「SaaSはあらゆる規模の顧客に高品質なサービスを提供できる」──セールスフォースCOOのロビンソン氏
SaaSという言葉が注目を集める以前から、オンデマンドCRMのパイオニアとして着実にユーザー数を増やしてきたセールスフォース・ドットコム。同社によると創業7年目の今年、オンデマンドCRMサービスの「Salesforce」は全世界で2万2,700社/44万4,000ユーザーに達したという。2006年7月には、20回目のリリースとなる新版「Summer '06」を投入し、成長中の同市場での地位を確固たるものにしていく構えだ。編集部は2006年7月24日、来日した同社COO(最高執行責任者)のフィル・ロビンソン氏に、同社の戦略や新版の特徴について聞いた。
河原 潤
本誌編集長
──今、SaaSがIT業界のホット・トピックになっている。従来型のASPと、今日語られるSaaSに違いがあるのか。あるとしたら最大の違いは何か。
ロビンソン氏:かつてのASPモデルはクライアント/サーバ型で、ベンダーは一からアプリケーションを構築しなくてはならなかった。顧客が「SAP」を使いたいと言えば、サーバを用意してSAPの環境を構築する。次に「Siebel」が必要となれば、また別のサーバを用意し、環境を構築するといった具合だ。結局、サーバやコンフィグレーションをアプリケーションの数だけ用意しなくてはならず、経済性に著しく欠けていた。
一方、今日のSaaSは、たった1つのITインフラを全顧客、全アプリケーションで共用するというマルチテナント型が前提である。これが従来型ASPとの最大の違い、かつ最大のアドバンテージである。現在、当社は1つのデータセンターで、2万2,700もの顧客企業をサポートしている。
──「AppExchange」が発表から6カ月でインストール・ベースが1万を超えた。今後はCRMに限らず、幅広い分野でオンデマンド・アプリケーションを提供していく方針なのか。
ロビンソン氏:AppExchangeでは、人材管理やプロジェクト管理、資産管理といったCRM以外のアプリケーションも含め、現在、280を超えるオンデマンド・アプリケーションが用意されている。
当社がこのAppExchangeを基盤に、さまざまな業務アプリケーションを提供していこうとしているのには、大きく2つの理由がある。1つは、既存のSalesforce CRMの顧客に対するプラスアルファのメリットを提供すること。もう1つは、CRMとは別のニーズとして、人材管理やプロジェクト管理などをSaaSでやりたいと考えている企業に向けたものである。
──新版であるSummer '06の特徴を教えてほしい。
ロビンソン氏:いくつかあるが、最大の特徴は、PRM(パートナー関係管理)というカテゴリーを新設したことである。これは、マルチチャネル販売を展開する企業のパートナー管理を支援するもので、われわれは「Partnerforce」とも呼んでいる。特に、代理店ビジネスが重要視される日本の市場においては大きなニーズがあると思っている。
具体的には、Summer '06では、CRMのデータベースとPRMのデータベースが1つに統合されている。それによって、直販の営業部員も代理店の営業部員も共に同一のデータベースを参照し、顧客の予算状況や見込み客情報などをリアルタイムに把握することができるようになる(画面A)。
──昨年12月、Salesforce CRMに大規模なシステム・ダウンが発生したことが報じられた。急成長に、システムの可用性が追いつかなくなっているような事態は起きていないだろうか。
ロビンソン氏:当社には、5〜10ユーザーといったエントリーから、5,000〜7,000ユーザーのハイエンドまで、あらゆる規模の顧客に同じクオリティのサービスを提供し続けるという責務がある。昨年の障害の後、直ちにITインフラの再整備を行っており、十分な可用性を確保しているつもりだ。
当社には7年間の蓄積があり、可用性に対する取り組みには自信を持っている。今年2月には、今後発生する可能性のある運用上の問題についてリアルタイムに顧客に知らせる情報サイト「trust.salesforce.com」(画面B)を開設している。現在、このサイトを日本語で提供するための準備を行っているところだ。
──セールスフォースは、スタートアップ企業をはじめ小・中規模の顧客に支持され、躍進した。最近では、シスコシステムズやメリルリンチなど大企業での事例をアピールしているようだが、今後は大企業に対して、もっと売り込みをかけていくのか。
ロビンソン氏:一般的に、小さな企業にSAPは売れないし、大企業に「QuickBook」を勧めても仕方がない。われわれは、エントリーとエンタープライズの両方の市場を狙っている。Webを介してすべてのリソースを供給しているからこそ、5ユーザー環境もサポートできれば、数千名規模のエンタープライズ環境もサポートできるのである。
──オンデマンドCRMの成熟度について聞きたい。例えば、あなたがセールスフォースに入社する前に8年間在籍していたシーベル・システムズのパッケージ・ソフトに比べてどうか。
ロビンソン氏:Siebelはバージョンアップのたびにどんどん高機能化していった。だが、それに伴って構成も複雑になり、実装が困難になってしまった。最後には、構築時に顧客にとって不要な機能を抜くといった作業を行っていたほどだ。ガートナーのリポートによれば、高機能化、複雑化が進んだがゆえに、パッケージCRMの導入プロジェクトの50%は失敗に陥っているという。
セールスフォースは、「なぜ実装を簡素化できないのか」ということをまず考えた。グーグルやイーベイ、アマゾンなど成功しているコンシューマー系のサイトをヒントに、アプリケーションを簡単に配備する方法について検討を重ねた。これが、われわれが今提唱している「ビジネスWeb」という考え方の元になっている。
──セールスフォースの成功にならって、オラクルやSAP、マイクロソフトなどの有力ベンダーもこの市場への注力を強めている。彼らに対するアドバンテージは何か。
ロビンソン氏:彼らは根っからのソフトウェア・ベンダーであるということが、当社のアドバンテージだ。オンデマンド事業をいくぶん強化したとしても、結局、彼らは自社のソフトウェアを多く販売したいはずで、われわれはソフトウェアは販売するものではないと思っている。この違いはDNAの違いと言ってよい。
例えば、「Microsoft Dynamics CRM」を導入するには、「Office」や「Outlook」、それから「Exchange」も買う必要があるわけで、マイクロソフトは依然として、パッケージを売り続けていくことになる。長年、ライセンスをパッケージ・ソフトとして販売してきたベンダーがSaaSにシフトするというのは、とてつもなく困難なことに思える。なぜなら、それはDNAを変えるに等しい行為だからだ。
























