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Apple ウォッチ

「iPhone」を衝撃発表!――コンピュータ・ベンダーの名を捨てたアップルの行く手

ついにベールを脱いだ、OS X搭載のスマートフォン。巨大市場での勝算はいかに

(2007年03月14日)

「わが社のこれまでの30年はほんの序章にすぎない。2007年へようこそ」――年が明けてすぐ、米国アップルのWebサイトにこんな意味深なメッセージが掲載された。その1週間後、約2,700社が出展する世界最大の家電業界展示会の話題が、同社ただ1社の新製品発表によって飲み込まれてしまった。ついにその姿を現したスマートフォン「iPhone」の発表を皮切りに、アップルは、いよいよ“米国のソニー”となるべく第一歩を踏み出し始めたのか。

林 信行

CESを紙面の片隅に追いやったMacworld Expo

写真1:スティーブ・ジョブス氏は、「これは電話の再発明である」として、iPhoneを披露した

 米国西海岸では例年、年初に2つの有名なコンピュータ・イベントが開かれる。1つはラスベガスで開催されるInternational Consumer Electronics Show(CES)だ。この世界最大の家電見本市に、今年は約2,700社が出展し、マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏やウォルト・ディズニーの社長兼CEO(最高経営責任者)のロバート・アイガー氏、デル会長兼CEOのマイケル・デル氏など、そうそうたる顔ぶれが基調講演のステージに立った。

 もう1つは、サンフランシスコで開催されるMacworld Conference & Expo/San Franciscoである。アップルおよびMacプラットフォーム製品を提供するサードパーティを中心とした企業約400社が出展するイベントだ。

写真2:iPhoneやApple TVといった「非コンピュータ製品」が発表されたこの日、アップルは社名を変更した

 例年だと、この2つのイベントは、CESの翌週にMacworld Expoといった具合で開催されるのだが、2007年は開催期間がほぼ重なった(CESが1月8日〜11日、Macworld Expoが1月8日〜12日)。規模的にはまるで蟻と巨人ほどの差があるが、実際にイベントが始まり、米国のテレビや新聞がIT業界の重要なニュースとして話題にしたのはMacworld Expoのほうだった。例えば、コラムニストのジョン C.ドヴォラック氏は、CNBCのインタビューに「CESで聞いた最大のニュースは、サンフランシスコでiPhoneという製品が発表されたというものだった」と答えている。

 Macworld Expo初日の基調講演で、アップルCEOのスティーブ・ジョブズ氏が「iPhone」を披露すると、全米のニュース・メディアはこの話題で持ちきりとなった(写真1)。そしてジョブズ氏は、基調講演でもう1つの重大な発表を行う。この日、同社は創業以来30年続いてきたアップルコンピュータという社名を、「アップル」に変更したのである(写真2)。壇上でジョブズ氏は、iPhoneを含めた同社の新しい製品ラインアップを眺め、「Mac」を開発、販売するPC事業は、同社が展開する多様な事業のほんの一部でしかないことを強調した。

 アップルは年明け早々、同社のWebサイトに「(創業から)これまでの30年はほんの序章にすぎない。2007年へようこそ」という意味深なメッセージを掲載したが(画面1)、これは正に今回の発表を予告したものだったのだ。

 アップルはこれまでの「パソコン・メーカー」という枠組みを破り、新しい道を進もうとしている。ジョブズ氏は以前からソニーへの敬意を表し、いずれはソニーのような会社になりたい、といった発言もしてきたが、今回の発表は、正にアップルがデジタル時代のソニーとなる第一歩なのかもしれない。


画面1:Macworld Expoの開幕前に、米国アップルのWebサイトのトップ・ページに掲げられたメッセージ

「Revolutionary UI」──革新的なユーザー・インタフェース

写真3:スマートフォンのユーザー・インタフェースについてジョブズ氏は、キーボードやボタンによる従来型の操作はユーザー本位ではないと指摘した

 では、アップルの新しい第一歩を飾る新製品、iPhoneとはどんな製品なのだろう。

 基調講演でジョブズ氏は、「今日は3つの新製品を紹介したい」と話を切り出した。「1つ目はタッチ操作が可能なワイドスクリーンのiPod。2つ目は革新的な携帯電話。そして3つ目はブレークスルーとなるようなインターネット・コミュニケータ」──その後、ジョブズ氏は、これら3つが実は1つの製品であることを明らかにし、「今日、アップルが電話を再発明(reinvent)する」と宣言したのである。

 ご存じのように、市場にはすでに、電子メールやWebブラウジングの機能を備えたスマートフォンという製品が携帯電話端末メーカーやコンピュータ・ベンダーから多数販売されている。有名なものでは、リサーチ・イン・モーション(RIM)の「BlackBerry」やノキアの「E61」、パームの「Treo」などだ。だが、ジョブズ氏は、これらの製品が「実際にはそれほどスマートではなく、使いやすくもなかった」と批判。iPhoneでは、飛躍的にスマートで、それでいて驚くほど簡単に操作ができる製品を目指した、と同氏はアピールした。

先進的なマルチタッチ対応ディスプレイ

写真4:マルチタッチ対応の大型液晶ディスプレイを備えたiPhone

 こうした真のスマートを実現するかなめとなるのが、ジョブズ氏が言うところの「Revolutionary UI」(革新的なユーザー・インタフェース)だ。同氏は、それを実現するには「ハードとソフト双方の密接な連携が欠かせない」と強調した。

 欧米における既存のスマートフォン共通のUI仕様として、超小型の英字キーボードと操作用ボタンがあるが、ジョブズ氏は「よりリッチなアプリケーションを利用するには、アプリケーションごとに異なる操作方法を用意する必要がある」と説明。「要不要にかかわらず、そこに据えつけられているキーボードやボタンは、ユーザーにとって邪魔なばかりか、アプリケーションの可能性まで制約してしまう」というのが同氏の見解である(写真3)。

 そこでアップルが採用したのが、マルチタッチ対応の大型液晶ディスプレイだ(写真4)。ジョブズ氏は、出し入れの手間や紛失のおそれがあるスタイラス・ペンを使用するのではなく、iPhoneは、すべてを指で操作するものであると強調した。

写真5:マルチタッチ対応の液晶ディスプレイでは、ジェスチャーでさまざまな操作を行える

 マルチタッチとは、複数の指を使うタッチ・スクリーン技術のことで、アップルは同技術の特許を数年前に取得している。同技術により、iPhoneでは、これまでのスマートフォンとは比べ物にならないほど直感的でかつリッチな操作を実現している。画面に表示されるボタンを指で押すことは当然だが、それに加えて画面に表示された内容を指でスクロールさせることもできる。電話帳や曲目などの一覧表示時に、指で勢いをつけてなぞると一覧のスクロールが加速する。そこで目的の名前を見つけたら、指で画面を押さえてスクロールを止めることができる。これまで一般的だった、ページ送りボタンを使う操作と比べると非常に直感的でわかりやすい。

 これだけでもかなり先進的だが、マルチタッチ操作が本領を発揮するのは、例えば写真表示中の拡大/縮小操作などである。iPhoneでは画面に映し出された写真の上に親指と人差し指を置いて引き延ばす(指の間隔を広げる)ジェスチャーを行うと写真が拡大され、逆に指を近づける動作をすると写真を縮小できるのだ(写真5)。同製品にはこうしたジェスチャー・コマンドが多数搭載される模様だ(現時点でアップルは、ジェスチャー・コマンドの種類や数については言及していない)。

画面2:iPhoneのQWERTY配列ソフトウェア・キーボード。タイプした文字キーが拡大されるエフェクトを備える

 また、文字を入力する際には、画面にソフトウェア・キーボードが表示される。タイプした文字キーが拡大されるエフェクトや(画面2)、途中までタイプした単語の推測補完といった機能を用意するなど、ソフトウェア・キーボードでも快適かつ高速に文字入力できるような工夫が払われている。

3つの内蔵センサー

 革新的なUIは、マルチタッチ対応ディスプレイだけで実現されるのではない。iPhoneには、3つの画期的なセンサーが搭載されている。

 1つ目は「接近」センサーで、これはディスプレイ・パネル上に埋め込まれている。通話で端末を顔に近づけているときなどは、画面表示をオフにして電力消費を節減するのと同時に、接触による誤操作を防ぐためのものである。2つ目は「環境光」センサーで、これは、周囲の明るさに応じて液晶の輝度を調整するためのものだ。3つ目は「加速度」センサーで、これはiPhoneの向きを確認するのに利用される。iPhoneは通常は縦に持って使うが、横向きに持ったときは、自動的に画面表示が横長のワイド・スクリーン表示に切り替わる。

 こうしたスムーズで直感的な操作は、ハードウェアとソフトウェアを一緒にデザインするアップルが最も得意とするところである。

COLUMN
アナリストが語る、iPhoneの「現実的問題」

ステファン・ローソン/IDG News Service サンフランシスコ支局

 今年1月9日、サンフランシスコでついに秘密のベールを脱いだ「iPhone」。その興奮もようやく冷めつつあるなか、同製品が抱える問題を指摘する声がアナリストから出始めている。

 米国アップルCEOのスティーブ・ジョブズ氏がみずからデモを行った、Macworld Expoの基調講演は大成功で、その革新的なデザインやユーザー・インタフェース、そして機能は、会場に詰めかけた聴衆から喝采を浴びた(写真A)。

 しかし、iPhoneに関しては、まだわかっていない点も多い。米国シスコシステムズが商標権を巡ってアップルを提訴したことから、現時点では、正式な製品名もどうなるか決まっていない。

 また、iPhoneの技術的な不安要素について指摘する向きも少なくない。米国オバムのアナリスト、ロジャー・エントナー氏は、iPhoneに備わるマルチタッチ対応ディスプレイは、電話機能のほぼすべてを操作できる画期的なものだとしながらも、画面に傷が付くと正常に動作しなくなるのではないかとの懸念を示した。

 米国ジュピター・リサーチのアナリスト、マイケル・ガーテンバーグ氏も、スクリーン上に映し出されるソフトウェア・キーボードに言及し、他社のスマートフォンに備わる小型の物理的なキーボードよりもすぐれているとは言えないと話している。片手で容易に扱えるのかどうかが定かではなく、多用されているガラスの部分は床に落としたときに壊れやすいからだ。

 加えて、バッテリについても不安が残る。そもそもアップルは、 iPhoneのバッテリをユーザー側で交換できるか否かについて何も言及していない。エントナー氏によると、一般的なGSM携帯電話では、SIM(Subscriber Identity Module)カードの背後に充電式バッテリが格納されているという。もしもiPhoneがiPodのような密閉型端末になるのであれば、SIMカードは端末側面のスロットに挿入することになると考えられるが、この部分は汚れや破損の影響を大きく受ける。さらに、電力消費の激しいWi-Fiが搭載されている点から、標準搭載のバッテリでは不足が生じる可能性もある。

 そのほか、iPhoneで利用可能なソフトウェアが現時点では少ないというのも、ユーザーにとっては不満の1つとなりそうだ。米国シンギュラー・ワイヤレスと共同でiPhone用のアプリケーション開発を進めているとアップルは述べているが、当面は候補選びに手間取るというのがアナリストの一致した見方だ。

 iPhoneに採用されたOS Xは、一般的なMacで稼働するMac OS Xの亜種であるため、アップルの協力を得ずにサードパーティ単独でソフトウェアを開発することはできない。ガーテンバーグ氏は、「メールに添付されたMicrosoft Office文書も開けないとしたら、スマートフォンとして深刻な欠陥だと言わざるをえない」と指摘する。

 また、iPhoneの欠点として、3G(第3世代)携帯電話標準の高速データ転送機能の非実装を挙げる向きも多い。米国アメリカン・テクノロジー・リサーチのアナリストであるアルバート・リン氏は、「低速な2.5G技術を採用しているiPhoneでは、エンターテインメント系のアプリケーションが快適に動かない可能性がある。3G技術の実装が見送られたのは、おそらくはコストの関係だろう」と話す。アップルはいずれ、iPhone向けにワイヤレス通信経由でのiTunesサービスを始めるはずだが、その実現は3G対応iPhoneの登場まで待たねばならないだろうと、リン氏は述べている。


写真A:Macworld Expoでは、ショーケースに納められ、来場者が触れられない状態でiPhoneの試作品が展示された

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