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ROI(投資利益率)で決める「SaaSか? 自社運用か?」

フォレスターの「TEI」メトリクスによって算出したROIを基に比較

(2007年04月24日)

SaaS(Software as a Service)モデルが注目を浴びるなか、ソフトウェアを導入するに際して、SaaSを利用するか、自社運用でいくかで迷っているITマネジャーも少なくないだろう。とかく、コスト・メリットが強調されがちなSaaSだが、自社運用と比較する場合には、コストに加え、ビジネス上のメリット、柔軟性、リスクの違いも考慮する必要がある。本稿では、この4項目によってITの経済効果を評価する米国フォレスター・リサーチの「TEI」メトリクスに基づいて、50、100、250、500ユーザーの4つの企業規模ごとに、SaaSと自社運用ソフトウェアのどちらが有利かを検討する。

レイ・ワン
米国フォレスター・リサーチ
エンタープライズ・アプリケーション/ビジネス・プロセス・プラットフォーム
プリンシパル・アナリスト

SaaSのコスト効果測定を
可能にする評価手法「TEI」

 SaaSは今やCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ソフトウェアの分野における重要な選択肢の1つとなっている。さらに、ここにきて、CRMに加え、ERP(Enterprise Resource Planning)やSCM(Software Configuration Management:ソフトウェア構成管理)などの分野においてもSaaSに関する関心が高まっている(図1)。

図1:SaaSに関する調査結果
*資料:米国フォレスター・リサーチ「Business Technographics 2005年11月:北米およびヨーロッパにおけるエンタープライズIT予算/支出調査」

 だが、SaaSの経済的価値、つまりROI(Return On Investment:投資利益率)を包括的かつ正確に評価するためのツールが見当たらないために、運用をためらっているITマネジャーもおられるだろう。そこで、米国フォレスター・リサーチでは、TCO(Total Cost of Ownership:所有総コスト)に代表される従来のコスト効果の算定方法よりもすぐれた手法である「TEI(Total Economic Impact:総合経済効果)」のメトリクスを用いてROIを算出することによって、SaaSと自社運用とコスト効果を比較することにした。

 TEIにおいては、コスト(TCO)、ビジネス上のメリット、柔軟性を洗い出し、それらにリスクを加味した形で、ITのコスト効果が算出されるため、企業のIT/IS部門とITベンダーの双方にとって利用価値がある。

コスト、メリット、柔軟性、リスクで
SaaSと自社運用を比較

 実際に、TEIによってコスト、ビジネス上のメリット、柔軟性、リスクから算出したROIに基づいて、SaaSと自社運用ソフトウェアを比較してみたところ、両者には、各評価項目において、以下のような差異が存在することが判明した。

コスト

 まず、ライセンス方式を比較した場合、自社運用ソフトウェアにおいて一般に採用されている永久方式は、SaaSにおいて採用されているサブスクリプション(一定の期間に対して使用料金を支払う)方式よりも初期投資がかさむ。

 加えて、自社運用は、ハードウェアの保守、バージョンアップ、ユーザー・サポートのコストもかかるが、ほとんどのSaaSではこれらのコストはサブスクリプションの料金に含まれることになる。

 一方、SaaS特有のコストとして考えられるのは、モバイルやオフライン・アクセスといった追加機能、業種固有の機能、規定の容量を超えるストレージ容量、プレミアム・ヘルプデスク・サポートの料金などである。

 これらを基に長期的にコストを比較してみると、自社運用のほうが1年当たりのコストは低いものの、8年目には初年度の導入コストの約65%にも及ぶバージョンアップ/コストが発生する。

ビジネス上のメリット

 SaaSによって得られるビジネス上のメリットは、導入後すぐに利用可能であること、バージョンアップが自動的にかつ短時間で行われるためIT/IS部門の手間が省け、使い勝手が向上することなどである。

 一方、自社運用のほうには、SaaSよりも統合性にすぐれており、特にリアルタイムでの統合を重視する場合には他のアプリケーションと容易に統合できるという強みがある。

 フォレスターとしては、バージョンアップ時のサービス中断の有無、導入と変更管理に要する手間、使い勝手の点などから見て、全般的にSaaSのほうがメリットが大きいと見ている。

柔軟性

 拡張性、技術的な柔軟性、設定の容易さの点では、自社運用とSaaSは同レベルである。

 しかし、自社運用では統合性がすでに実証されているうえ、カスタマイズ用のツールセットが豊富であり、設定を自社のニーズに合わせてカスタマイズすることができる。

 一方、SaaSは自社運用への移行、ITスタッフの削減が可能なほか、帯域幅の限られた環境でも導入しやすいなど、技術面での柔軟性が高い。

 つまり、SaaSと自社運用の柔軟性はトレードオフの関係にあるため、柔軟性においてはほとんど差がないというのがフォレスターの結論である。

リスク

 SaaSの主なリスクは、社内で管理できない、統合性が低い、垂直化に制限がある、カスタマイズができないなど、主に環境面に関するものである。

 一方、自社運用のリスクには、展開の複雑さ、教育の必要性、サポートの問題など、導入面におけるリスクが多い。

 これらを考え合わせると、自社運用のほうがSaaSよりもリスクの程度は若干大きいと言える。

Column
SaaSと自社運用ソフトウェアをROIで評価する際のアドバイス

 本文でも説明しているように、SaaSと自社運用とは、TEIなどのメトリクス/ツールを使うことによって厳密に比較することができる。SaaSと自社運用の相対的なメリットを比較する場合には、次の点に着目するとよい。

■ROIを10年単位で評価する

 ソフトウェアのライフサイクルは7〜10年であり、通常は購入してから7、8年目にバージョンアップを行うことになる。このため、ROIを算出する際には、ソフトウェアのライフサイクルを踏まえ、10年間を対象とすべきである。

■本社と遠隔地のユーザー数の比率に注意する

 一般に、ユーザー数が増えるほど、自社運用のほうの経済的メリットが高まる。ただし、ユーザー数が多くても、複数の拠点を有しており、遠隔地のユーザーが25%以上に上るような企業の場合は、SaaSのほうが有利である。よって、ユーザー数を算定する際は、本社のユーザーと遠隔地のユーザーの比率に注意されたい。

■過去の結果を基に仮定を調整する

 メリット、リスク、柔軟性といったTEIの評価項目に対して適切な要因を適用するために、過去に導入したアプリケーションについても分析を行う。

 そのようなデータが存在しない場合には、会社の規模と業種に見合ったベンチマークを利用する。例えば、フォレスターのモデルを活用すれば、TEIと累積コストを決定することができる。

■ハイブリッド・モデルを検討する

 自社運用とSaaSを比較する一方で、両者を切り替えることが可能なハイブリッド型を利用することについても検討する。その際には、自社運用の特徴であるコントロールとカスタマイズが可能な点と、SaaSの特徴である将来の拡張性と柔軟性が確保できる点とのバランスをとることに配慮する。


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