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事業継続マネジメント(BCM/DR)

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ビジネス・コンティニュイティに「緊急地震速報」を活用する時代

現在の情報精度を知り、自社システムへの組み込みを検証する

(2007年11月27日)

日本で事業を展開する企業にとって、欠かせないのが地震対策である。気象庁が2007年10月1日から本格運用を開始した「緊急地震速報」は、企業が地震対策を実施するうえで、大きく貢献する可能性を秘めている。実際、緊急地震速報を自社システムに組み込んで、地震対策への利活用を検討する企業が増えてきている。本稿では、現在の緊急地震速報の精度や課題について説明し、企業がビジネス・コンティニュイティの一環として緊急地震速報をどのように生かし、そして地震対策を施していくべきかを解説する。

堀内茂木
独立行政法人防災科学技術研究所 研究参事

緊急地震速報とは

 まず初めに地震について簡単に解説し、気象庁が2007年10月1日から一般向けに提供を開始した「緊急地震速報」とはどのようなものかを紹介する。

 地震が発生すると、そのエネルギーは波の一種である地震波となって地中から地表に伝わる。地震波にはP波、S波、表面波という3種類の波があり、地震発生時に最初に到着するのはP波(初期微動)となる。P波の揺れの強さはS波の約3分の1で、伝播する速度は地表付近で3〜5km/秒、深さ約2km以深で6km/秒、30km以深で7.5〜8.0km/秒となる。S波はP波のあとから伝播してくる、主要動と呼ばれる地震波であり、大きな揺れを引き起こすものだ。3つ目の波である表面波は、高層ビルなどを大きく、ゆっくり揺らす地震波の

 緊急地震速報は、震源の近くに位置する観測点(地震計)がとらえたP波のデータを即時的に解析し、それをS波や表面波による大きな揺れが始まる前にユーザーに向けて発信する、地震情報システムが提供するサービスのことである(図1)。


図1:緊急地震速報の仕組み

 地震大国日本では、世界で最も高密度・高性能の地震観測網を整備している。緊急地震速報に使われている地震計は、防災科学技術研究所(以下、防災科研)の800点と気象庁の200点を合わせた計1,000点が全国に配備されており、この観測データがリアルタイムで気象庁に送信されている。地震が発生すると、発生地点付近の観測点でP波が観測される。そのデータは即時解析され、地震の発生位置(震源)、規模(マグニチュード)、発生時刻が計算される。

 計算されたパラメータは、気象庁から気象業務支援センター(気象庁が保有する各種気象情報の提供を仲介)経由で、リアルタイム地震情報利用協議会といった気象情報などを2次配信する民間業者に送られる。そこから一般利用者に地震速報として届けられる。これが緊急地震速報の仕組みである。

 緊急地震速報のユーザーは、速報として配信されてくる震源/マグニチュードのデータを受信端末で受信する。受信端末はそれを基に、ユーザーが位置する地点の揺れの強さ(震度)を計算する。具体的には、震源とマグニチュードのデータからユーザーが位置する地点までの震源距離を計算し、地盤の違いによる揺れやすさを考慮して、震度を推定している。

 以下では、緊急地震速報の現在の精度と課題について述べる。また、課題解決のために防災科研が提案している「ホームサイスモメータ(家庭用地震計)」普及計画についても解説する。

高精度な即時震源決定技術を採用

 緊急地震速報では、震源の位置とマグニチュードの大きさを可能なかぎり早く決定する必要がある。そのため、少ないP波のデータでいかに正確な震源を決定できるかが重要となる。

 防災科研では、震源近くの地震計で観測した地震データのみを利用し、素早く震源を決定する「着未着法」を開発した。着未着法は、P波が到着している観測点の情報とP波が到着していない観測点の情報を用いて震源を推定する方法である。着未着法のすぐれた点は、少ないデータでも震源を決定できる点にある。さらに防災科研は、着未着法で震源を割り出す際に、ノイズや別の地震データが混入してしまった場合でも、そういった不要なデータを自動除去するアルゴリズムを開発し、99%の地震について正しい震源位置を決定できるようになった。

 2007年3月25日に能登半島でマグニチュード6.9の地震が発生し、大きな被害がもたらされた。多くの観測データを利用する気象庁の従来システムでは、震源の深さにかなりの誤差があったが、防災科研が開発した着未着法による即時震源解析システムでは、第1報からほぼ正確な震源を推定することに成功した。現在の緊急地震速報は、気象庁の震源解析システムと防災科研が開発した震源解析システムを統合したもので、震源/マグニチュードの即時推定力は非常に高精度なものとなっている。

表1:2007年3月25日に発生した能登半島沖地震(M6.9)の緊急地震速報の配信状況

 しかし、現状では課題も残されている。表1は、今年3月の能登半島地震における震源解析システムの速報性を示した結果である。震源から最も近い観測点でP波を観測したのが「9時41分59.9秒」であり、気象庁による第1報が配信されたのが、その7.9秒後である。より精度の高い震源情報が配信されたのは、観測してから約10秒後のことである。これはそのまま現在の緊急地震速報の情報配信スピードに当てはめることができる。

 つまり、現在の緊急地震速報では、観測点数が不十分であることに加えて、観測したデータが集まるまでの遅延時間(約2.5秒)があることなど複数の理由から、震源から約30km以内の地域では情報配信が間に合わないことになる。

高精度な震度推定が不可欠

 すでに述べたように、緊急地震速報のユーザーが情報を受信すると震度が計算され、端末に表示される。ユーザーにとって最も重要な情報は、大きな揺れになるか否かである。

 震度は、地盤により大きく変化し、100m程度ポイントがずれただけでも数倍変わってくる。そのため、震度を正確に推定するには、詳細な周辺の地盤評価を行う必要がある。なお、通常、推定される震度の標準誤差は1.09である。

 また、地震による揺れの強さは、地盤以外に建物によっても変化する。地震には揺れ方の違いがあり、1秒間に数回振動する素早い揺れ(短周期地震動)と、数秒に1回のゆったりとした揺れ(長周期地震動)が混ざり合っている。

 例えば高層ビルでは、素早い揺れには強い反面、ゆったりとした揺れには非常に弱く、高い階に行けば行くほど揺れが強くなる。逆に木造建造物は、素早い揺れに非常に弱い。

 地震には、震度が1小さくなると発生回数が約10倍増えるという性質がある。仮に揺れの予測に大きな誤差があると、企業にとっては機器の不要な制御回数が増えてしまう。それゆえ、震度のより正確な推定が重要になる。

緊急地震速報だけでは震度推定は不十分

 企業が緊急地震速報を利用すれば、地震が発生した際、揺れが到着する前に各種設備を止めることで、被害を最小限に抑えることができる。一方、止める必要がないのに設備を止めてしまうと、経済的損失につながるケースもある。例えば半導体工場では、1度設備を止めてしまうと数日間運転できなくなり、企業は大きな損失をこうむることになる。緊急地震速報に誤差がなければ問題はないが、実際はわずかに誤差があり、不必要に設備制御を行ってしまう場合が発生する。そこで以下では、どの程度の割合で不必要な制御が発生するかを検証する。

 まず、震度の大きさによる地震の発生確率の違いを説明する。1996年から現在までに、強震ネットワーク(K-NET)の全観測点で約16万回の揺れが観測されているが、震度6以上が観測されたのはわずかに3回である。震度5以上が観測されたのは合計131回であり、震度1の違いで観測数は44倍違っている。同様に、震度5.5以上が観測されたのが27回、4.5以上は400回であり、ここでは震度1の差で発生回数に15倍の開きがある。このように震度が1違うだけで、地震の発生回数は劇的に変わってくるのである。

 緊急地震速報から推定した震度に、仮に1の誤差があるとする。そうなると推定震度が5でも、実際に起こる地震は震度6になる可能性がある。震度6の揺れが到来する前に必ず止めたい機器がある場合には、震度予測が5以上で機器を止める設定をしなければならない。震度6以上と震度5以上では発生頻度が44倍違うことから、震度5で止めるように設定すると、44回のうち43回は震度6でないことになる。逆にいうと、震度6を越えるのは44回に1回しかないわけだ。

表2:企業の地震対策における機器制御方式と適切な制御の割合

 表2は緊急地震速報と地震計(P波センサー)を用いた場合における、適切な機器制御の割合を推定したものである。表2のデータは、緊急地震速報の情報だけを利用した場合の推定震度の誤差と、地震計の観測情報と併せて補正した場合の推定震度の誤差を調査し、その調査結果から導き出したものだ。前者は誤差1.09、後者は誤差0.56になる。地震計のみの推定震度の誤差は、16万件におよぶ強震観測で得られたデータに基づいて割り出したものである。また、ここでは震度1の違いで地震の発生確率が10倍変化すると仮定している。

 表2が示すように、緊急地震速報のみを利用して機器を制御しようとすると、わずか2.2%しか適切に機器を制御できないことになる。つまり、100回中2回程度しか適切に制御できないのである。しかし、緊急地震速報と併せて地震計が設置されていれば、震度を推定する精度が格段に高まり、より適切な制御が可能になることが分かる。


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