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仮想化最後の未踏峰?「ネットワーク仮想化」への挑戦

株式会社ミドクラ代表取締役(CEO) 加藤隆哉氏インタビュー
(2012年01月10日)

 サーバやストレージの仮想化が進む中、「ネットワークの仮想化」はこれまでほとんど手付かずだったと言えよう。そこで、この分野にいち早く注目し、現在製品化を目指して開発を進めているのが、「日本発」のグローバル・テックベンチャー、ミドクラだ。同社のネットワーク仮想化ソフトウェア「MidoNet」の概要と、そのユニークな開発体制に込められた創業の理念について、共同創業者の1人であり、CEOを務める加藤隆哉氏に聞いた。
 

「MidoNet」が目指す“ネットワーク仮想化”とは

ミドクラ 代表取締役 加藤隆哉氏

 ミドクラが開発中の「MidoNet」は、「ネットワークの仮想化・インテリジェント化」を実現するソフトウェアだ。現在のIPネットワークでは、通信を行うために設定する論理構成(スイッチング、IPルーティング、ファイアウォール、ロードバランサやVLANなど)が、実際にはスイッチ、ルータやロードバランサといった各種ネットワーク機器それぞれで別々に設定しなければならない。ネットワーク仮想化とは、一言で言えば、こうした機器間の物理構成とは完全に分離したかたちで、ネットワークの論理構成及びファイアウォール、ロードバランサ等のネットワークサービスを一元的に設定できるテクノロジーである。

 ネットワーク仮想化は、国内外で急速に注目を集めている。その理由の1つは、クラウド・コンピューティングの台頭にある。クラウドの運用環境では、利用者数や利用時の負荷の変動に柔軟に対応できるよう、サーバやストレージの仮想化を進めてきた。例えば、利用者の異なる仮想サーバ同士を1台の物理サーバ上で動かしたり、物理サーバの負荷が高くなったときに対応する為のサーバの数を増やしたりするのは、クラウドの運用環境では日常茶飯事だ。そうした中で、物理構成に制約される従来のネットワークは、クラウドの性能や管理性を損なうボトルネックとして認識されるようになってきたのだ。

 MidoNetは、このようなクラウド環境での利用をはじめ、エンタープライズIT全般におけるネットワーク仮想化・インテリジェント化を視野に入れて、開発が進められている。すでに一部の顧客企業については、先行導入と実証試験も行っているという。

ネットワーク仮想化がもたらす3つのメリット

——まずは、MidoNetの技術的な意義からお尋ねします。MidoNetを使ったネットワーク仮想化には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

加藤:
 ネットワーク仮想化には、大きく分けて「Configurable(構成の柔軟性)」「Scalable(スケーラビリティ/拡張性)」「Fault Tolerant(耐障害性)」という3つのメリットがあります。まず、Configurableについてですが、仮想化したネットワークではネットワーク機器の物理構成にかかわらず、ソフトウェアのみで経路制御を実行できます。そのため、たとえ遠隔地からでもネットワークの集中管理が可能です。また、既存のVLANとは異なり、MidoNetの論理ネットワークは、IPを利用して通信を階層的に管理する為にマッピング・テーブルが最小化され、且つ各エッジ・ノードで通信先を特定するので通信量を最小限にできると考えています。さらに、将来的には、パブリック・クラウドとプライベート・クラウドの併用環境における複雑な構成を簡単に行ったり、負荷などに応じてネットワークの構成を動的に変更したりすることも視野に入れています。

——2つ目の「Scalable」はどのような点を指しますか。

加藤:
 MidoNetは、一般的なLinuxサーバで動作し、L2/L3スイッチやロードバランサ、ファイアウォールといった各種機能を(仮想的なネットワーク機器として)提供します。つまり、MidoNetがあれば、究極的にはこれらのネットワーク機器は不要になります。仮想マシンが動作しているサーバ上で、並行してMidoNetの仮想ネットワーク機器を動かすことさえ可能です。

 そもそも、ネットワーク機器といえども、データリンク層(L2)より上の処理は、ソフトウェアで行っていますよね。一見ブラックボックスに思えますが、その意味ではPCと何ら変わりない。であれば、より安価かつ高性能なLinuxサーバのリソースを、ネットワークの処理に使わない手はありません。

 ネットワークの規模を拡張する場合、従来はネットワーク機器の買い替えを伴う「スケールアップ」が基本的に必要です。一方、MidoNetを使えば、仮想ネットワーク機器の追加やサーバの買い増しによる「スケールアウト」が可能になります。これは管理性とコストの両面で、大きな利点になるはずです。

——なるほど。最後の「Fault Tolerant(耐障害性)」の説明もお願いします。

加藤:
 ネットワークの論理構成が物理構成から独立したMidoNetでは、ソフトウェアを複数のサーバで動かし分散処理することで冗長構成を組むことができます。つまり、物理的なネットワーク機器が単一障害点になりやすい従来のネットワークに比べて、はるかに簡単に冗長性を確保できるのです。また、冗長構成を組んでいるサーバの一方が仮に故障しても、その交換コストはネットワーク機器に比べて安上がりですし、新しい機器を入手する迄のリードタイムが格段に短縮されます。例えばブレード・サーバなら、新しいブレードを差すだけで済みますよね。

▲MidoNetの管理画面イメージと、提供される機能(仮想ネットワーク機器)。L2/L3スイッチ、ロードバランサ、ファイアウォール、VPNなどが、専用ネットワーク機器なしで利用可能になる(クリックで拡大)

▲MidoNetを利用した仮想化ネットワークの構成例。それぞれのエッジサーバや仮想化環境の物理ホスト上でMidoNetが動作し、仮想スイッチや仮想ロードバランサなどの機能を提供するとともに、相互に連携してネットワークを構成する(クリックで拡大)

オープンソースがMidoNet開発の追い風に

——ネットワーク仮想化のアイデアは、ミドクラの起業時にすでに固まっていたのでしょうか。

加藤:
 実はそうでもありません。弊社の社名には「緑クラウド」、つまり「クラウドによるグリーンITの実現」という意味が込められています。その名のとおり、クラウド関連で事業展開する予定は創業時からありました。ただ、共同創業者で現CTOのダン(・ミハイ・ドミトリウ氏)は、当初「日本版AWS(Amazon Web Services)を日本で展開したい」と言っていた。それは、話し合って変えました。

——それはなぜですか。

加藤:
 AWSのようなIaaS型クラウド・プロバイダ事業には、ベンチャー企業が新規参入する余地は、当時すでに残っていなかったためです。一方、クラウドを構成するインフラ技術自体は、まだまだ進化の途上にある。そこで、その領域をやろうという話にひとまず落ち着きました。そして、詳細は起業後に決めるということで、2010年1月に会社をとりあえず僕のマンションの一室を登記場所として立ち上げました。

 当時ダンは、まだスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のクラウド・コンピューティング専任リサーチャー業務に従事しており、その後約3ヶ月間Skypeを使って、毎日事業プランについて話し合ううちに、クラウド・インフラの中でもネットワークはいけそうだ、という話になったのです。

——起業後の2010年7月には、オープンソースのクラウド・インフラである「OpenStack」が発表されます。このOpenStackプロジェクトにはミドクラも参加しますが、OpenStackが登場したときの感想はどういうものでしたか。

加藤:
 もちろん、「おお、ついに来たか…」と思いました。OpenStackの登場により、パブリック、プライベートの如何を問わず、今後クラウド・インフラの需要が爆発的に伸びることはサーバOSとしてのLinuxの現在の隆盛を見れば明白です。その結果、ネットワークのボトルネックがいずれ問題視されることも予想できました。OpenStackの発表を受けて、「ネットワーク仮想化」でいくという方向性が本格的に定まったのです。

——ネットワーク仮想化の分野では、L4以下の経路制御情報を「フロー」として統合する「OpenFlow」プロトコルも最近注目されています。OpenFlowとMidoNetの関係はどのようになっていますか。

加藤:
 MidoNetの最終的に目指す地点の1つは、いわば「OpenFlow++」です。MidoNetはOpenFlowとの互換性を確保していきますし、実際オープンソースのOpenFlow実装の1つである「Open vSwitch」を元にしている部分もあります。現状各社が出してきているOpenFlowのソリューションは基本的にOpenFlow Controllerというものを必要としており、これが先に述べた”Fault Tolerant”という観点から現状のネットワーク機器で構成されたシステムと同じ状態に陥っています。だからミドクラは独自の方式でOpenFlowの技術を使いながらより信頼性の高く柔軟なシステムを構築できる方法を探っています。

 そのうえで、仮想ロードバランサや仮想ファイアウォール、異なる物理サイト間での分散処理といった不足している技術要素の実装は、MidoNetで独自に進めています。また、OpenFlowが考慮していない既存のIPネットワークとの共存についても、MidoNetでは対応する予定です。

——なるほど。では、MidoNetのメイン市場ですが、やはり「クラウド」なのでしょうか。

加藤:
 基本的にはそうです。ネットワーク仮想化が力を発揮するのは、クラウド運用環境だけにかぎりませんが、やはりサーバやストレージを既に仮想化している、またしようとしており、これから本格的に複数のシステムをクラウド環境に構築しようという場合がより適しています。したがって、いわゆるパブリック・クラウドだけがターゲットではなく、むしろ、より市場が巨大なエンタープライズのプライベート・クラウドあるいはハイブリッド・クラウド全般がターゲットだと考えています。

 ただ、現状でネットワーク仮想化の重要性を誰よりも早く認識しているのが、パブリック・クラウド・プロバイダやデータセンター事業者なのは確かです。彼らは、ネットワークのボトルネックに日々悩まされていますからね。そこで、ミドクラとしては、OpenStackをはじめ、既にエンタープライズでの採用実績のあるCloudStackやKVM、Xen、Hyper-Vといった各種の仮想エンジン向けにMidoNetを提供しつつ、エンタープライズITへの展開も図っていきます。

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