「ビジネス・ソフトのeBayを目指す」──セールスフォースのベニオフ会長
オンデマンドCRMアプリケーションのグローバル展開などにより、年商5億ドルを超えるITベンダーに成長したセールスフォース・ドットコム。同社が開催した「Dreamforce '06」コンファレンスでは、オンデマンド開発プラットフォーム「Apex」をはじめ、SaaS(Software as a Service)戦略を展開するためのさまざまな技術や施策が明らかにされた。セールスフォースの会長兼CEO、マーク・ベニオフ氏に、オンデマンド・プラットフォームの戦略とSaaSのビジョンについて話を聞いた。
チャイナ・マーテンス/IDG News Service ボストン支局
米国オラクルの会長兼CEO、ラリー・エリソン氏が基調講演であわてる姿など滅多に見られることはない。しかし、10月末にカリフォルニア州サンフランシスコで開催された「Oracle OpenWorld」コンファレンスでは、セールスフォースをはじめとするオンデマンド企業への対抗策について質問を浴びせられた同氏が、答えに窮する一幕が見られた。
セールスフォースのマーク・ベニオフ会長兼CEOは、講演会場からわずか数ブロック離れた場所にあるオフィスで、エリソン氏のそうした“気まずい場面”をインターネット・ライブでながめていた。その際のベニオフ氏の様子はとても満足そうに見えた。
セールスフォースがその定義づけに貢献したSaaS(Software as a Service)市場でのオラクルの位置づけについて、前職の上司(ベニオフ氏は1999年セールスフォース設立以前の13年間オラクルに勤務していた)であるエリソン氏が答えに窮していたからだ。
ちなみに、エリソン氏はその質問に対し、オラクルのSaaS事業はセールスフォースのそれと同じ規模だと説明、顧客数を2,000と回答した。同氏はオンデマンド・ソフトウェアについて「非常に重要」としながらも、将来的にすべてのソフトウェアがホスティングされるという論議は「無意味である」と強調した。一方、オラクルとは異なるアプローチを採用するベニオフ氏は、オンデマンド・アプリケーションこそが将来のあるべき姿だと断言する。
IDGニュース・サービスの質問は多岐にわたったが、ベニオフ氏はセールスフォースのビジョン、競合、顧客戦略について快く語ってくれた。以下、インタビューの概要を紹介する。
「シーベルは自社技術に固執しすぎた」
──セールスフォースは最近、オンデマンド・プログラミング開発プラットフォーム「Apex」を顧客向けに提供すると発表したが、この市場で何を試みようとしているのか。
当社は現在2万5,000の顧客を擁している。設立以来、営業支援機能の中核となるSalesforce Automationの提供を皮切りに、CRM(Customer Relationship Management)プラットフォームを展開してきたが、顧客は、さらに深いレベルでの“カスタマイズ”と“統合”を求めるようになった。具体的にそれが何を意味しているのかについて、私自身もなかなか確信を持つことができなかったが、「自分たちの情報のすべてをオンデマンドで管理したい」という切実なニーズをようやく理解できるようになった。
われわれは「ビジネス・ソフトウェアのためのeBay」と言われるようなオンデマンド・コンピューティング・プラットフォームの提供者になることを目指している。顧客は独自にすべての機能を構築したり所有したりすることは望んでいない。例えば、Googleには素晴らしい地図があり、Yahooも同様のサービスを提供している。われわれは独自に地図をビルドするのではなく、彼らの地図をマッシュアップしたいと考えている。
顧客がこれまで行ってきたCRMへの投資の効果を最大限に生かせるこれまでにない機能を提供することによって、こうした顧客の切実なニーズに応えていきたい。シーベル(オラクルが今年1月に買収を完了)は、自社のCRM技術に固執しすぎたために柔軟性を欠いてしまった。
──将来的にCRMソフトウェアの販売を止める可能性はあるのか。
当社は現在、独立系のCRMソフトウェア・ベンダーとして、またオンデマンド・プラットフォーム・ベンダーとして市場をリードしている。もちろん、CRMには今後も携わっていくつもりだ。当社最大の顧客であるシスコも以前はシーベル製品を採用していたが、今ではSalesforceユーザーは7,500人に上っている。メリルリンチでもSalesforceユーザーは5,000人以上になった。
──顧客企業の平均規模はどの程度か。
ずるい答えになってしまうが、そもそも平均規模というのは算出できない。当社はすべての顧客を同一のデータベースとサーバで管理している。小規模企業を従業員数1〜100人、中規模企業を100〜1,000人、大規模企業を1,000以上とすれば、顧客の内訳はそれぞれ3分の1ということになる。これは素晴らしいことだと言える。市場の違いに関係なく、当社のビジネスは成長し続けることを意味しているからだ。
日本でもデータセンター設置を検討
──グローバル展開の現状に満足しているか。
まだまだ投資する必要がある。将来的に当社のすべてのビジネスをグローバル展開していきたいと考えている。
──計画していた2つのデータセンターはすでに稼働を開始しているのか。
すでに2つとも稼働している。西海岸のデータセンターは、東海岸のデータセンターのミラー・サイトとして機能し、サンノゼ(西海岸)のデータセンターが何らかの理由で稼働できなくなったとしても東海岸のデータセンターで補完することができる。
──グローバル投資の一環として、米国以外にデータセンターを設置する必要が出てくるのでは。
現在検討中で、スイスと日本が候補に上がっている。ただし、まだ正式決定はしていない。
──今年初め、オープンソース・ベンダーの幹部が、各社の事業が急拡大するにつれてセールスフォースのサブスクリプションがかなり高額になってきたと苦言を呈したことが報道されたが、それに対してどうこたえるのか。
主要オープンソース・ベンダー各社は、活動の場をグローバル市場に広げるためにSalesforceを選択した。彼らは予算を十分に検討したうえで当社の製品に決定したはずだ。契約内容に関しては、個々の顧客と絶えず交渉している。当社は顧客との信頼関係を最も重視する企業であり、完璧とはとはいかないかもしれないがかなりのレベルでそれを実現できていると思う。顧客を失ったことはこれまで一度もないし、SLA(サービス・レベル契約)を交わしている顧客もかなりの割合に上っている。
──「かなりの割合」とはどの程度か。
SLAを交わしている企業は数千に上る。5,000人のユーザーを抱えるメリルリンチも含まれており、SLAベースの高度なメンテナンスを当社に期待している。
──オラクルのオンデマンド戦略をどう見るか。
オラクルのラリー・エリソン氏は当社の株を400万株保有している。彼は、オンデマンドに未来がある強調しているし、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏もそのように話している。ただし、SAPのヘニング・カーゲルマン氏は一度もそう言ったことがない。トップ3社のうち2社がオンデマンドが必要不可欠だ明言しているわけだ。
SAPについては、何を目指しているのか私には理解できない。同社が新技術を取り込まないために顧客に大きな損失を与えているのは明らかだ。顧客は(SAPに)囲い込まれ、深刻な打撃を被っている。一方、オラクルはオンデマンドの世界にすぐに深入りしないかもしれないが、少なくともこの市場が重要であることは認識している。
オラクルはぜひともこの市場に乗り出すべきだと思う。しかし、実際にはほとんど踏み出せていないのが現状だ。マイクロソフトも同様であり、現在は何もしていないのと同じだと言ってよいだろう。
「AppExchange Incubator」の役割とは
──パートナー戦略について教えてほしい。
多くの企業はオンデマンド・アプリケーションを独自に展開したいと考えているが、そのための有効な手段を持っていない。当社はそうした企業に向けて、カリフォルニア州サンマテオのシーベルが本社を置いていた場所にインキュベーション・センター「AppExchange Incubator」を開設し、物理的なスペースを提供する計画だ。料金は1オフィス・スペース当たり年間2万ドルだ。シンガポール、バンガロール、ロンドン、日本でもこうしたセンターの設置を検討している。
──仮想技術が広がりつつある今日、物理的なスペースを提供するというのは時代遅れではないか
現実にはISV(独立系ソフトウェア・ベンダー)がそれを望んでいる。実際、彼らは当社の近くにオフィスを移転させており、私たちに助けを求めている。オンデマンドのビジネス・モデルにまだ熟達していないISVに対し、(物理的なスペースを提供することで)当社の知識や経験を彼らに直接伝えることができる。サンマテオのセンターには100のスペースを用意しているが、まもなく30スペースが埋まろうとしている。ここでは、当社データセンターへのダイレクト・アクセスやWi-Fi環境とともに、さまざまな講習を提供している。
──AppExchange Incubatorに参加する企業は、将来的には買収のターゲットになるのでは。
出資することもできるし、買収も可能だろう。AppExchange Incubatorはベンチャー・キャピタリストのためのものでもある。彼らはすでに1億ドル以上をAppExchange導入企業に投資しており、今後18カ月以内に10億ドルが出資される見通しだ。
























