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リッチ・クライアント/RIA

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【事例研究】

RIAで顧客との新たな接点を創造するアスクル

新時代のeビジネスに備える
(2008年06月03日)

オフィス用品の総合通信販売を手がけるアスクルは先ごろ、インターネットを通じた顧客サービス/顧客満足度のさらなる向上を目指し、同社の購買サイトを快適に利用するためのデスクトップ・ツール群「ASKUL DESKTOP(アスクルデスクトップ)」を開発、今年(2008年)3月からそのベータ版の公開(無償配布)を始動させた。ASKUL DESKTOPには、アドビ システムズのRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)プラットフォーム「Adobe AIR(Adobe Integrated Runtime)」が用いられているという。


「ASKUL DESKTOP」の開発を主導した、アスクルの小野俊克氏(e-ビジネス e-エクスペリエンス・デザイン部長)と川村真澄氏(e-ビジネス e-エクスペリエンス・デザイン)。

新たなサービス・プラットフォームの実現

 インターネットやファクシミリを通じて、オフィス用品の注文を受け付け、その翌日には商品を届ける――このビジネス・モデルによって、オフィス用品の総合通信販売という新たな業態を確立し、右肩上がりの成長を遂げてきたのが、アスクルである。同社の売上高は、2006年度(2007年5月期)で1,762億円に達している。

 こうした同社の成功をきっかけに、この業態に参入する企業が相次ぎ、市場での競争は激しさを増し続けている。にもかかわらず、アスクルが堅調に業績を伸ばしてきたのは、新市場/サービスの開拓・開発に積極的に取り組んできたからにほかならない。

 例えば、同社は、他社に先駆けて、オフィス用品のみならず、医療・介護施設向けの専用商材や飲食店向けの業務用商材などの販売に着手した。

 また、今年3月には、同社が運営する法人向け購買サイト「アスクル・インターネットショップ」(http://www.askul.co.jp/)内の新サービスとして、出張の航空券や会議用のお弁当、宴会・接待のお店の手配など、仕事に役立つサービス/情報を提供する「アスクルお仕事サポート」(http://www.askul.co.jp/oshigoto/)を始動させている。

 そんな同社が、アスクルの各種サービスを利用するための新たな仕組み――すなわち、アスクルと顧客とをつなぐ新たな仕組み――として開発したのが、「ASKUL DESKTOP(アスクルデスクトップ:http://desktop.askul.co.jp/)」だ。その開発に乗り出した理由について、アスクルのe-ビジネス e-エクスペリエンス・デザイン部長、小野俊克氏は、以下のように説明する。


画面1:ASUKUL DESKTOP(ベータ版)の初期画面

 「当社には、『商品だけではなく、さまざまなサービスを一括して提供してほしい』というお客様のご要望が、以前から寄せられていた。それに対する1つの答えが、“アスクルお仕事サポート”の始動だが、われわれとしては、物販を含めた、当社のあらゆるサービスの利便性を向上し、かつ、新規のサービスをすみやかに展開・提供できるような新しい仕組み(サービス・プラットフォーム)も構築したいと考えていた。その構想をかたちにしたのが、ASKUL DESKTOPとなる」

 ASKUL DESKTOPは、アドビ システムズが提供するRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)プラットフォーム「AIR(Adobe Integrated Runtime)」をベースにしたインターネット・ツール(ウィジェット)群だ。

 今年3月26日より、そのベータ版が公開(無料配布)されており、同ベータ版には、アスクル・サイトでのインターネット・ショッピングをいっそう快適にするためのツール群(メインのオリジナル・ブラウザや「商品検索」、「買い物カゴ」、「RSSリーダ」といった機能を提供するウィジェット群)が提供されている。

RIA技術でWebページの
制約を打ち破る



「デザインプロダクションのサイトフォーディーが開発したRIAを見て、AIRとRIAの可能性を改めて認識した」と、Adobe AIR(Adobe Integrated Runtime)採用に至る経緯を説明する小野氏。

 ASKUL DESKTOPという新たなサービス・プラットフォームの構築に際して、小野氏は長く、適用すべき技術の選定で頭を悩ませていた。

 そんな同氏が、最終的にAIRの採用に踏み切った背景には、あるデザイン・プロダクションとの出会いがある。

 そのプロダクションとは、SiTE4D(サイトフォーディー)だ。

 小野氏は昨年(2007年)7月、あるイベントで、サイトフォーディーによるRIA(AIRで開発されたRIA)のデモを目にする機会を得た。

 その当時から、小野氏は、AIRについて一定の知識を有していたが、「AIRを使うことで、何がどの程度改善されるのかを具体的にイメージするのが困難だった」という理由から、「アスクルとしてAIRを採用するのは当面先になる」と考えていた。

 ところが、サイトフォーディーによるRIAのデモを目の当たりにした同氏は、AIRの可能性と実用性の高さを強く感じたという。

 「サイトフォーディーが披露したRIAの表現力の豊かさ、出来栄えには、目を見張るものがあった。そこで、サイトフォーディーの技術力とAIRがあれば、当社のサービス・プラットフォームの表現力と利便性をともに高められるかもしれないと考えた」と、小野氏は振り返る。

 サイトフォーディーが実演したRIAの中で、小野氏が特に注目したのは、そのインタフェースが情報の一覧性に優れ、かつ、直感的な操作環境を実現している点であった。

 言うまでもなく、インターネットを介して提供されるアプリケーション(サービス)では、そのユーザー・インタフェースとして、Webブラウザが一般的に用いられている。

 ただし、Webブラウザの場合、1つの画面に表示できる情報量に限りがあることから、Webサイトを通じて提供したい情報量が多くなると、Webページを階層化せざるをえなくなり、結果として、サイトの構造が複雑化し、ユーザーにとっての情報の視認性が低下するというネックがある。

 それに対して、AIRの場合、ウィジェットに特定分野の情報のみを特化して表示させることで深い階層に埋もれていた情報を、直接ユーザー・インタフェースに表示させることができる。これにより、情報の視認性を飛躍的に高めることが可能だ。

 加えて、AIRのようなRIAの技術を用いれば、アプリケーションの操作性を高め、操作中のユーザーのストレスや混乱を極小化することができる。しかも、AIRの場合、アドビの「Flash」や「PDF」などの技術が組み込まれており、それらを用いて、洗練されたデザインのインタフェースを比較的容易に構築できるという特徴も備えている。

 そうしたAIR、およびRIAの利点、そして、サイトフォーディーの技術力の高さを評価した小野氏は、サイトフォーディーを、新たなサービス・プラットフォームの開発パートナーとして選定した。

 その後、同社との対話・会議を重ねた結果、AIRが新たなサービス・プラットフォームの構築に十分有用であることを確認した。

 と同時に、RIA技術を用いたサービス・プラットフォームの開発ノウハウを段階的に蓄積していくために、まずは、アスクルのインターネット・ショッピング・サービスを簡便に利用するためのデスクトップ・ツール群(つまり、現在のASKUL DESKTOP)の開発から着手するという方針を(2007年9月に)固めたのである。

 「サービス提供のための総合的なプラットフォームの構築は、われわれにとって初の試みであり、手探りの部分が多かった。そこで、ASKUL DESKTOPの開発を通じて、既存の物販サービスの利便性を高めつつ、サービス・プラットフォームの今後の拡張・新規開発に必要とされる技術ノウハウや情報、およびお客様のニーズを併せて収集していこうと考えた」と、小野氏は言う。

反復型の開発スタイルで
ユーザー視点の機能を実装

 ASKUL DESKTOPの開発は、「詳細な要件定義書を策定し、それに沿って必要とされる機能を厳密に定義していく」といった従来型のスタイルではなく、「AIRによって何が可能になるのか」、また、「お客様の利便性を高めるには、どうすればよいのか」という2つの観点から、アスクルとサイトフォーディーの双方がアイデアを出し合い、調整を進めるという開発スタイルで進められた。

 ここで生きたのが、サイトフォーディーの「お客様」としての側面だ。

 つまり、アスクルのヘビー・ユーザーでもあったサイトフォーディーが、「自分たちがどんな買い方をしたいか」という視点でアイデアを出し、それを基にアスクルがASKUL DESKTOPの機能概要(機能の大枠)を決定して、それに沿ったインタフェースのデザインや機能の実装をサイトフォーディーが行う。また、それに対する改善点を、アスクルからサイトフォーディーにフィードバックするーーアスクルとサイトフォーディーの両社は、こうした一連の作業を繰り返して行いながら、実装する機能を洗練させ、ASKUL DESKTOPを完成させていったのである。


川村氏は、ASKUL DESKTOPの開発に際して、実店舗と同様の“ユーザー体験”の創出にもこだわった。

 今回、小野氏とともにASKUL DESKTOPの開発に携わった、アスクルの川村真澄氏(e-ビジネス e-エクスペリエンス・デザイン担当)は、「きちんとした要件定義書を作らなかったことで、正直、動きにくい部分もあった。ただし、それ以上に、開発がスピィーディ、かつクリエイティブに行われたメリットのほうが大きかった」と述懐する。

 こう語る川村氏が、開発時に特に注意を払ったのは、ASKUL DESKTOPの機能を、可能なかぎり分かりやすく、シンプルに見せることであった。その意味でも、インタフェースのデザインや動き、機能の実装方法を、何度も見なおしながら、改善が図れる今回の開発スタイルは、実に有効であったようだ。

 こうして開発されたASKUL DESKTOPのウィジェットには、先に触れた「商品検索」や「買い物カゴ」のほかに、顧客による購入状況をグラフ化して、表示する「購入実績管理」なども含まれているが、「いずれのウェジェットも、特定の機能に特化して開発されているため、非常に利便性と操作性が高いものに仕上がっている」と、川村氏は言う。

 また、同氏は、ASKUL DESKTOPのユーザーが、実際の店舗で買い物を行うのと同様の感覚・体験が得られるような操作性にもこだわった。

 例えば、一般的なeコマース・サイトの場合、買い物カゴに入れた商品の並び順は、選んだ順番で固定され、その順番をユーザー側が変更することはできない。

 それに対して、ASKUL DESKTOPでは、買い物カゴに入れた商品の並び順を、ユーザーが自由に変えられる「マジックハンド」の機能が備えられている。もちろん、この機能は、実際の店舗で、買い物カゴを持って商品を選び、カゴに入れるのと同様のユーザー体験を再現するためのものである。

 さらに、アスクルでは、ASKUL DESKTOPの操作ガイドを映像化し、YouTube(http://jp.youtube.com/results?search_query=ASKUL+DESKTOP&search_type=&aq=f)上で公開するというユニークな試みも実践している。


画面2:ASKUL DESKTOP(ベータ版)の商品選択画面。ASKUL DESKTOPの「買い物カゴ」では、「マジックハンド」の機能により、選んだ商品の並び順を、自在に変更できる。

ユーザーの声とノウハウを基に
機能の改善・高度化を図る

 ASKUL DESKTOP(ベータ版)のダウンロード数は、配布開始から1週間で累計1,000件を記録し、その後も、「非常に良好なペースでダウンロード数が推移している」と、小野氏は言う。

 また今後、AIRの日本語版が正式にリリースされた時点で、ASKUL DESKTOPも正式版へと移行することになるが、その際には、すでにダウンロードされているベータ版も、正式版へと自動的にアップデートされるもようだ。

 とはいえ、現時点では、ASKUL DESKTOP(ベータ版)の公開から数カ月程度の期間しか経過していない。

 そのため、ASKUL DESKTOPの実質的な効果は、まだ目に見えるかたちで表れていない。

 また、ASKUL DESKTOPの機能についても、解決すべき課題がいくつか残されているようだ。

 例えば、ASKUL DESKTOPの開発に際して、アスクルでは、既存の購買サイトに一切の変更を加えなかった。

 そのため、決済処理は、ASKUL DESKTOP上ではなく、(従来と同じく)Webブラウザ上で行わなければならない。要するに、現時点では、購買プロセスのすべてをASKUL DESKTOP上で完結させることはできないわけだ。加えて、現状のASKUL DESKTOPでは、カレンダーやメモ帳などのツールと、他のウィジェットとの連携も実現されていない。

 もっとも、ASKUL DESKTOPの開発は、ある意味で、最初のステップが終了したにすぎず、今後も、ユーザーの声を起点に、機能的な改善・強化が継続的に行われることになる。

 「ASKUL DESKTOPについては、たとえそれがベータ版から正式版に移行したとしても、そこで開発が終了するという種類のシステムではない。ASKUL DESKTOPは、アスクルの登録ユーザーでなくても商品検索などの機能が利用でき、お客様が気軽に意見・要望を当社に寄せられる仕組みを備えている。われわれとしては、そこから得られたお客様の声を基に、今後も、ASKUL DESKTOPの機能改善・強化を継続的に図っていくつもりだ。その意味でも、より多くの方にASKUL DESKTOPを体感いただき、ASKUL DESKTOPの機能やサービスについて、率直なご意見・ご要望をどしどしお寄せいただきたい」と、小野氏は語る。

 今回のASKUL DESKTOPの構築を通じて、アスクルでは、RIAに関する経験とノウハウを、競合他社に先駆けて獲得した。

 今後も、そのアドバンテージを生かしながら、RIAベースのサービス・プラットフォームをより洗練させ、それを、顧客満足の向上や、顧客との接点/つながりの高度化/強化につなげていくだろう。

 ASKUL DESKTOP、そして、同社のeビジネスのこれからに注目が集まる。


画面3:ASKUL DESKTOP(ベータ版)のコメント投稿画面。アスクルでは、この仕組みを通じて収集した「お客様の声」を基に、ASKUL DESKTOPの強化・改善に努めている。

(Computerworld.jp)

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