「企業機密」を保護する法的手段とは――営業秘密管理指針の改訂
とことんわかりにくい法律を とことんわかりやすく解説!今年(2010年)4月、経済産業省の「営業秘密管理指針」が改訂された。これは、事業活動の根幹にかかわるような技術やノウハウ、顧客情報などの情報を保護するために企業がどう取り組むべきかをまとめたガイドラインだ。そこで今回は、不正競争防止法による「営業秘密の保護」と、企業のなすべき取り組みについて説明しよう。
不正競争防止法と「営業秘密」
企業には、事業活動の根幹にかかわる技術やノウハウ、顧客情報といった、外部に漏れては困る重要な情報がある。こうした情報を保護することの重要性は、近年とみに増していると言われる。
理由の1つは、我が国の産業が、目覚ましい発展を見せる東アジア諸国との競争にさらされていることだ。安価な労働力の調達が可能なこれらの国に伍していくためには、高付加価値の商品/サービスの提供を可能にする技術とノウハウが不可欠となる。もうひとつの理由は、リストラや雇用の流動化で退職者が増えていることだ。企業秘密の漏洩(持ち出し)は、退職者から生じることが多い。そして、法律の世界で企業秘密を守るのが、今回取り扱う不正競争防止法による「営業秘密」の保護だ。
「不正競争防止法」とは、読んで字のごとく、不正な競争行為の防止を目的とする法律だ。この法律が防止しようとする「不正競争」の中には、他社の商号や営業表示を勝手に利用する行為、他社の商品に名前や形がよく似た商品を売り出す行為などが含まれる。ITのギョーカイ的になじみ深いものとして、他社の商号や商品名と同じドメインを取得することも「不正競争」とされている。
このような「不正競争」の中に、顧客名簿や技術/ノウハウの情報である「営業秘密」を盗み出す行為も含まれている。これが今回のテーマだ。
「営業秘密」が初耳の読者もおられるだろう。「営業秘密」とは、簡単に言えば企業秘密のことだ。顧客名簿や技術/ノウハウの情報が典型だが、事業活動にとって有用な技術と営業に関する情報は、広く「営業秘密」に該当しうる。不正競争防止法では、一定の要件を満たす企業秘密を「営業秘密」と定めて、これを盗み出したり不正使用したりする行為を民事/刑事の責任の対象にしている。もっと分かりやすくいえば、これは「産業スパイ防止法」なのだ。
営業秘密の要件
企業の持つ情報が、営業秘密として不正競争防止法の保護を受けるためには、(1)秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2)有用な情報であること(有用性)、(3)公然と知られていないこと(非公知性)、という3つの要件を満たさなければならない。
まず、(1)秘密管理性が認められるためには、(a)情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)、(b)情報にアクセスした者にそれが秘密であると認識できること(客観的認識可能性)という2つの条件を満たさなければならない。社内の誰もがアクセスできるような情報であれば秘密とは言えないから、(a)の条件が必要なのは明らかだろう。そのうえで、「マル秘」マークを付けるなど、それが秘密であることを客観的にもわかるようにしなければならないというのが(b)だ。このとき、情報の創作者が誰かということは問わないので、従業員が創作したものでも、事業者が営業秘密として管理することはできる。ただし、従業員の頭の中に留まっていて、事業者が管理できていないものは対象外だ。この秘密管理性の要件については、後ほどまた詳しく述べる。
次の(2)有用性だが、この「有用」という言葉の意味は広く解されている。情報を利用することで事業者に直接利益をもたらす場合だけでなく、費用の節約や経営効率の改善など、間接的に利益をもたらすものでもよい。したがって、「こうすればうまくいく」というポジティブな情報だけではなく、「これはうまくいかない」というネガティブな情報にも有用性が認められる。もっとも、犯罪の手口や脱税の方法といった公序良俗に反する情報は、(たとえ役に立つとしても)法的保護を与えるべきものではないという観点から有用性は認められない。
最後は(3)非公知性だ。これは、その営業秘密を保有する事業者の管理下以外では一般に入手することができないものをいう。例えば、文献やWebから簡単に入手できるような情報には非公知性がない。他方で、複数の主体が知っていても、それらの主体に守秘義務が課されているため知れ渡っていないような場合には、非公知情報にあたる。



























