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【解説】
ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む[HDD編]

テラバイト領域に突入したハードディスク――垂直磁気記録方式、TMRヘッド、パターンド・メディア……

(2008年02月22日)

さらなる高密度化を実現する「パターンド・メディア」

 垂直磁気記録方式の記録密度をさらに高める方法として注目されているのが、磁性体を非磁性体で区切ることで微細化する「磁性ドット方式」である。磁性ドットを作成する方法としては、電子線描画/エッチング式、ポリマーの自己組織的な偏析(物質中の不純物などの分布が不均一になる現象)を利用する方法などが提唱されている。

 山形富士通では磁性ドットの作成にアルミナ(酸化アルミニウム)の「ナノホール・パターンド・メディア方式」を採用、科学技術振興機構の助成を受け、富士通研究所、神奈川科学技術アカデミー(KAST)、首都大学東京益田秀樹研究室と共同研究を進めている。

 この方式はアルミニウムの表面に微細な穴(ナノホール)を作り、そこに磁性体を充填するというもの(図4)。この穴はメディアに垂直方向に形成されるため、磁性体は垂直に磁化されやすい。また厚みを増すことでビット体積を大きくできるので、熱揺らぎに強い。さらに、ナノホールに充填された磁性体は相互に離れて存在するため、影響し合うことが少なくなる。


図4:ナノホール・パターンド・メディア

 ナノホールは、アルミニウムを電解酸化(陽極酸化)させてできる酸化アルミニウム(アルミナ)の膜上に作られる。このアルミナの穴は、日本で開発された「アルマイト処理」として、古くからアルミニウム製品の表面着色や耐食性向上のために用いられてきた。ナノホールが生成されたアルミ板に磁性金属であるコバルトを電気メッキで充填し、表面を研磨するとナノホール・パターンド・メディアの完成となる。穴の周期(ピッチ)は、数百〜10nmまで、陽極電圧によって制御することができる。

 現在、開発が進められている次世代大容量ハードディスク・メディアの記憶密度は、1平方インチ当たり1テラビットを目指している。これには25nm間隔でナノホールを生成する必要がある。

 ただし、ナノホールの間隔以外にも問題はある。従来の方法で電解酸化を行うとナノホールが膜上に均一に生成されてしまうのだ。これでは、円周方向に沿って磁気記録を行うハードディスクには適さない。

 そんななか、電解酸化する前にアルミ表面にすじ状の窪み(凹凸パターン)を付けておくと、ナノホールがその窪みに沿って成長するという発見(1997年)に注目が集まった。つまり、特定の方向にナノホールを作ることができる秩序配列技術の発明である(図5)。


図5:ナノホールの分布

 2006年には秩序配列技術に改良が加えられ、円周方向に(すじ状の窪みに沿って1列に)ナノホールを並べる1列配列技術に成功した。

ナノホールの2列配列技術で25nmピッチを実現

 しかし、1列配列技術では45nmピッチが限界であり、25nmピッチの実現は困難だった。ところが、KASTでこの限界を突破する技術が開発された。2007年1月に発表された2列配列技術である(図6)。これは陽極酸化条件を操作することにより、窪みの壁に沿って2列のナノホールを形成するものだ。つまり、50nm間隔の凹凸パターンを作れば、25nm間隔でナノホールを生成させることができる。


図6:ナノホールの1列配列技術と2列配列技術

 この発表について富士通研究所ストレージ研究所専任研究員兼山形富士通磁気媒体統括部統括部長付/厚木分室長の伊藤健一氏は次のように語る。

 「凹凸の間隔が50nmピッチで、溝の両側にナノホールが形成され、ナノホールの平均間隔は25nmピッチを達成した(写真1)。長さ方向も平均25nmピッチになっており、ナノホール形成のポテンシャルとしては1平方インチ当たり1テラビットを実現できるめどがたった」

写真1:ナノホールの電子顕微鏡写真

 当初、この凹凸パターンはダイレクト・インプリントと呼ばれるプレス法によって生成されていた。凹凸が逆になったSiC(炭化シリコン)製のモールドを作り、アルミ表面に1平方cm当たり数十トンという圧力で押し付けることによって微細な凹凸を刻印するのだ。

 だが、この方法では作業効率が低く、モールドの損傷も激しいので大量生産には適していない。研究グループではダイレクト・プリントに代わるナノ・インプリント・リソグラフィ法を用いることで、アルミ表面にナノメートルサイズの凹凸パターンを作ることに成功した。

 これは、アルミ表面に樹脂の皮膜を作り、それにモールドで溝を切り、エッチングしてから電解酸化処理を行うというものだ。工程が複雑にはなるものの加圧が不要で、製品化に不可欠な大面積のアルミ板への処理も可能になるという。

 ただし、パターンド・メディア技術によって、ディスク円盤に1平方インチ当たり1テラビットの記憶容量を実現したとしても、それがすぐに超大容量ハードディスクにつながるわけではない。ハードディスクの大容量化にはメディアだけでなく、磁気ヘッド、制御系、電子回路などの改良が同時に実現されなければならない。

 現在製品化されている磁気ヘッドは100nmピッチまでしか読み書きができない。1平方インチ当たり1テラビットを実現するためには、磁気ヘッドも25nmピッチの読み書きに対応したものが必要になる。

 また、その磁気ヘッドの位置の制御も重要だ。物理的にどのセクタを読み書きするかは、磁気ヘッドの位置とスピンドル・モーターの回転角で決まるからだ。メディアが高密度化されるということは、当然ながらシリンダーの間隔も狭くなり、磁気ヘッド位置の制御もきわめてシビアになる。こうした課題に向けた開発も進められている。

市場に相次いで投入される大容量ハードディスク

 1平方インチ当たり1テラビットという高密度ハードディスクが製品化されることで、私たちの生活やビジネスはどう変わるのだろうか。

 1平方インチ当たり1テラビットという記録密度を持つハードディスクが実際に商品化されるのは2011年ごろではないかと伊藤氏は見ている。3枚のディスクを使った2.5インチのハードディスクで2TBの記憶容量が実現するという。

写真2:シーゲイトの1TBハードディスク「Barracuda」の内部

 伊藤氏はまた、「1台で100本以上のハイビジョン映像ライブラリーを保存できる10TBハードディスク・レコーダー、12時間以上の長時間にわたってハイビジョン撮影が可能な600GBの記憶容量を持つ家庭用カムコーダー、2TBのハードディスクを内蔵し、ハイビジョン映像の編集も簡単にできるノートPCなども可能になる」と語っている。

 研究室レベルでは、すでに1平方インチ当たり1TBを超える、さらなる大容量ハードディスクの研究も行われているという。

 伊藤氏によれば、「益田教授の研究室では13nmピッチ、1平方インチ当たり4テラビットのポテンシャルがある記憶メディアを、小さい面積だが、すでに実証している」ということだ。

 現在、市販されているものは記録密度で言えば1平方インチ当たり200ギガビットといったもの。2007年1月、日立グローバルストレージテクノロジー(日立GST)とシーゲイトは相次いで1TBの記憶容量を持つ3.5インチ・ハードディスクを発表した。日立GSTの「Deskstar 7K1000」はディスク枚数が5枚、これに対してシーゲイトの「Barracuda 7200.11」(写真2)はディスク枚数が4枚である。よりいっそうの高密度化が進んでいるとともに、ディスク枚数が減ることで消費電力低減も実現している。

 ハードディスクの高密度化、大容量化は今後もとどまることがなさそうだ。

COLUMN
大量のデジタル情報を扱うハードディスク市場は拡大していく

2007年1月、ついに1TBの記憶容量を持つ3.5インチ・ハードディスクが登場した。編集部は、1TBハードディスクを投入したシーゲイトジャパンから、大容量ハードディスクの今後の使われ方や次世代ハードディスクの動向などについてコメントを得た。

 

──開発のうえで、どのような点に苦労したか。

シーゲイト:従来の長手記録方式では限界だった記録密度を高めるため、垂直磁気記録方式を採用したが、これまでとはまったく異なる方式であるため、軌道に乗るまでは記録密度の伸び悩みや量産への対応に苦労した。

──市場の反応はどうか。

シーゲイト:デジタル・データは、企業よりも個人によって生成される割合の方が大きくなった。ストレージ容量は大きいほどよく、垂直磁気記録がもたらす記録密度はすでに不可欠だ。今後のハードディスクは垂直磁気記録方式に確実にシフトする。弊社ではすでに、第2世代の垂直磁気記録製品を投入している。

──今後のロードマップは。

シーゲイト:垂直磁気記録方式の次の技術についてもさまざまな研究が進められているが、しばらくは垂直磁気記録方式でさらに記録密度の向上を目指すことになるだろう。

──大容量化と小型化、どちらが主流になるのか。

シーゲイト:エンタープライズ市場では小型化(2.5インチ)への移行が加速している。それは、サーバなどの運用に必要とされる電力消費の低減が昨今の環境問題、エネルギー問題を背景に、ユーザーの大きな関心事となっているからだ。

──大容量ハードディスクによってPCや情報家電はどう変わるか。

シーゲイト:ユーザーが高品質の画像、映像、音楽などをより大量に、高速に扱うことができるようになる。ハードディスクへの需要も維持されるだろう。最近のフラッシュメモリの台頭により、超小型(1インチ、1.8インチ)市場でのハードディスクの劣勢は否定できない。しかし、大量のデジタル情報を収集、操作、流通、保存するストレージとしてハードディスク市場は拡大していくと思われる。

──次世代ハードディスクの動向は。

シーゲイト:ハードディスク1台当たりの容量競争が製品の優劣を決める唯一の判断尺度ではなくなり、ユーザーのニーズに対応した製品開発がカギとなる。今後は、例えばフラッシュメモリを搭載したハイブリッド・ハードディスク、データの暗号化機能を備えるハードディスク、過酷な温度や湿度の環境下に耐えるハードディスク、低消費電力のエコ・ハードディスク、ストレージ用のニアライン環境を考慮したファームウエア設計など、多様な視点が求められる。なおかつ、より信頼性が高く、より低価格な製品が求められるだろう。

※[メモリ編]に続く


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