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【解説】

「PaaS――サービスとしてのプラットフォーム」の可能性

“20年来のネットワーク・コンピューティング構想”の実用度を探る
(2008年04月18日)

SaaS(Software as a Service)モデルによるSFA(営業支援)/CRM(顧客関係管理)アプリケーションで急成長した米国Salesforce.com。同社が2007年7月に発表した「PaaS(Platform-as-a-Service)」というコンセプトは、SFA/CRM市場にとどまらない、企業IT全般にかかわる重要なパラダイムになりうる可能性を持っていると筆者は考えている。本稿では、ネットワーク・コンピューティングの進化過程におけるPaaSの位置づけを確認し、このコンセプトの可能性を探ってみたい。

PaaSの基本的な考え方

 Salesforce.comは2007年7月、PaaS(Platform-as-a-Service)という新しいコンセプトを発表した。これは、ソフトウェアをネットワーク・サービスとしてインターネット経由で提供するSaaS(Software as a Service)の考え方に加えて、アプリケーション・プラットフォームをネットワーク・サービスとして提供しようという考え方だ。

 このPaaSに関して、現時点では、市場においてまだ高い注目を集めているとは言えない状況である。だが筆者は、このコンセプトがSaaSやCRM(顧客関係管理)といった特定の市場だけではなく、企業ITの全般にかかわる重要なパラダイム・シフトの先駆けであると考えている。

 PaaSにより、ユーザー企業はSaaSプロバイダーが提供する特定のアプリケーションだけではなく、自社開発のアプリケーションをSaaSプロバイダーが運営するデータセンター内のインフラストラクチャ上で稼働させることが可能になる。そして、従量制課金や迅速な展開など、SaaSならではのメリットを、プラットフォームやインフラの利用全体で享受できるようになる。

 SaaSや、それとほぼ同義と考えられるASP(Application Service Provider)モデルの大前提は、同じアプリケーションを複数のユーザーに提供することでスケール・メリットを実現するということであった。ゆえに、アプリケーションごとの独自のカスタマイズは限定的なものとなる。したがって、独自性が必要であれば、独自アプリケーションを構築し自社内で稼働する/独自性が必要でなければSaaSないしはASPを検討するというトレードオフが存在したわけだが、PaaSにおいては今後、このトレードオフが必ずしも成り立たなくなるだろう。

 そもそも、PaaSの発想は、Salesforce.comが従来とってきたオンデマンド・アプリケーションのカスタマイズ戦略の延長線上にあるものだ。同社はこれまでも、CRMアプリケーションである「Salesforce CRM」のカスタマイズ性を継続的に高め、ユーザーに提供してきた。PaaSという新しい概念、そして、それを具現化した「Force.com」プラットフォームは、独自アプリケーションの開発が行える程度までにSaaSアプリケーションのカスタマイズ性が高まったものだと考えてよいだろう。

アプリケーションの全スタックをネットで提供

 Force.comでは、インフラ、データベース、SOAP(Simple Object Access Protocol)ベースのインテグレーション、ユーザー・インタフェースなどのスタックがすべてネットワーク・サービスとして実現されている。ユーザーの視点からは、OSと開発環境を含むコンピュータがネットワーク上にあると考えることができる。

 ネットワーク上にあるサービスを呼び出して使うという点で同様の動きとして米国GoogleやAmazon.comなどのインターネット企業が提供するWeb APIのモデルがある。Web APIにおいては、アプリケーションの本体はユーザー側にあり、ネット上のサービスを適宜呼び出して利用するのに対して、PaaSモデルでは開発環境を含むアプリケーションとプラットフォームの本体がすべてプロバイダー側にある点が異なる(図1)。


図1:コンピューティング・モデルの比較(従来型、Web API、PaaS)

 かつては、業務アプリケーションの開発プラットフォームの淘汰が進み、最終的には、.NETとJavaが2大開発プラットフォームになるとの予測が聞かれた。しかし、この2つの開発プラットフォームに加えて、PaaS系の開発プラットフォームが第3の選択肢として普及していく可能性も十分にあるだろう。

 このようなPaaSの仕組みは、ネットワーク上のサーバ群が、あたかも自社サイト内のコンピュータとして機能するようなものと見なすことができる。1988年に、米国Sun Microsystemsが提唱したスローガンである「Network is the Computer」が現実のものになろうとしていると言ってもよいだろう。

 なお、同様のコンセプトとして、「プログラマブルWeb」という呼称が用いられることがある。また、最近では「クラウド(Cloud)コンピューティング」というメタファーもよく聞くようになった(ただし、クラウド・コンピューティングについては、グリッドと同義で使われるケースもあり、現時点での定義は混乱している)。

 いずれにせよ、こうしたトレンドは突然発生したものではなく、ネットワーク・コンピューティングの20年以上にわたる進化の過程で出来上がってきたメガトレンドであり、今後も、着実に進展していくことが予想される。そして、正に今が変曲点と呼べる段階にきているのかもしれない。

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