによるコラボレーションはSaaS業者のコラボレーションに直結することになるだろう。


これまで、ミニWebアプリケーションについてはいくつかの仕様が公開されてきた。1990年後半から企業ポータルにはこの様な標準化が必要であった。そのためJSR168, JSR286といった仕様がJavaのコミュニティ中心に標準化されてきた。一般にPortletと呼ばれているこの技術は、様々なポータルソフトでサポートされてきた。しかし、この標準はJavaのサーブレットをベースとして作られたものであるため、サーバサイドの環境としてはJavaの環境に依存する。先に述べたようにSaaSの環境ではそれぞれのベンダーがそれぞれのアーキテクチャに基づいて開発をする。例えばGoogle Appsの標準言語はPythonであるのに対して、Force.comではAPEX、Windows Azureにおいては .NETと、様々な環境下のシステムの連携が必要となる。このような、環境の中で言語に依存しない、クライアントサイドの仕様であるOpenSocial Gadgetは、まさにクラウド時代のポータルアーキテクチャと呼ぶことができる。

このOpenSocialの標準を企業内でも利用しようという動きがある。Enterpeise OpenSocial Whitepaper(http://www.opensocial.org/page/enterprise-opensocial)で説明されていて、IBM社やSAP社等が中心となって、現在あるOpenSocialの仕様の中に、企業向けの要件を盛り込んでいる。

これらの動きからすると、今後、社内のシステムも社外のシステム(SaaS)も同一の標準で連携することが可能となる。企業向けシステムを運用管理する人々にも見逃せない大変重要な標準となりつつある。このような標準化はここ20年ぐらいの歴史をみると消費者向けのITが先行してきた。1990年以前はコンピュータはまだ高価であり、産業界のITが進んでいたが、PCとインターネットが普及するにつれて、消費者向けのITの方が先行して、産業界のITがそれに続くという逆転現象が起きている。これを「産消逆転現象」と呼んでいる。メールにしても、ブラウザにしてもWeb2.0の技術にしても全て消費者向けITが先行してきた。OpenSocialの標準化も例外ではない。それ故にCBAではこの標準技術に注目をしている。

現在CBAでは次のような企業が参加をして、OpenSocial Gadgetを使ったSaaSのフロント連携の実証実験をおこなっている。そしてさらなるSaaSベンダーに参加を呼びかけている。

システムを連携する技術はいくつか存在する。データの同期を取る方法やSOAを使ってプログラム同士を連携させる方法である。どの方法も一長一短ある。例えばデータで同期をとる方法(ここではデータ連携と呼ぶ)はデータの意味が大変重要である。あるシステムAの顧客と別のシステムBの顧客は同じ意味を持っているとは限らない。Aは企業自体を顧客と呼んで、Bでは企業内の個人を顧客と呼ぶかもしれない。このように、データ連携を行う場合には通常、データの意味(セマンティック)を整理して、メタ情報管理をして、その後データ連携を行うというプロセスが必要となる。SOAにおいてはサービスの定義が必要になる。既にSOAの基盤を導入してる会社は行われていると思うが、そうでない会社がSOAの基盤を使って、クラウドの連携をするとなるとサービス定義を行った上で、連携を実装することになるだろう。
クラウドを利用する一つの理由としてスピード経営ということは前回述べた。しかし、そのクラウドを社内のシステムと連携するのに時間がかかってしまうと全く意味がない。もちろん、時間がかかってもデータ連携で処理しなければならないというケースもあるだろう。しかし、その間もビジネスは確実に動いている。したがって、ビジネスを動かすために素早く連携をおこない、その後じっくりと連携方法を模索していくというスピード連携基盤が必要となる。我々は、OpenSocial Gadgetを使った連携方法を、フロント連携と呼んでいる。フロント連携はビジネスにスピード与える連携方法である。CBAではそのような観点でも、OpenSocial Gadgetによるフロント連携に注目をしている。

戌亥稔 (いぬいみのる)

(株)ビーコンIT 執行役員 グローバル/クラウドビジネス本部長

 

米国フロリダ州フロリダ工科大学コンピュータサイエンス修士課程卒。二十数年のIT 業界での経験の中で、米国赴任、製品開発、ユーザ企業のシステム構築経験をもとに幅広い 視野で情報システム部のあり方を提唱する。Beaconユーザ会幹事も兼任しており、ユーザ企業との太いパイプをもつ。
出版物:実践XMLデータベース構築(2001/5)
TwitterID:minoru61

ビーコンIT

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