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グリーン・データセンターを実現するマルチレベル手法
コンポーネント/サーバ/ラック/設備から検証する
(2008年01月29日)
ラック・レベル ── 局所冷却がカギ
ここでは、データセンター・レベルの下層に当たる、ラック・レベルでの電力効率向上に向けた取り組みを解説する。
サーバやストレージなどを収容するラックは、グリーン・データセンターを実現する際に重要な役割を果たす。ラック・レベルでのグリーン化への取り組みはほぼ「冷却効率の向上」に絞られ、IT機器の発熱をどうやって効率よく冷却するかという点が焦点となる。
データセンター全体における冷却システムは、基本的にIT機器の前面から冷気を吸気して背面に熱気を排気するというエア・フローになるよう配置・制御されている。そのため、ラック単位で見ても、ラックの前面から冷気を吸気し、背面から熱気が出ることになる。そこで、ラックを並べる場合に通路を挟んでラックの前面および背面どうしが向かい合うように配列すると、通路ごとに冷気の通路(コールド・アイル)と熱気の通路(ホット・アイル)を明確に分離することができる。
ホット・アイルの温度が上がっても、コールド・アイルが十分低温に保たれていれば、実用上、機器の稼働には影響しない。そのため、ラック単位でデータセンターの冷却システムを考える場合、部屋全体の温度ではなく、各ラックの吸気温度の管理をきちんと行っていればよいことになる。
ただし、こうした考え方が一般化してきたのはごく最近のことだ。ラックの配置を工夫してホット・アイルとコールド・アイルを明確に分離することは一般的になってきたが、熱気と冷気の分離や熱分布を厳密に管理する体制は、先進的な一部のデータセンターを除き、まだまだ着手されていないのが現状だ。熱気と冷気の分離も厳密に行われてはいないため、両者が混合した状態の室温を管理し、その室温を低く保つことで機器の安定稼働を目指すデータセンターが依然として多数を占めている。この結果必要以上に冷却してしまい、むだが生じていると言わざるをえない。
また、IT機器の高密度実装による局所的な「熱だまり」の発生が新たな問題として浮上してきた。省スペース型サーバやブレード・サーバなど、小さな設置スペースに多数のサーバを配置する技術が確立されたことでサーバの実装密度が高まり、局所的に高温になるケースが増えてきている。こうした状況に対応するために部屋全体の温度をさらに下げると、過剰冷却によるむだはさらに拡大してしまう。また、室温による管理では、こうした局所的な温度上昇を把握できず、結果としてサーバの熱暴走などが発生する可能性もあるだろう。
ベンダーごとに異なるラック単位の冷却手法
サーバの高密度実装が進んだことにより、ラックごとの発熱量のバラツキが大きくなってきている。一方で、部屋単位で均一に冷却することのむだが指摘されており、冷却能力を最適化することでむだな過冷却を避け、電力消費量を削減しようという動きが活発化してきた。この両者が相まって、ラック単位で緻密に冷却する「個別冷却」の動きが顕著になってきている。
最も単純な手法としては、ラックの前面に温度センサーを設置して吸気温を測定し、一定以上に温度が上昇したら警告するという手法が考えられる。これをさらに発展させると、ホット・アイルとコールド・アイルの気流を分離して相互に混合しないようにしたうえで、ホット・アイルの熱気は速やかに室外に排出して冷却器に送り、冷却器からの冷気はコールド・アイルだけに供給して効率よく機器を冷却するという、データセンターのマシン・ルーム内における気流管理の精緻化につながっていく。
ラック単位で冷却を考える場合、実現手法はさまざまなバリエーションがあり、ベンダーごとに考え方の違いが顕著に表われている。
■APC
UPS製品で知られるAPCは、ラックなどのデータセンター向け設備に関しても実績のあるベンダーであり、独自の「モジュラー・データセンター」構想を推進している(図2)。そこで取り入れられた「InRow Cooling」は、複数のラックからなるラック列を対象に冷却を最適化する試みだ。基本的には3本程度のラックに対して1台の冷却ユニットを配置するモジュラー型の冷却システムとなる。例えば、ホット・アイルを挟んで向かい合う2列12本のラックに対して、4台の冷却ユニットが冷気を供給するようなイメージだ。
| 図2:モジュラー・データセンターの概念図 *資料:APC |
冷却ユニットのエアフローは当然ながら通常のラックとは逆になっており、ラック背面のホット・アイルから熱気を吸気し、ラック前面のコールド・アイルに冷気を送り出す。また、サーバ・ラックに空きスペースがある場合、ここが通気口となってしまいホット・アイルの熱気がラック前面に回り込んだり、コールド・アイルの冷気が冷却に寄与することなくホット・アイルに通過してしまったりすることがある。こうした事態を避けるために、ラックの空きスペースをふさぐふたなども用意されており、気流管理にも配慮が行き届いていることがうかがえる。
InRow方式のメリットは、ラックの発熱量に応じて冷却ユニットの配置を変更することで、熱源近くで効率よく冷却することが可能になる点だ。ブレード・サーバなど発熱量の大きな機器に対しては、冷却ユニットを増やすことで対応できるようになる。
■日本HP
日本ヒューレット・パッカード(HP)の「HPスマート・クーリング・ソリューション」では、ラックに多数の温度センサーを設置することで、ラック列およびマシン・ルーム内の温度分布を正確に把握することが可能になる(図3)。冷却システム自体は部屋単位での冷却を前提としているが、ラック単位で細かく温度センサーを配置しており、部屋に配置された各空調機の運転量による室温変化に関して、きめ細かなデータが得られるようになっている。そのため、サーバの稼働状況などに応じて空調機の運転レベルを緻密に制御でき、それによって空調の最適化が実現できるという。
| 図3:ラックに設置した温度センサーで緻密な空調管理を実現 *資料:日本ヒューレット・パッカード |
■日本IBM
日本IBMは三洋電機と共同で「Rear Door Heat eXchanger」の冷媒仕様を開発している。これは、ラックの背面パネルに熱交換機を内蔵したもので、米国では水冷方式の熱交換機を使用したモデルが提供されているが、水冷に拒否感が強い日本市場向けに通常のエアコンと同じ冷媒を使用したモデルを新たに開発したものだ。
同製品はホット・アイルに排出する熱気を排出時点で冷却することが可能で、ホット・アイル、ひいてはサーバ・ルーム全体の室温を抑制できる。このシステムでは吸気側の冷却は行わないため、部屋全体を対象とした冷却装置との併用が想定されているが、特に高温になるラックに対して設置することで室内の他の部分に影響が及ぶことを防ぐことができる。そのため、全体の冷却能力を過度に強化することなく、高密度化に対応できるというメリットがある。
このように、さまざまな手法が各ベンダーから提案されており、現在は選択肢が一挙に拡大した状況と言える。こうした背景には、サーバ・ルームの温度管理にCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)が応用されだしたことが関係している。
空気の流れは可視化にしくいうえ、渦を巻いて反転するなど複雑な運動を起こす。そのため、空調の効果を直感的に把握することは非常に困難である。一般家庭でエアコンを使って冷房する場合でも、部屋全体を均一な温度にすることは難しく、場所によってバラツキが出るのは日常的に体験していることだ。
データセンターでは、ずらっと並んだラックの発熱量がそれぞれ異なるうえ、サーバの負荷状況も刻々と変動していく。それにより発熱量も変化し、この状況を正確に把握することも、その状況に合わせて最適な冷却能力を予測することも困難となる。とはいえ、サーバが安定稼働できる環境を用意する必要があるデータセンターでは、結果的に過剰な冷却能力を用意することで問題を回避していた。そして、これが電力消費量のむだにつながっていたわけである。
CFDは従来、航空機やF1マシンといった高価かつ高速な乗り物の空力設計や、気象解析などに利用されていた高価なソリューションだった。しかし、コンピュータの演算性能の向上などにより、現在ではサーバ・ルームの温度分布を把握し、空調設計を行うためにCFDを活用することもできるようになってきた。その結果、ラック単位で緻密な温度制御を実現できるようになったというわけだ。HPやIBMがCFDに基づいたデータセンター向けのコンサルティング・サービスを提供しているほか、国内ベンダーの日立もCFDに基づいたサービスを提供している。
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