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【解説】
x86プロセッサの 「これまで」と「これから」

登場して30年――進化し続けるメインストリームCPUの軌跡

(2008年09月22日)

Pentiumのリコール問題で企業としての“あり方”を学ぶ

 1994年の夏、RISCの脅威と同じくらいの心労を関係者に与えた危機的状況がIntelを襲った。あるときIntelのテスト・エンジニアが、新型CPUであるPentiumの浮動小数点除算回路にごく軽微な欠陥を発見したのだ。だが、その欠陥に起因する問題が実際に起きる可能性はきわめて低く、影響も限定的であったため、Intelは出荷前のCPUを修正するだけで十分と判断し、出荷済みのCPUはリコールしなかった。

 しかし、その数カ月後、米国バージニア州にあるリンチバーグ大学(Lynchburg College)の数学教授、トーマス・ナイスリー(Thomas Nicely)氏が、新型Pentiumを搭載したPCに不具合を発見する。ナイスリー氏はこの問題をIntelに報告しようとしたが、同社のだれ1人として彼の苦情に耳を傾けようとはしなかった(後にIntelもこの事実を認めている)。

 そこでナイスリー氏は、自身が発見した不具合の内容をインターネット上に公開した。そしてIntelは、各方面から非難の集中砲火を浴びた結果、企業イメージを大幅に悪化させたうえに、4億7,500万ドルを投じてCPUをリコールせざるをえなくなったのである。

 「これはIntelにとって苦い経験となったが、われわれはこの出来事を通じて消費者向け企業としてのあり方を学ぶことができた」と、アルバート・ユー(Albert Yu)氏は著書『Creating the Digital Future』の中で振り返っている。

もう1つの節目──RISC的要素を取り込んだPentium Pro

写真5:RISCの“いいとこ取り”をしたPentium Proの完成により、x86プロセッサは飛躍的な性能向上を果たした

 カーネギー・メロン大学(Carnegie Mellon University)のコンピュータ・サイエンス教授で、Intelのリサーチ・コンサルタントを務めるトッド・モウリー(Todd Mowry)氏は、x86プロセッサの歴史上でも1995年の出来事、すなわちPentium Pro(写真5)の登場を大きな節目として挙げる。

 Pentium Proは、命令の流れから次の命令を予測して順不同に処理を実行するなど、いくつかの先進的な機能を備えていた。これにより、CPUのアイドル時間を従来よりも短くすることに成功した。さらに、きわめて高速な新型オンチップ・キャッシュを搭載することで、一部のアプリケーションで大幅なパフォーマンス向上を実現した。

 「それまでのx86プロセッサとPentium Proとの根本的な違いは、命令セットを変更せずに、RISCの長所を取り入れた点だ。具体的には、x86命令をRISC命令に似たマイクロ命令に変換している。いわば、x86プロセッサにRISCプロセッサが内蔵されているようなもので、これによりx86は一気にRISCとのパフォーマンス差を解消できたわけだ」(モウリー氏)

 またPentium Proは、トップダウンの設計プロセスから誕生したとモウリー氏は話す。つまり、「高速なマシン」を設計するところから始め、その高速なマシン上でいかにしてx86プロセッサを効率的に動かすかを考えていったのだという。

 ゲルシンガー氏も、他のプロセッサ・アーキテクチャのすぐれた部分をx86に取り込んでいくアプローチは実にうまくいったと述べている。「Pentium Proでは、x86アーキテクチャが飛躍的な進化を遂げている。ここでわれわれが行ったのは、ミニコンやメインフレームからすぐれたアイデアを拝借し、それをよりよい方法で実装するということだった。こうしたことが可能だったのは、われわれの元にその土台となるすぐれた製造技術があったからだ」(ゲルシンガー氏)

 プロセッシング・コンポーネントを広範囲にわたり筐体内部で分散させるメインフレームとは異なり、すべてのコンポーネントをきわめて小さな1つの高密度チップに集積したCPUは、設計の柔軟性が高いうえ、設計が性能に与える影響も大きいと、ゲルシンガー氏は話す。実際、シリコン・チップのパフォーマンスは、ムーアの法則に従って年を経るごとに大きく向上しているが、コンポーネントを相互接続するシステムは、シリコンほど速いペースで進化していない。


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