【 ここから本文 】

グリッド・コンピューティング

ソーシャルブックマークに登録 : Yahoo!ブックマークに登録 はてなブックマークに登録 del.icio.usに登録 newsing it!に登録 Buzzurlにブックマーク livedoorクリップに登録 Slashdotにタレコむ イザ!ブックマークに登録 Twitterでつぶやく
print 印刷用ページの表示


【特別対談】グリッドによるサービス・イノベーション

日本IBM首脳と問題学・構想学の権威がグリッドを語る

(2007年05月25日)

グリッドの2つの顔

妹尾:さらにもう1つ、グリッドには、「生産性の向上に寄与できる」という一面があります。つまり、グリッドは、イノベーションを支えうると同時に、(既存ビジネスの)生産性向上も成しえるという、2つの顔を持っているわけです。御社では、その両面をねらっているのではないですか。

岩野:そう言えるかもしれません。また、グリッドによるイノベーションを起こすうえでも、「生産性の向上に寄与できる」という価値を訴求することは大切だと思います。

 実際、ある技術の本来的な目標がイノベーションにあるとしても、そのことばかりをユーザーに訴えていたのでは、アイデアは浸透しません。つまり、技術の根底にあるイノベーションのアイデアだけを見せられても、ユーザーにすれば、“月に行きましょう”と誘われているのと同じで、現実感がないわけです。

 そこで必要とされるのは、より現実的な価値をユーザーに訴求し、技術を買ってもらい、背後にあるアイデアのすばらしさを徐々に理解してもらうことです。

 したがって、グリッドについても、「システムのTCO(所有総コスト)が削減できる」といった、現実的な価値をまずは訴え、技術を購入してもらうことが重要ではないでしょうか。逆に、この辺りをうまくやらないと、1つのアイデアを市場に浸透させるのは、きわめて困難だと言わざるをえないのです。

妹尾:思えば、PCにしても、当初は単なる効率化の道具と見なされていましたね。私が、「PCによって業務自体、そしてビジネス・モデル自体が大きく変わるんです」としきりに訴えても、それを理解してくれた経営者はほとんどいませんでしたし。

 そう考えれば、グリッドも、PCと同じように、まずは効率化の観点から企業への導入が始まり、次の段階へと進むのかもしれません。

 ちなみに、私は、こうした流れを、「ツールから環境へ」という言葉で表現しています。例えば、PCも、当初は単なる「(効率化の)ツール」でしたが、気づけば、「環境」の一部として組み込まれていました。グリッドの場合も、それとまったく同じことが起きるのかもしれません。

イノベーションの下地

岩野:もっとも、グリッドのアイデアを受け入れる社会的な下地はかなり整いつつあると言えるでしょう。

 例えば、サービスに関して言えば、サービスの提供者はすでに、(ユーザーとの間で)サービス・レベル・アグリーメントをしっかりと結び、それに基づくサービスが提供できるだけの体制・基盤を整えています。

 また、サービスを受ける側にしても、さまざまなサービス・コンポーネントを組み合わせて用いるという考え方を、当然のこととして受け止めるようになってきました。

 さらに、インターネット上でさまざまなソフトウェア・サービスが提供されるようになり、多くのユーザーが、サービス化されたコンポーネントをビジネス・プロセスの中に組み込み始めています。

 このような流れの中で、社会全体が“いずれは仮想組織の世界へと移行するんだ”ということを、無意識のうちに感じ始めているかもしれません。少なくとも、世の中が、グリッドの考え方を受容しやすい環境になっていることは確かです。

妹尾:要するに、グリッドについての「言説」が受容される下地が出来上がりつつあるというわけですね。

岩野:「言説の受容」というのは?

妹尾:簡単に言えば、1つのアイデアに対して、「それって、ありえるかも」、「それって良いね」と、人が認めることです。

 例えば、「仮説検証」という方法がありますが、これは、仮説の「論理的整合性」と「経験的妥当性」を、「演繹」と「帰納」という2つの論法によってそれぞれ確認することを指し、その過程で、データ解析や論理的推論などが行われます。

 その結果として、ある仮説の「論理的整合性」と「経験的妥当性」がともに確かめられた場合に、その仮説が「承認」されたことになるわけです。

 この手法は、科学的なアプローチですが、私には、それによってイノベーションや新しいムーブメントが起きるとは思えません。また、「仮説検証型経営」といったことが言われますが、仮説の検証は科学者に任せていればよく、経営の現場では、「こうなったらいいね」とか、「こういうことができるかもしれないね」といった議論をが主体となるはずです。それが、いわゆる「言説受容」の世界です。

 言説が受容されるかどうかは、「現実感の喚起性」と「価値観の共感性」という2つの軸で見ます。このうち、「現実感の喚起性」とは、「それって、ありそうだ」と思えるかどうかです。

 一方の「価値観の共感性」とは、「それって、良いことだ」と感じられるかどうかです。この2点において、何らかのアイデア(言説)が受容されると、人は、その達成に向けて努力を始めます。結果として、新しいムーブメントが巻き起こされたり、イノベーションが実現されたりするのです。

岩野:なるほど。そう考えると、グリッドについての言説は受容されつつあると言えるかもしれません。

 とはいえ、グリッドによるサービス・イノベーションを本格的に起こすには、もう1つ、何かが必要なような気もします。

 例えば、SOAの世界では、業界ごとのビジネス・プロセスの標準化が進んでおり、コモディティ化されたコンポーネントを、サービスとして自在に組み合わせて、用いられるような環境が実現されつつあります。このような流れが、やはりグリッドにも必要ではないでしょうか。

 言い換えれば、グリッドのサービス化という部分で、(仮想的かそうでないかにかかわらず)特定のエリア、ないしは業界における標準化を推し進めるような仕組みがほしいところです。また、そのような仕組みが創出され、特定の業界なり、ドメインなりのグリッドの効率性、または利便性が一段と高まれば、グリッドはもう一回ブレークするような気がします。

妹尾:一方で、「サービスは標準化されないからサービスとしての存在意義・価値がある」といった論もあります。サービス・コンポーネントの標準化やコモディティ化は、そうした考え方とコンフリクトしないのですか。

岩野:しないと思います。コンポーネントというかたちで、特定のサービスがコモディティ化され、標準化され、他とつながることで、結果的に、新しいサービス形態が生まれるはずです。つまり、サービス・コンポーネントのインテグレーションの仕方、インフラ設計の仕方によって、さまざまな形態のサービスが登場してくるというわけです。

 ちなみに、かつては、インターネットによって中間業者が市場から消え去ると言われていましたが、実際には、新しいタイプの中間業者(のサービス)がインターネット上で登場してきています。グリッドの世界でも、おそらく、同じようなことが起きるのではないでしょうか。


前のページへ < 123 > 次のページへ



関連記事

▲ページの先頭へ戻る


特別対談

グリッドのビジネス活用

その現在、そして未来を展望する

グリッドによるサービス・イノベーション

日本IBM首脳と問題学・構想学の権威がグリッドを語る

グリッド基礎講座

グリッド入門【前編】

グリッドの要素技術を知る

グリッド入門【後編】

グリッドの標準化動向とビジネスへの適用

ビジネス活用

グリッドの経営価値【前編】

“内部統制”と“リスク管理”のためのIT基盤

グリッドの経営価値【後編】

データセンターとグリッド

キャッチ・アップ

「ビジネス・グリッドの進展には、標準の確立が欠かせない」

イーベイ研究開発幹部

【GridWorld報告】「グリッドのビジネス活用はなぜ進まないのか?」

課題はROI/セキュリティ/IT部門の意識/活用手法?

国立情報学研、研究開発を支援するオープンソースのグリッド・ソフトを公開

研究機関でのリソースの相互連携に向け

Cellプロセッサが見据えるCPUテクノロジーの未来

ゲーム機にとどまらない、リアルタイム分散コンピューティングの可能性

事例研究

ワコビア銀行、グローバル・グリッド・システムを構築

米国と英国に分散した約1万のCPUを有効活用

トレンド・フォーカス

アルゴンヌ国立研究所、グリッド研究を支援するオープンソースのツールキットを公開
遠隔地のデータをリアルタイムに共有
2大グリッド推進団体の合併が完了、新団体「OGF」が誕生
「EGA」と「OGF」が組織を統合
10万台のPCを接続したグローバル・グリッド、1GB/秒の転送速度を達成
欧州素粒子物理学研究所の宇宙研究ネットワークで
ニューヨーク州で災害時データ復旧用グリッドの開発がスタート
中小企業のストレージ・バックアップを支援
企業グリッドの開発・普及推進でIBM、サン、HP、インテルが結集
オープンソース開発プロジェクトの支援に向け

Weekly Ranking

集計期間:01/02〜01/08


トピック一覧

ニュース特集

セキュリティ

ソフトウェア&サービス

経営/業務改革

ITマネジメント

データ・マネジメント

プラットフォーム

IT基盤技術

ハードウェア

ネットワーキング

トレンド

IT業界動向


Computerworld Global
米国
英国
中国
ドイツ
オーストラリア
シンガポール
その他の国