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ビジネス・インテリジェンス

「シン vs.ファット」―― MS Officeの牙城に切り込むGoogle Apps

Microsoftの“大艦巨砲主義”はついに終焉を迎えるか

(2008年01月24日)

なぜMicrosoftは倒れないのか

 「囲い込み」と「拡張」──その善悪は別にして、この2つこそがMicrosoftの長年にわたる基本戦略だ。台頭する標準技術を確認すると、同社はそのサポートを表明するとともに、その標準を“強化”するためのプロプライエタリな拡張機能を追加し、市場を囲い込むのである。

 もちろん機能的に改善されたケースもある。ACPI(Advanced Configuration and Power Interface)などのハードウェア技術では、Microsoftの推進のおかげでWindowsプラットフォームの互換性と安定性が向上した。しかし多くの場合、同社の囲い込みと拡張の戦略は凄惨な結果を招いている。例えば、1990年代後半のブラウザ戦争の勃発は、Microsoftが先行するNetscapeをたたくために非互換のHTMLタグやプラグイン標準を選択するよう開発者に迫ったことが直接の原因とされている。

 では今日、インターネットが発展し、伝統的なスタンドアロン・アプリケーションとローカルにデータをストアするファット・クライアント型のPCモデルが旧態化しつつある時代に、はたしてMicrosoftの戦略は有効だろうか。

 答えはおそらく“Outlook Good(前途良好)”だ。これまでさまざまなミスを犯してきたにもかかわらず、広大なハードウェア/ソフトウェア環境において、Microsoftは今後も絶大な支配力を維持し続けるだろう。アプリケーション・サーバからファイル圧縮ユーティリティに至るまで、Microsoftのプラットフォームはあらゆる開発者にとって第一のターゲットとなる。事実、多くの商用ソフトウェア開発が、Windowsという大きなうねりに乗って拡大してきたのだ。

画面3:「Zoho」は、米国AdventNetが運営するするホスティング型オフィス・スイート。ワープロ、表計算、プレゼンテーション・ツールをはじめ、プロジェクトやタスクの管理ツール、CRMサービス、データベース構築など多彩なサービスを用意している

 その好例がMicrosoft Officeだ。これほど広く普及しているにもかかわらず、ほとんどの人は「Word」「Excel」「PowerPoint」といったスタンドアロン・アプリケーションの単なる詰め合わせと考えている。しかし、Officeは、そうした単純なスイート製品にとどまらない。Officeは統合化された堅牢なAPI(VBA、OLEオートメーション、その他のアドイン・インタフェース)のおかげで、それ自体が商用ソフトウェア開発の有力なターゲットになっている。事実、Windows開発市場に参入する最も簡単な方法は、Microsoft Officeをターゲットにすることである。このスイートの機能を新しくしたり、強化したりするすぐれた製品を開発すれば、世界中の人々が売り場に殺到するだろう。

 もちろん、Officeは広大なWindows環境のほんの一部にすぎない。「SQL Server」や「Dynamics」、「Outlook」、「IIS(Internet Information Services)」などの製品も、多くの開発者たちの心を引き付けている。また、IISにSOAPやWSDLを実装したものや、メタデータを含んだSQL Serverを実装したものであっても、それらはそれぞれの環境において、Microsoftの囲い込みと拡張の戦略を相互に補強する仕組みになっている。

画面4:「Windows Live Mail」の画面

 こうしたMicrosoftの相互補強戦略を崩壊させうる1つの力がWebである。ブラウザ・ベースのシン・クライアントとユビキタスな接続性の組み合わせは、Microsoftの支配力を奪いつつある。しかし同社は、愚鈍そうに見えて、実はこの脅威に敏感に反応しており、ここでも有効性が実証済みの囲い込みと拡張の戦略を推し進めている。いわばゆっくりとした足取りで、足早に逃げ回る獲物を追い詰めているわけだ。

 まずは囲い込みだ。Googleや新興勢力のZoho(画面3)などの成功を見たMicrosoftは、写真共有やブログ・ツールといったコンシューマー向けのWindows Liveサービスや、契約管理、Webサイト設計といった中小企業向けのシン・クライアント型Office Liveサービスなどを投入して、積極的に反撃している。

画面5:「Windows Live Writer」の画面

 次に拡張だ。例によって、Microsoftは伝統的なデスクトップOSやアプリケーション・プラットフォームに新しいサービスを組み込み、Office LiveとWindows Liveサービスを拡張している。前述したOffice Live Workspacesや、「Windows Live Mail」(画面4)、「Windows Live Writer」(画面5)などは、どれも成長著しいLiveアプリケーション市場をターゲットとしたものだ。いずれもWindows仕様であり、Webとデスクトップの統合を実現する独自のハイブリッド・アーキテクチャを採用している。

 さらにMicrosoftは、近い将来、アプリケーション仮想化を通してWord、Excel、PowerPointの全機能をシン・クライアントで提供し、ユビキタスな接続性を実現したいと考えており、高性能ファット・クライアントに残された他のアプリケーションについても、ストリーミング・サーバの大規模分散ネットワークでサポートしていく姿勢を見せている。

 こうしたアプローチは非常に魅力的だ。Microsoftの最新のアプリケーションが低コスト、あるいはほとんどコスト・ゼロでデスクトップに配信されるようになれば、わざわざAjax(Asynchronous JavaScript+XML)アプリケーションを我慢して使う理由がなくなる。それはGoogleに困難な課題を突きつけるはずだ。

Googleに勝ち目はあるか

 たとえMicrosoftが、Office製品群をGoogle Apps方式のシン・クライアント型サービスとして提供しないとしても、Googleは決して安閑としてはいられない。自社のアプリケーションを早急に磨き上げ、独自のシン・クライアント環境とパートナーシップを速やかに構築する必要がある。しかし、そうした努力を怠らなかったとしても、Googleが大成功を収めるには、Microsoftのミスを待つほかないのが実情だ。

 ただ、Microsoftの明確なミスと言えるものが1つある。それはVistaとOffice 2007に対するユーザーの冷めた反応だ。どちらの製品も当初約束していた機能を実現しておらず、デザインの不備や安定性の欠如がIT部門の仕事を増やしている。巨大なインストール・ベースのおかげで、Microsoftはなんとか面目を保っているにすぎないのだ。

 さらに戦況を悪化させたミスとして、海賊版対策のキャンペーン展開が挙げられる。そこでとった過剰な措置が将来のWindowsユーザーを追い散らしていることに同社は気づいていない。問題は「WGA(正規Windows推奨プログラム)」にある。MicrosoftはWGAでアクティベート・プロセスとアクティベート・ステータスの管理を複雑にしてしまい、結果的に新規ユーザー獲得の障害となってしまっている。実際に筆者が体験したケースでも、WGAが原因のエラーによって、システムに問題が生じて機能が低下したり、デスクトップが完全にロック・アウトしたりしたことがあった。

 Windowsに関するもう1つの弱点は、仮想化に関するものだ。Microsoftは近い将来、同社のアプリケーション仮想化技術「SoftGrid」を活用して、主要なアプリケーションの全機能を月次または四半期ごとのサブスクリプション・モデルで提供する見込みだが、もしMicrosoftがこの方式を採用すれば、ホスティング型のアプリケーション配信が可能となり、Googleなどのシン・クライアント陣営を結果的に助けてしまうことになる。その場合、MicrosoftはGoogleよりも安価ですぐれたサービスで勝負しなければならなくなる。

 もしMicrosoftが攻撃的な価格でOffice製品群のストリーミング・バージョンを提供すれば、おそらくGoogleに勝つことができるだろう。だが、欲を出して既存の収入チャネルの保護に走るようであれば、ユーザーは一斉に“仮想Office”ソリューションではなく、Google Appsなどの代替製品の採用を積極的に検討し始めるだろう。

 また、Googleが現行のサービスを強化し、新たなISVコミュニティを構築するとともに、Microsoftが今後も製品のアクティベーションに厳格な制約を課し続け、今後投入するサブスクリプションの価格設定でミスを犯せば、Microsoftの市場支配力と伝統的なファット・クライアント型のコンピューティング・モデルが大きく揺らぐのはまちがいない。

 もっとも、そうした条件が一度にそろう可能性は低いが、IT部門は少なくともGoogle GearsとOffice Liveを比較検討し、それなりにリスク・ヘッジをかけてくるはずだ。業界の専門家らが「革命的」と興奮し、賞賛すればするほど、ユーザーは用心深くならざるをえない。結局、だれもが革命を望んでいるわけではなく、われわれの多くは、使い慣れたPCの前で世の中の変化を傍観しながら、時代の流れに乗り遅れないようにしたいと思っているだけなのだ。

COLUMN
2008年、Googleが抱える戦略的課題──アナリストらが分析
創業10周年の節目を迎え、引き続きライバルの挑戦を退けられるか

Jon Brodkin/Network World米国版

 米国Googleは、この10年の間にスタンフォード大学の地味な研究プロジェクトから世界で最も有名なブランドへと発展し、ソフトウェア最大手のMicrosoftと競い合うまでの存在になった。

 セルゲイ・ブリン(Sergey Brin)とラリー・ペイジ(Larry Page)の両氏によって設立されたGoogleは、今年で創業10周年という節目の年を迎える。今後同社は、テレビ・サービスや個人の医療情報にアクセス可能なオンライン・サービスなど、さまざまプロジェクトに乗り出すと思われるが、安閑としてはいられない。2008年の最重要課題は、オンライン広告市場における支配的な地位を脅かしかねない、さまざまなライバルの挑戦を退けることだ。

 米国IDCのデジタル・メディア/エンターテインメント・プログラム担当ディレクター、カーステン・ウェイド(Karsten Weide)氏は、「Googleにとって最も優先すべき課題は、収入源の多様化だ」と指摘し、売上げの99.1%を検索広告に頼る同社の脆弱性に警鐘を鳴らす。

 Weide氏はGoogleの当面の脅威として、オンライン・ビデオ・コンテンツに含まれる広告(オンライン・コマーシャル)を挙げている。同社がYouTubeを買収したのは、ビデオ広告事業を強化するためだったが、黎明期にあるこの市場は依然として流動的であり、巨額の収益をだれが手にするのかはまだわからないという。

 コンテンツの中に違法なものや盗作などが含まれている可能性もあるため、広告主はYouTubeへの広告に及び腰だ。また海賊行為の問題も、商業コンテンツ・プロバイダーを遠ざける要因になっている。Weide氏は、「来年には解決策が見つかるかも知れないが、実際に解決できるようになるまでにはしばらく時間が必要だろう」と語っている。問題解決に時間がかかりすぎると、現在ベータ段階にあるビデオ・オンデマンド・サイト「Hulu」などの新しい勢力がGoogleを脅かす存在になるかもしれない。

 Googleにとってもう1つの大きな課題は、モバイル広告市場だ。同社の携帯電話開発プラットフォーム「Android」は順調なスタートを切ったが、この分野ではライバルのYahoo!も攻勢をかけてくると思われる。カバーするメディアなどの点で今のところGoogleのほうが優勢だが、Yahoo!も数10億ドルの売上高を誇る有力企業であり、モバイル・インターネット市場におけるシェア(25%)も拮抗している。

 Googleは健康管理ツールの分野でもMicrosoftと競争を繰り広げている。「Google Health」のプロトタイプは、ユーザーの健康情報のセントラル・リポジトリを提供できるようになっており、本人が望めば医師や家族との間でその情報を共有することも可能だ。しかし、元Web開発者で、Googleの動向を追うブログ「Google Blogoscoped」を運営するフィリップ・レンセン(Philipp Lenssen)氏は、「Googleがこのサービスをどのような形で提供するのか、はっきりとはわからない。このサービスはプライバシーのリスクが大きすぎる。だれかにハッキングされ、ユーザーの医療記録が漏洩した場合、ダメージがきわめて大きい」と指摘する。

 このほかGoogleは、Microsoftの「Office」に対抗するホステッド・サービス「Google Apps」のアップグレード、Webアプリケーションをオフラインの状態でも使えるようにするオープンソースのブラウザ拡張「Google Gears」、新しいソーシャル・ネットワーキング・プラットフォームの開発など、複数のプロジェクトを推進すると思われる。すでに同社はアリゾナ州立大学でソーシャル・ネットワーキング・ソフトウェアのテストを行っており、近い将来正式にリリースするとのうわさもある。

 さらに、何らかの形でテレビ・サービスにも乗り出す可能性がある。詳細は不明だが、同社はテレビに対応するサービスを開発するためにソフトウェア・エンジニアのチームを雇っている。

 また、中国での事業拡大にも備えているようだ。Googleは中国で新たなWebサイトのテストを行っており、欧米スタイルのキーボードで入力した文字を中国語に変換するための入力エディタもリリースしている。同社は、中国における自社の役割について、「世界の情報を整理し、だれもがアクセスして、利用できるようにすること」と説明しているが、コンテンツについては、中国政府の機嫌を損ねないよう自主規制しているようだ。Lenssen氏は、「中国政府におもねるようなことはあまりしたくないと考えているのは確かだろうが、当面同社がその必要性を認識している間は、現在の姿勢を維持するはずだ」との見方を示している。


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