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【解説】
x86プロセッサの 「これまで」と「これから」

登場して30年――進化し続けるメインストリームCPUの軌跡

(2008年09月22日)

RISCの台頭にも揺るがなかったx86“強さの秘密”

 1980年代後半から1990年代初めにかけてx86プロセッサは、米国Sun MicrosystemsのSPARC、IBM、Apple、MotorolaのPowerPCといったRISCプロセッサの猛攻にさらされた。RISCは、命令を単純化して1つの命令を1つのクロック・サイクルで実行すれば、CPUはケタ違いの速度で動作する、という考え方に基づくアーキテクチャである。これに対し、x86プロセッサのCISCアーキテクチャは、複雑な命令を複数のクロック・サイクルで実行するというものだ。

 有識者やメディア、Intelのライバル企業は当時、こぞってCISCはもう終わりだと言い立てた。ゲルシンガー氏が「われわれにとっては確かに厳しい時期だった」と語るように、危機感を持ったIntelは、独自のワークステーション用RISCプロセッサ、i860の開発に乗り出した。しかし結局のところ、i860を含め、いずれのRISCプロセッサもx86の覇権を脅かすまでには至らなかった。

 ゲルシンガー氏はその理由を次のように説明する。「486の発表日(1989年4月10日)の前日、486上で動作するソフトウェアの数は、市場規模にして数十億ドルにまで拡大していた。x86のCISCアーキテクチャは、確かにRISCよりも処理速度が若干遅かったが、RISC陣営がRISCプロセッサ向けの新しいソフトウェアを開発している間に、われわれはx86プロセッサの処理速度を大幅に向上することができた。x86はインストール・ベースが大きく開発者の数も多かったため、経済的にはRISCに対し圧倒的に優位な立場にあった。そしてRISCは、その後x86に追いつくことはできなかった」

 皮肉なことに、RISCプロセッサ向けのソフトウェアが十分に提供されていなかったことや、486とPentiumによりx86プロセッサのパフォーマンスが大きく向上したことが、i860と他社製RISCプロセッサの命運を決定づけた。Intel自身、x86以外にもう1つメジャーなプロセッサ・アーキテクチャを作りだそうとしたのはまちがいだったと、後に認めている。

 ただし、さまざまな技術革新にRISCが貢献したことも確かだと、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)のコンピュータ・サイエンス教授で、1980年代のRISC発展に大きく寄与したデビッド・パターソン(David Patterson)氏は話す。

 「例えば、DECが開発したCISCベースのVAXアーキテクチャはRISCに対抗することができず、ほとんど存在感を失ってしまった。だがIntelは、膨大なソフトウェア資産を持つx86アーキテクチャを維持しながら、RISCでポピュラーになりつつあった新しい概念を取り込むことに成功した。これは、すぐれた製造技術をIntelが持っていたことも大きく関係している」(パターソン氏)

History of x86
連綿と続くハードとソフトのスパイラル関係

 80486が登場したとき、当時のIntelのCEOであったアンディ・グローブ(Andy Grove)氏は、ムーアの法則に基づく「ソフトウェア・スパイラル」という概念を提唱した。その意味を、486のチーフ・アーキテクトであったパトリック・ゲルシンガー(Patrick Gelsinger)氏は次のように説明する。

 「ここで言うスパイラルとは、既存のソフトウェアよりも高性能なハードウェアが登場し、ソフトウェアがそれに追いつき、そしてまたより高性能なハードウェアが必要になる、という開発サイクルを意味している。この業界は実際、ソフトウェアが新たなハードウェアを生み、そのハードウェアがまた新たなソフトウェアの開発につながっていくというスパイラル関係によって、長い間進歩してきたと言える」

 マルチコアCPUが登場しながら、そのメリットをフル活用できるソフトウェアがほとんど存在しない今日でも、このスパイラル関係ははっきりと見て取れる。Intelはかねてから、並列プログラミング向けのツールおよび手法を開発するために、社内や大学での研究開発に数百万ドルの投資を行っているが、これはそのスパイラル関係の一環なのである。


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