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IBMの研究チーム、12個の原子で1ビットを記録することに成功

現在のHDD比で100倍の記録密度を実現、“ムーアの法則”を追い越す?
(2012年01月13日)
12個の鉄原子で1ビットを記録した状態。走査トンネル顕微鏡で撮影(Source:IBM)

 米国IBMは1月12日、同社の研究者が5年にわたり開発を続けてきた新たな記録技術に関する発表を行った。実験では12個の原子で1ビットを記録することに成功しており、現在のハードディスク比では約100倍の記録密度となる。

 将来的に、この技術をストレージ・デバイスに組み込み実用化することができれば、現在のHDDやフラッシュ・ドライブとはけた違いのデータ容量を持つデバイスが実現する可能性がある。また、この技術はテープ・メディアに適用することも可能である。

 「例えば、現在、1TBのストレージを搭載しているデバイスに、(同じサイズで)100~150TBのストレージを載せることができるようになる。現在、自分の持っている音楽ファイルを全部ポータブル・デバイスに詰め込んで持ち歩くのが一般化しているが、同じように将来はビデオ・データをすべて持ち歩けるようになるわけだ」と説明するのは、IBM Researchの所員で、今回のプロジェクトの主任研究員であるアンドレアス・ハインリッヒ(Andreas Heinrich)氏である。

 

 現在、磁気記録式のストレージ・デバイスでは、「強磁性体(ferromagnetic materials)」の素材が使われている。強磁性体では、隣り合うスピンが同一の磁場方向を向いて整列している。一方で、IBMの研究者は今回、「反強磁性(antiferromagnetism)」の素材を利用するという逆転の発想で臨んだ。反強磁性体では、隣り合うスピンがそれぞれ反対の磁場方向を向いて整列している。

反強磁性体を利用することで、隣接するビットに干渉しにくくより高密度に記録できる(Source:IBM)

 強磁性体を使う現在の磁気記録式ストレージでは、鉄原子が同じ磁極方向で並んでいるため、隣のビットに干渉しないよう間隔を大きく空ける必要がある。一方、今回の反強磁性体では、隣り合う原子どうしが反対の磁極方向で並ぶため、干渉しにくく密に配置できる。これを利用することで、研究者は「原子スケール」の磁気記録を実現することができたという。

 「有名な『ムーアの法則』では、さまざまなコンピュータ部品のサイズが一定の周期で小さくなっていくことが予言されており、コンピュータ業界はそのペースに追いつくよう技術を進化させてきた。だが、各コンポーネントの基本コンセプトは何一つ変わっていない。磁気記録型ストレージ、あるいはトランジスタでさえ、20年前と同じ考えで作られている」(ハインリッヒ氏)

 ハインリッヒ氏は、「ムーアの法則の終着点には、単一の原子が存在する。我々はそこに近づいているのだ」と述べる。

 IBMの研究チームは、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針を使って、原子の磁気情報(0/1)を書き換えた。原子1個からその実験を始め、12個の原子に達したところで1ビットの情報を安定的に記録することができたという。今回の実験では、硝酸銅の表面に鉄原子を塗布したものが使われているが、理論的には、ほかの素材を使うことでさらに少ない原子数で1ビットを記録できる可能性もある。

 ただし、今回の実験は超低温環境下(1ケルビン=約-272℃)で行われたものだ。高温になると熱エネルギーによってランダムにデータが変化し始めるという。「常温で安定的に情報を記録するためには、1ビットあたり150個程度の原子が必要になるだろう」(IBMの広報担当者)。

バイナリ・データ(01010011)として表現された「S」という文字が、8組の原子列に置き換えられて記録されている (source: IBM Research)

 ハインリッヒ氏は、この技術は現時点においてまだ実用段階にはなく、今回の実験も理論検証にとどまるものだと述べる。ストレージ・デバイスとして実用化されるまでには、まだ5年から10年の時間がかかるというのが同氏の予測だ。それでもこの研究は、ストレージがまだ飛躍的に高密度化できること、ストレージに関する従来の理論的制約を突破できることを証明した重要な研究であることは間違いない。

 「硝酸銅の表面にある鉄原子を操作するというのは、実用的な技術とは言えないだろう。我々の使っているのは研究用のツールであり、ユーザー向けのものではない。大量生産を通じてもっと安価なツール(デバイス)にしていくために、数多くの課題が残っている」(ハインリッヒ氏)

(Lucas Mearian/Computerworld米国版)

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