国際的な電子商取引における裁判管轄と準拠法[前編]|[連載]ITエキスパートのための法律入門|トピックス|Computerworld

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[連載]ITエキスパートのための法律入門

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【法律入門 第33回】

国際的な電子商取引における裁判管轄と準拠法[前編]

とことんわかりにくい法律を とことんわかりやすく解説!
(2010年09月28日)

 近々公開される予定(2010年9月2日現在)の経済産業省「平成21年度国際的な電子商取引の法的問題に関する調査研究報告書」には、国際的な電子商取引を行う際の法的リスクに関する調査報告が記されている。前編/後編の2回に分けて、同報告書の内容をわかりやすく紹介しよう。

国境をまたぐ電子商取引で 生じうる法的リスクとは

 今回は、国際的な電子商取引に関する裁判所と法律の問題を解説する。この問題について検討した経済産業省の「平成21年度国際的な電子商取引の法的問題に関する調査研究報告書」が近々公開される予定である。この報告書(以下、単に「報告書」と記す)には、国際的な電子商取引を行う際の法的リスクとして重要な「どの裁判所で裁判が行われるか」「どこの国の法律が適用されるか」の2点についての調査報告が記されている。国際取引の法律問題はかなり専門的なので、基本的な用語解説も織り交ぜながら、前/後編の2回に分けて報告書の内容を簡単に紹介したい。

 これまで、わが国の電子商取引は、一部の大手事業者によるものを除き、もっぱら国内向けであった。しかしながら、電子商取引を利用する中小の事業者としても、急速に成長するアジアなどの消費市場に参入したいのは当然のことであり、また、リアルの店舗を現地に持たなくていい電子商取引の特性は、国際取引においてこそ最大限生かされるものである。特にアジア向けの電子商取引については、ヤフーとタオバオ(淘宝)、楽天とバイドゥ(百度)など日中の大手事業者間の連携が報道されたところである。

 だが、中小の事業者にとっては、国際取引の法的リスクの検討は容易なことではなく、二の足を踏むか、目をつぶってやるか、の二者択一を迫られているのが実情ではないだろうか。報告書はこの点に着目して、日本の中小の事業者が、外国の事業者・消費者に対して、電子商取引で商品・サービスを提供する場面を想定して、法的リスクの検討を行っている。

 法的リスクの中でも最大のものは、簡単に言えば「もめたときにどうなるか」ということだ。具体的には裁判を①「どこの裁判所で行うか」、②「どこの国の法律を適用して行うか」、③「外国法が適用される場合、その内容はどのようなものか」の3点が問題となる。

 例えば、日本の事業者と米国の事業者が行った取引に関して両者間に紛争が生じた場合、その紛争はどちらの国の裁判所が担当し、どちらの国の法律が適用されるのだろうか。日本の事業者のリスクとして考えれば、米国の裁判所に事件が持ち込まれて米国で訴訟対応をしなければならなかったり、内容のよくわからない米国の法律で事件が処理されてしまったりすることが問題だ。これらのリスクをどう考えればよいだろうか。

 今回と次回(後編)では、報告書のうち前記の①「どの裁判所でやるか」(国際裁判管轄)と②「どの国の法律が適用されるか」(準拠法)を中心に紹介したい。

裁判所に関する合意(管轄合意/仲裁合意)

 裁判所(管轄)や適用される法律(準拠法)をあらかじめ当事者の合意で決めてしまうことがある。このような合意は100%ではないが、特にBtoB取引に関しては多くの国で有効なものとして認められている。したがって、こうした合意は当事者間で紛争が生じた場合に、問題に対する手っ取り早い処方箋となる。

 契約書や利用規約の具体的な記載例を紹介しよう。まず、裁判所については以下のように記される。

第○条(紛争処理)
本契約に関する紛争については、東京地方裁判所を専属的な合意管轄裁判所とする。

 契約書や利用規約の中で、このような文言を見たことのある方は多いだろう。「裁判所が事件を担当できること」を「管轄」と呼び、管轄のある裁判所を合意に基づいて決めることを「管轄合意」という。管轄合意で決めた裁判所を「合意管轄裁判所」というのだが、前記の条文には「専属的」がついている。「専属的合意管轄裁判所」とは「裁判はそこだけで行い他の裁判所では行わない」と取引の当事者が合意した裁判所のことだ。

 これは海外との取引だけでなく、国内でも当事者の所在地が違う場合(例えば東京と大阪など)には意味のある規定である。そのため、きちんとした契約書であれば大抵この条項が含まれている。

 ちなみに、国内の取引で合意管轄裁判所が指定されていない場合に、提訴された裁判所がどのように判断すべきかについては、民事訴訟法に書かれている。例えば、被告の住所地(同法第4条)、義務履行地(同法第5条1号)、不法行為地(同法第5条9号)などの地域を担当する裁判所には、管轄がある。

 管轄合意に替わるものとして、「仲裁合意」がある。「仲裁」とは、当事者双方が自分たちの争いに関する判断を(裁判所ではなく)第三者である私人に委ねてその判断に従う紛争解決の方法で、仲裁合意は国際取引ではよく用いられる。日本国内には仲裁の専門機関である社団法人日本商事仲裁協会があり、国際的な仲裁機関としては国際商業会議所(ICC)が知られている。仲裁には(a)一審制で上訴できないので結着するまでの時間が短い、(b)訴訟のように形式にこだわらない、(c)相手方の国がニューヨーク条約の締約国である場合には相手方の国で仲裁判断の結果の強制執行ができる※1、などのメリットがある。

 また、有効な仲裁合意があれば、裁判所は「紛争解決は裁判ではなく仲裁による」という合意を優先して事件を却下する。条文は次のようになる。

第○条(紛争処理)
本契約に関する紛争については、東京における仲裁により解決されるものとする。仲裁は、日本の社団法人日本商事仲裁協会の規則に基づいて行われる。

 以上が、管轄合意と仲裁合意の一般論だが、これらが管轄に与える影響については、図1もご参照いただきたい。図1は、海外の裁判所で日本の事業者が提訴されてしまった場合に、その裁判所が事件を受けることができるかどうかの判断について図示したものだ。

※1 相手方の財産がなければ強制執行はできないため、国際取引においては、相手方の国における判決の強制執行の可否が重要だ。裁判所の判決についても「ハーグ管轄条約」というものがあるが、日本は批准していない。つまり、日本の判決が外国でそのまま執行してもらえるとはかぎらないし、外国の判決が日本でそのまま執行してもらえるとはかぎらないのだ。他方で、仲裁については、両当事者の国が「ニューヨーク条約」の締約国であれば(日本も締約国だ)、一方の国の仲裁が他方の国でそのまま執行してもらえる。

図1:当該裁判所に管轄があるかどうかの判断

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