2005年1月、Webサイトのブランドチャンネルは、アップルコンピュータを「世界で最も影響力を持つブランド」と評した。むろん、ポータブル音楽プレーヤー「iPod」の世界的大ヒットがこうした評価をもたらしたわけだ。
もっとも、企業のオフィスを見渡すかぎり、こうした評価にすぐには同意できないかもしれない。企業のITマネジャーが自社のクライアントPCに選ぶのはもっぱらWindowsマシンであり、PCベンダーにとっても今日、最大の顧客は法人なのだから。
米国のIT市場調査会社IDCが発表した2004年のPC市場シェアで、アップルは10位にランキングされている。この順位は中国のレノボよりも2つ低いのだが、IDCがこの調査が実施したのは、IBMがPC事業をレノボに売却する前のことである。
クリエイティブ・ユースでは依然、Macの独壇場が続く
一方、出版やデジタル・コンテンツなどの分野では、依然、アップルが首位を独走している。グラフィック・デザイナーの83%、企業のデザイン部門の77%、さらには広告代理店の65%がMacを利用しているという結果が、米国の市場調査会社トレンドウォッチの調べで明らかになっている。
キム・ビキトラナンダ氏は、ダラス・モーニング・ニュースで800台のPCと250台のMacを管理する、デスクトップ・サポート・エンジニアである。Windowsにも出版業務で利用できるアプリケーションがあるのは認識しているが、「そうしたアプリケーションは、Windowsでは安定的に稼働しない。Macで利用するときほど速くないし、シームレスでもない。PCはMacの代替にはなり得ないということだ」と、同氏は述べている。
ホーム・デポでシニア・エンジニアを務めるブルース・コービー氏は、米国アトランタにある同社の本社オフィスで使用しているビデオ制作機器をアップグレードする際、Mac以外の選択肢は考えもしなかったと話す。「PCの採用を検討したことは一度もない。ビデオを制作するうえで、MacでできることがWindowsではできないのだ」(コービー氏)
結局、ホーム・デポのビデオ制作部門は、PowerPC G5を2個搭載した「Power Mac G5」(写真1)を標準採用することにした。このマシンは2GBのメモリを実装し、アップルのラックマウント型ストレージ「Xserve RAID」(写真2)上に4TBのアクセス可能領域を持っている。
またコービー氏は、ビデオ編集にアップルのビデオ・オーサリング・ソフト「Final Cut Pro」を利用しているという。同社のビデオ制作部門では、外部のフリーランサーを雇い、10分から45分のビデオを毎年300本近く制作している。内容は多岐にわたり、社内スタジオでCEO(最高経営責任者)のプレゼンテーションを録画することもあれば、フォークリフトの安全運転を呼びかけるプログラムを倉庫で撮影することもある。コービー氏によると、フリーランサーの「ほとんどがMacを利用している」そうだ。そして、同氏自身ももちろんMacのヘビー・ユーザーである。
コスト・パフォーマンスでデル製品をしのぐ?
UNIX系OSへと変貌を遂げて登場したMacの現行OS、Mac OS Xは、膨大な処理能力を必要としていた科学者の間でも注目を集めるようになった。米国ピッツバーグ大学で遺伝子を研究しているビル・ヴァン・エッテン氏は、Macが科学者の“お気に入り”になったのは、使い勝手がよいうえ、UNIXの科学系アプリケーションをそのまま利用できからだと話す。「科学研究者としては、UNIX以外のOSにはいかなる価値も見いだせない」(エッテン氏)
Mac OS XはUNIXそのものではない。だが、ユーザー・インタフェースや管理ツール・コードを別にすれば、事実上、オープンソースUNIXと呼んでも過言ではない。Mac OS Xのソース・コードは、OpenDarwinプロジェクトのWebサイト(http://www.opendarwin.org/)でだれもが参照することができる。アップルでは、Mac向けのApache、MySQL、JBossなど、80に上るオープンソース・プロジェクトのソフトウェアを、同社製ハードウェア上で利用できるように調整を進めている。
MacでUNIXアプリケーションが利用できるという事実は、ユーザーにとって確かなメリットである。「科学者は、自身の研究のために、UNIXアプリケーションを山ほど使用しなければならない」と語るのは、チルドレンズ・ホスピタル・オブ・オークランド・リサーチ・インスティテュート(CHORI)のシニア・システム・アナリスト、ベン・ヘインズ氏だ。CHORIは、米国立衛生研究所から研究助成金の提供を受けている組織の中でも、トップ10に入る研究所である。
また、エッテン氏も、「WindowsでUNIX環境を構築するのは技術的には可能だし、アプリケーションも動くことは動くだろう。だが動作は遅く、不安定で、問題だらけだ」としている。
生物科学研究所ブロード・インスティテュート(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)でデスクトップ・サポート・チームのリーダーを務めている、スタン・ダイアモンド氏によれば、研究所のデータセンターにあるサーバの95%がUNIXベースで、そのうち20%がMacだという。UNIXがベースでなければ、オラクルは同社の「Oracle 10g」をMacに対応させなかっただろう。米国オラクルのワールドワイド・アライアンス&チャネル部門ディレクター、サンジャイ・サドゥー氏は、「われわれは、Mac OS Xというプラットフォームを重要視している。現行バージョンの洗練された機能は、実にすばらしいものだ」と述べている。同氏はさらに、アップルが科学研究やクリエイティブ/アート分野、教育分野で支配的な立場を確立していることに触れ、オラクルもここに注力して利益を享受したいとした。オラクル自身も自社のデータセンターにXserveを導入して、4,000名の従業員が利用する電子メールやボイスメール、カレンダー機能を提供する「Oracle Collaboration Suite」を稼働させている。
Macを利用することで、オラクルはコスト削減効果も得ている。デュアルCPU搭載ながら低価格のXserveは、デルの「PowerEdge 1850」とも十分競合できる製品だ。PowerEdge 1850は、2.8GHzのXeonプロセッサ2個と2GBのメモリを搭載し、SCSIベースのストレージは600GBの容量を備える。Windowsライセンスが25ユーザー分同梱されて、デルの直販サイト上の価格は、2005年1月時点で1万2,717ドルとなっていた。
一方、Xserveは2.3GHzのPowerPC G5プロセッサを2個搭載、RAMは2GBで、580GBのATAストレージを利用できる。Mac OS Xの使用クライアント数は無制限となっている。この内容で価格はわずか6,299ドルという破格ぶりだ。
Linuxを稼働させる場合でも、Xserveを利用した方が安くつく。Linux愛好家でもあるピッツバーグ大学のエッテン氏が、120ノードのサーバ・クラスタ・システムにXserveを採用したのも、コスト・メリットが大きいという理由からである。企業のIT部門にとってMacは、今や彗星のごとく出現した“低価格ソリューション”となったのだ。
「Windowsよりセキュアである」という選択理由
マーク・ジェフリー氏は、米国サンフランシスコ南部で数十億ドル規模のバイオテクノロジー研究を展開するジェネンテックで、2,500台におよぶMacクライアントを管理している。シニア・システム・スペシャリストの肩書きを持つジェフリー氏によれば、同社では、科学者が純粋に研究を行ったり、役員が表計算シートで財務計算を行ったり、実にさまざまな目的でMac OS Xが利用されているという。
ジェフリー氏は、今日の企業IT市場でMacがニッチな立場に追い込まれたのは、Windows至上主義を奉じる企業のIT部門が、「この個性的なOSを除外しようと常にあら探しをしてきた」からだと指摘する。だが同時に、このところMacのテクノロジーとこのプラットフォームを取り巻く環境は様変わりしており、少数の特定分野でしか利用されていないという現状は、早晩改まるだろうとも述べた。
第一に、Webサービス・アプリケーションが、従来のクライアント/サーバ・アプリケーションに完全にとって代われば、Windowsに依存する理由も少なくなり、Windowsマシンの需要も減少する。第二に、「マルウェア(悪質なソフトウェア)」の存在がある。2003年、ジェネンテックの競合ベンダー数社が、Windowsのセキュリティ上の脆弱性を突いたウイルスの攻撃を受け操業を一時停止したことがあった。Windowsのみを利用していたのが災いしたのだ。このときジェネンテックは、いっさい影響を受けなかったという。同社の幹部もこの件に注目し、Macを継続的に利用することが改めて確認されたそうだ。
「防弾チョッキ並みとまではいかないが、やはりMacは安全であるということを再確認した。Mac OS Xはインターネットの普及後に登場したOSで、初めから安全であるように設計されている。一方、Windowsのデザインは機能重視で、セキュリティはおざなりにされている」(ジェフリー氏)
CHORIのヘインズ氏も、どうやらジェフリー氏と意見を同じくするようだ。「私もMacのほうが安全性は高いと思う。ウイルスが発見されたとしたら、まず、だれかが感染したWindowsのノートPCをネットワークに接続したことを疑う」と続けた。
CHORIが保有する数百台のマシンは、半数がMacで残りはWindowsとなっているが、ヘインズ氏はMacを使用してネットワークのフロントエンド、すなわち社内と社外の境界を安全に保っている。CHORIのメール・サーバやWebサーバは、すべてMac OS Xシステム上に構築されている。メール添付型ウイルスをはじめとする、あらゆるマルウェアは、社内LANへ到達する前にMacで構築されたフロントエンドで阻止されるというわけだ。
「インターネット・サーバを選ぶのなら、Macが最善手である」と、ヘインズ氏は断言した。
洗練されたユーザー・インタフェースがもたらす管理性
Macのテクニカル・サポートに従事する人々は、Windowsより管理がはるかに楽だと口をそろえる。例えば、ジェネンテックが先ごろMacとWindows両方のシステムをアップデートした際、一方の技術者は1日に6台のOS Xマシンを更新できたが、Windowsのほうは、1日に2台、よくて3台のPCでしか作業を完了させられなかったそうだ。同社全体では、7人の技術者が約2,500台のMacを管理保守しているという。
ITコンサルタント会社のデジタル・ストラータ(米国カリフォルニア州スコッツバレー)では、ビジネスの80%がWindowsを利用して営まれている。同社社長のダン・フィシュラー氏は、同社では1人の技術サポートスタッフが50から75台のMacを管理できるが、Windows PCだと、せいぜい20から25台が限度であると話す。
単一のベンダーが開発したMacでは、ハードウェアとソフトウェアの統合が高次元で行われているから、管理性にすぐれていると、航空宇宙デザイン会社のエアロバイロメント(米国カリフォルニア州モンロビア)のITサポートエンジニア、ギャリー・ウィンターボーア氏は指摘する。例えば、ユーザーは、Xserveに標準装備される「Server Assistant」ツールを1回クリックするだけで、マシンのセットアップが行われる。また、このツールを利用すれば、各ユーザーが自分用にカスタマイズした機能を、マウスのクリックだけでオンにしたりオフにしたりできる。
現在のところ、MacがWindowsに代わって、企業のデスクトップPCの標準プラットフォームになると考える者はいない。しかし、アップルは一部の市場において、熾烈な競争に打ち勝ち他を圧倒することができた。そして今では、インターネット・サーバをはじめとする、企業サーバの有力な選択肢としても、その存在感を増しつつある。Mac OS Xの1年半ぶりのメジャー・バージョンアップとなる「Tiger」(画面1)のリリースが目前に迫っているが、Tigerのリリース後、「エンタープライズMac」の動きはさらに加速するものと筆者は見ている。