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【連載】
関西圏における自治体広域連携

第11回 創造都市と物報惣複合体

(2006年08月12日)

 地域が抱える大きな課題の一つとして「住民の安全と安心の確保」がある。そのための仕組みを確立するには情報通信技術を活用したシステムだけでも人手によるアプローチだけでも足りない。両方が有機的に呼応して働く仕組みが必要となる。

中野 潔
大阪市立大学 創造都市研究科 都市情報学専攻 教授
大阪安全・安心まちづくり支援 ICT活用協議会 副会長

 連載もいよいよ最終回となった。この数年間、広義の「自治体と情報化」の分野において、関西でもいろいろな動きがあった。まずは、そうした動きを担ってきた団体に目を向けてみよう。

 では、筆者が関係してはいるものの、中心となっているわけではない組織から紹介しよう。摂南大学の島田達巳教授らが中心となった「関西情報化維新協議会」、関西だけを対象としたものではないが中村伊知哉スタンフォード京都センター所長らが中心となった「地域情報化政策研究会」、および「コンテンツ政策研究会」などがある。池田市役所OBらが設立した「NPO法人地域情報化推進機構」の意義も大きいと考えられる。兵庫県立大学の辻正次教授が会長を務める「KANSAI@CANフォーラム」の活動も、更に活発化するものと思われる。

 手前味噌になるが、筆者が幹部を務めている組織で目立った動きがあったものとしては、「大阪安全安心まちづくり支援ICT活用協議会」(大安協)、「関西広域連携協議会の情報化グランドデザインワーキンググループ」、(財)関西情報・産業活性化センターの「関西情報化白書委員会」などが挙げられる。

情報メディア環境の整備と産学民による創造都市の実現

 こうした団体活動の一方で、これから重要になる幾つかのキーワードについて説明したい。

 まず、「地域情報化政策」であるが、これにはいろいろな意味がある。行政組織のための通信プラットフォームの整備、住民のための同じく整備、これらの2つのプラットフォームにおける業務利用促進、そして業務利用のためのコンテンツの整備促進などである。利用分野としては、行政業務遂行、学校教育、社会人教育、医療、福祉、コミュニティー連携強化、各種生活支援、観光、産業支援、コミュニティービジネス支援、後述の社会安全確保などが挙げられる。

 次のキーワードは「コンテンツ政策」である。前述の業務利用のためのコンテンツの整備促進、映画、テレビ、音楽、出版、マンガ、ゲームなどのいわゆるコンテンツの産業育成、そうした各種コンテンツのための種々の人材(クリエイター、プランナー、ディレクター、プロデューサー、財務管理者、出資ファンドのための評価者、法務・知財関係者)の育成、そのための学校の整備、仕事の発注者と受注者のマッチング事業、ファンドや担保制度や保証制度の整備などである。

 例えば、大阪府では、コンテンツファンドの事業が始まっている。行政からのコンテンツ受注のように、支払われる可能性の高い債権を担保にした融資についても検討がなされている。

 この地域情報化とコンテンツの整備は、住民の側からみれば、情報メディア環境の整備ということになる。デジタル分野の環境だけでなく、図書館、博物館や広報だより、回覧板などまで含めて、情報メディア環境としてとらえる必要がある。行政からみれば、産業、学術機関、住民の各セクターが、知的創作に励んでくれる創造都市の実現につながる。

社会安全システムと筆者提唱の物報惣複合体

 整備したコンテンツが、企業や住民や訪問者によって確実に利用され、豊かな暮らしと仕事の営みに結び付くためには、社会の安全が確保されていなければならない。本連載で何度か記したように、安全安心と情報通信技術の活用とを結び付ける、全国に先駆けた組織である大安協を擁する関西は、この分野の先端を行く。

 住民の安全と安心とを確保するための仕組みは、「社会安全システム」と呼ぶことができよう。社会安全システムの確立には、情報通信システムだけでも、いわゆる人間系という人手によるアプローチだけでも足りない。両方が有機的に呼応して働く仕組みが必要である。

 RFID(無線ICタグ)や非接触ICカードは、この種のシステムのための情報通信技術として、最も有効なものの1つである。本連載でも、何度か登場している。これに関連して筆者が提唱しているのが、『物報惣(ぶっぽうそう)複合体』という概念である。

 唐突だが、読者の前に置かれた工作機械を、技術的に調査すれば価値が分かるだろうか。その所有者がだれか、リース期間がいつまでか、担保になっていないか──などを調べなければ、本当の経済的価値は分からない。社会の事物において、物体そのものを幾ら調べても限界がある。紙の台帳などに書いているその事物に関する情報と合体して、初めて社会的存在として完成する。

 この命題は、実はデジタル技術が普及する前から成立していた。しかし、資産の台帳や借用証書に書かれた物品と、特定の住所の特定の場所に置かれた物品とが本当に一致するのかどうか、一片の曇りもなく断定できるとはかぎらない。だからこそ、長期占有による取得時効の成立にみられるように、事物と情報との間のリンクが確かでないとき、事物自体の現状と、その置かれている情勢の現状とを第一の拠り所として社会的判断を下すのである。

 そうした状況は、宅配便の荷物にバーコードを付け、データベースで存在場所が検索できるようになったころから変わってきた。商品流通のバーコードと異なるのは、外見がそっくりでも、荷物一つ一つが完全に識別できることである。

 バーコードをRFIDタグに換えれば、特にペットの管理について一部で提唱されているように、RFIDを動物や物品に完全に埋め込めば、事物とデータベース内の情報とのリンクが、誤りの非常に少ない形で張られる。物と報(情報)とが総合された社会的存在、物報惣複合体の完成である。「惣」は「総」と同じく、「統べる」の意である。「物」と「心」の2つの部分からなる漢字なので、総と置き換えて使うことにする。

 この物報惣複合体の意義は、ロボットやRFIDや各種の無線通信が都市基盤として組み込まれる大阪駅の北ヤードで、2011年前後には実感できるようになるだろう。

(月刊e・Gov 2006年3月号より)



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