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ビジネス・インテリジェンス

「シン vs.ファット」―― MS Officeの牙城に切り込むGoogle Apps

Microsoftの“大艦巨砲主義”はついに終焉を迎えるか

(2008年01月24日)

オフィス・アプリケーション市場で今なお支配的地位を占めるMicrosoftの「Microsoft Office」に対し、「Google Apps」を武器に攻勢を強めるGoogle──。同市場における両社の競争は日に日に熾烈化している。はたしてGoogleはMicrosoftの牙城を切り崩せるのだろうか。本稿では、両社の対立の構図をクローズアップし、シン・クライアント型およびファット・クライアント型アプリケーションの現状ならびに将来の展望を概観する。

Randall C. Kennedy
InfoWorld米国版

「シン vs. ファット」
長い戦いの始まり

 「シン vs. ファット」の戦いの火ぶたがいよいよ切られた。今まさにGoogleは、機能満載のファット・クライアント型コンピューティングに総攻撃を仕掛け、Microsoftのデスクトップ支配を終わらせようとしている。もちろんターゲットは「Microsoft Office」以外にない。Googleが手にする武器はもちろん、ブラウザ・ベースのシン・クライアント型アプリケーションだ。

 インターネットを中心とする今日のIT環境において、デスクトップは単なる情報の玄関口程度の存在になりつつある。なぜドキュメントやアプリケーションをPCのローカル・ディスク内にとどめておく必要があるのか。それらをインターネット側に移せば、いつでもどこでも、どのデバイスを使っても自由に利用できるようになるではないか。また、ドキュメントをPCの牢獄から解放すれば、コラボレーションもクリック1つで可能になる──こうした考え方が、まさにGoogleのアプリケーション戦略の根底をなすものと言える。

 これと似たような兆候は、Webが登場したときにも見られた。当時、Netscape Communicationsなどの企業がデスクトップに縛られた世界を変えようとしたが、その試みは失敗に終わった。しかし、今回の流れを主導しているのは、大きな夢を抱く小さな新興企業ではなく、すでに資金も人材も豊富な大企業であることが、以前と大きく異なる点である。

 では、ファット・クライアントからシン・クライアントへの新たなパラダイム・シフトによって、Microsoft帝国のアプリケーション支配に終止符が打たれ、われわれが約20年間使い慣れてきたOfficeの命運がついに尽きる日が来るのだろうか。その議論は、長期的あるいは短期的な視点によって大きく分かれる。

Googleが直面する大きなプレッシャー

 今やだれもが知る大企業となったGoogle。優秀な人材にあふれ、資金も潤沢にある。もし同社が売り込むWebアプリケーションを中心とした「クラウド・コンピューティング」が実現すれば、Microsoftは危機に陥り、Googleが新たな王者としてアプリケーション市場でも覇を唱えるだろう。

 Googleの戦略の中核は、アプリケーションとデータをホストし、インターネットというサイバースペースへのユビキタスなアクセスを提供する“クラウド(雲)”が担っている。複雑なデスクトップOSやアプリケーション・スイート、高性能な最新のハードウェアなどは不要で、実にクリーンで信頼性の高い、革新的なアプリケーション・デリバリ・モデルと言える。

 ただ残念ながら、この“クラウド”も、現時点ではまだ実用的ではない。グリッド・コンピューティングやSaaS(Software as a Service)、アプリケーション・デリバリの管理、グローバル規模でのアクセスなど、ほとんどの技術がまだ幼年期にあるからだ。シン・クライアント型アプリケーションも、初期のWebがそうであったように、まだ先行き不透明な荒削りの欠陥製品にすぎない。

 ただ、そうした限界はあっても、Googleはサーバや特殊なインフラを導入することなく、データを簡単に共有できるホステッド・モデルの強みを生かして全力を尽くさなければならない。Microsoftはすでに(パスワードでプロテクトをかけたSharePointのワークスペースにすぎないとはいえ)Web経由でドキュメントを共有できる「Office Live Workspace」(画面1)のベータ版をリリースし、クラウド・コンピューティングのトレンドセッターのポジションを奪い取る姿勢を見せているからだ。(もちろん、Office Liveという名称にもかかわらず、Officeの全機能を提供しているわけではないので、今のところそれほど脅威ではない)。


画面1:「Office Live Workspace」(ベータ版)の画面。同サービスは、オンライン・ストレージ領域にWordやExcelの文書を保管し、他者と共有できる環境を提供する

 
 おそらくGoogleの究極の競合は、ユーザーが長年慣れ親しむWindowsとOfficeを組み合わせた環境の快適さと、ホスティング型アプリケーションのアドバンテージを融合したハイブリッド・モデルになるだろう。それこそがまさにMicrosoftの目指す方向なのだが、皮肉なことに、Windows Vistaと「2007 Microsoft Office system(Office 2007)」の大幅なインタフェース刷新、ならびにOffice 2007の不安定性に対する不満が、IT部門のMicrosoft製品離れを引き起こしており、Googleに絶好のチャンスをもたらしている。

 しかしGoogleは今、大きなプレッシャーに直面している。企業向けホスティング型アプリケーション・スイートの「Google Apps」をはじめ、オフライン対応のWebアプリケーション開発/実行環境「Google Gears」(画面2)への期待は大きいものの、実際のところ、どれをとっても不十分なものばかりであるからだ。唯一「Gmail」だけは例外と言えるが、全体的に見れば、現行のデスクトップ・アプリケーションと比較して遜色がないと言い切れるものはない。実際、まちがってF5キーを打ってしまっただけで、時間をかけた労作がいとも簡単に消えてしまうなど、ビジネスで本格的に利用できるレベルにはまだ達していない(こうした欠陥は改善されつつあるが、Google Appsの未成熟さがいかんともし難いのは事実だ)。


画面2:「Google Gears」は、サーバと通信しながら動作するWebアプリケーションを、オフライン状態でも利用可能にする技術。Google GearsをサポートするRSSリーダ「Google Reader」では、画面右上に表示される緑色のアイコンをクリックすることでオフライン・モードに切り替わり、フィード情報がローカルに保存される

 
 もっともMicrosoftの製品も、最初から安定的なものはない。どの製品も熟成するまでにいくつものバージョンがリリースされる。そう考えると、Googleも同様に中長期的な視点で戦略を展開していけば、いずれはMicrosoftを追い落とすことができるかもしれない。だが、欠陥を抱えたまま見切り発車するのは、必ずしも賞賛されるやり方ではない。

 Googleはまず、現行のサービスを強化すべきである。なかでもWebアプリケーションのオフライン時利用の実現は、Google Gearsイニシアチブでようやく解決に向けて動き出した重要な技術的課題であり、この機能を「Documents」や「Spreadsheets」、「Presentations」の各アプリケーションに早急に拡張する必要がある。ところが同社は、先ごろ打ち出したオープンソースの携帯電話向けアプリケーション開発プラットフォーム「Android」プロジェクトによって、Google Appsへの熱意が冷めてしまった感がある。Googleの経営陣は、今一度Microsoft追撃に集中し、やみくもに戦線を拡大しないよう気を引き締める必要があるだろう。高いROI(投資利益率)が見込めない無数のサイド・プロジェクトに埋もれ、身動きが取れなくなる愚だけは避けなければならない。

 ただ、たとえGoogleでも、すべてを単独で成し遂げることは難しい。今の同社であれば、必要とする人材を好きなだけ集めることは可能だろう。しかし、Webはどこかの企業1社が自在にコントロールできるものではなく、GoogleだけでWebの根源的な問題を解決することはできない。この仕事を成し遂げるにはすぐれたチームを組むことが不可欠となる。その点、Google1社だけでは心もとない。世界を変えるには、ビジョンを示すだけでは不十分で、それにはインセンティブが必要であり、Googleのクールな技術をユーザーが求める革新的な商用アプリケーションに変換できる開発者の育成が欠かせない。もしGoogleがそうした環境を整備できれば、Office王国を打ち倒すチャンスが必ずやって来るだろう。


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