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グリッド・コンピューティング

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【特別対談】グリッドによるサービス・イノベーション

日本IBM首脳と問題学・構想学の権威がグリッドを語る

(2007年05月25日)

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グリッドとフェデレーテッド・システム

妹尾:ここで、もう1つ、私のアイデアについて、岩野さんのご意見を伺いたいのですか。

岩野:それは、どのようなものですか。

妹尾:グリッドについては現在、“コンピューティング環境ありき”で語られていますが、私は今、グリッドの概念は、コンピューティング・パワーがないところでも有効ではないかと思い始めています。

 要するに、人の能力や経営資源を、グリッド的な考え方で相互に結び付けることができれば、(コンピューティングのパワーを借りずとも)何か面白いことができるのではないかと考えているわけです。このアイデアについて、どう思われますか。

岩野:それは非常に興味深いアイデアですし、それに似た議論は、われわれも以前から行ってきました。例えば、仮想化の歴史を振り返ると、ハードウェアの仮想化に始まって、ソフトウェアの仮想化が実現されるようになり、今では、仮想化の領域がサービスへと広がっています。

 とすれば、最終的に、仮想化は人へとたどり着くはずで、そのときに、どのような組織形態、ビジネス・モデルが生まれるのかについて、われわれも議論を重ねてきました。

 その中で、われわれが導き出した1つの結論は、(グリッドなどで)仮想化が徹底的に進んだ世界では、“フェデレーテッド・システム”が形成されるのではないか、というものです。

妹尾:フェデレーテッド・システムですか?

岩野;ええ。実のところそれは、オートノミック・コンピューティングでわれわれが目指した仕組みでもあり、簡単に言えば、「通常は、個別の意思を持ってバラバラに機能しているリソース(の能力)を、目的に応じてすぐに集め、協調して動作させられる」というシステムです。

 例えば、人の体を構成する各パーツ(リソース)は通常、それぞれが勝手に機能していますが、それでも全体としての統制は取られていて、何からの目的・問題が発生するたびに、必要なリソースの離合集散が繰り返されます。われわれは、そのような仕組みをフェデレーテッド・システムと呼び、オートノミック・コンピューティングのメカニズムとして実現しようと考えたわけです。

妹尾:そのお話を聞いて、少し驚いています。なぜならば、岩野さんの言うフェデレーテッド・システムの考え方は、私が15年ほど前に整理した“組織とリーダーシップの関係”についての考え方と非常によく似ているからです。

岩野:それは、どういった考え方なのですか。

妹尾:この議論の中で、私は、組織とリーダーシップの関係を3つのモデルに整理しました。ピラミッド型組織を取り仕切る統率ボス型(つまり、大統領型)と、文鎮型の組織で調整役を務めるコーディネーター型(内閣総理大臣型)、そしてネットワーク的組織でプロジェクトを立ち上げ・推進するプロデューサー型の3つです。

 このうち、プロデューサー型のリーダーは、人・組織の利害関係を調整するコーディネーターとは異なるものです。実のところ、日本の文鎮型組織がうまく機能してこなかった理由は、組織のトップに調整役を強いてきたからです。

 一方、プロデューサー型のリーダーの場合、1つの目的を果たすために、必要なリソースを組織横断的に集め、プロジェクトを形成し、それを成功へと導く役割だけを担っています。つまり、「この指止まれ」と言って、皆を惹きつけ、先導していく人間です。そして、そのプロジェクトが終了した段階で、次のプロジェクトをまた立ち上げるわけです。

 プロジェクトを起点にした、こうしたリソースの離合集散の考え方は、岩野さんが先ほどおっしゃられたフェデレーテッド・システムのそれとほとんど同じではないでしょうか。

岩野:いや、まったく同じです。実のところ、オートノミック・コンピューティングでは、妹尾さんのおっしゃられるような、プロデューサー型モデルを軸にした仕組みを目指していました。

 ただし、オートノミック・コンピューティングの中では、結局、“調整役”を据えた文鎮型の仕組みを実現するにとどまり、フェデレーテッド・システムに関する議論は、オートノミック・コンピューティングとグリッドをどう融合するかという議論に集約される格好になっています。

妹尾:いずれにせよ、岩野さんの言うフェデレーテッド・システムでリソースの離合集散が行われると、それがトリガーとなって、他のプロジェクトの創出へと次々につながっていく可能性もあります。すなわち、プロジェクトのクラスタ化ですね。つまり、次々とバリューチェーン・サプライチェーンが連続的に形成されていくということです。

 ですから、仮に、フェデレーテッド・システムがグリッドによって実現されるならば、もっとミクロの、プロジェクト・レベルのクラスタ・モデルが形成される可能性が広がるわけです。この辺りも、実に興味深いところです。

ユーザーの視点に立脚したコミュニティの実現を

妹尾:ところで、グリッドと人との関係を語るうえで、もう1つ忘れてはならないのはコミュニティだと思います。

 コミュニティの形成原理は大きく3つあります。1つは、「地縁・血縁」という原理で、それによって形成されるのは「地域コミュニティ」です。また、2つ目は「社縁・業縁」の原理で、それによって形成されるのが「職域コミュニティ」です。残る3つ目が、「関心の縁」の原理(つまり、「関心の対象が同じ」という原理)で、それによって形成されるのが「関心領域コミュニティ」です。

 そして、これらのコミュニティがそれぞれ「バーチャル」、「リアル」、「ハイブリッド」の3つに分かれるので、合計9つの形態のコミュニティが並存しているわけです。

 これらのコミュニティで、これからどういった変化が起こるのかと言えば、それは、これまで「職域コミュニティ」にしか属していなかった「団塊の世代」が、他のコミュニティに大量に流入し始めるということです。その結果、各コミュニティは、間違いなく、大混乱に陥るでしょうが、この事態に備えた方策・政策があるわけではありません。

 しかし、グリッド(ないし、グリッドの考え方)ならば、「あらゆる形態のコミュニティに資する」という点で、そうした混乱に対応できる可能性があるのです。

 その意味でも、グリッドにおける仮想組織の考え方には、ぜひ、参加者の視点を盛り込んでほしいと考えています。

岩野:参加者とは、つまり、グリッドで形成されたコミュニティに参加し、サービスを提供するユーザーのことですか。

妹尾:そうです。今のグリッドの(仮想組織の)考え方には、そうしたユーザーの視点が、どうも足りないように感じます。逆に、そうした視点を持ち込めば、もっと面白い仕組みが考えられるのではないでしょうか。

 例えば、団塊世代の人が、グリッドで形成されたコミュニティに参加し、自らサービスを提供することで、大きな満足感が得られたり、自己の希少価値を実感として持てたりするとします。

 そうなれば、コミュニティに対する彼らの貢献の意欲はグンと高まるでしょう。もっと言えば、サービスを提供する一員になることが、その人自身にとってのサービスとなるようなコミュニティがグリッドで形成されるならば、グリッドは間違いなく次の段階へと進むはずです。

岩野:確かに、そうかもしれませんね。

妹尾:そこで、私としては、グリッドが目指すべき1つのモデルとして、ユーザーの視点に立った「今なら、ここなら、これなら、私はサービスを提供できます」といった、“なら・ならモデル”を提唱したい。

 これは、例えば、「こういったサービスを提供してほしい」という依頼がネットワークを通じてコンピュータから来たときに、ユーザーが「こういったことなら、このときなら、ここまでなら、サービスが提供できるよ」と応じて、各自の可能な範囲でコミュニティに貢献できるというモデルです。

岩野:なるほど、わかりました。そのモデルに必要とされるのは、人が、自分の能力を、簡単に、どこからでも、いつでもサービスとして提供できる仕組みやツールですね。

 そして、そうした仕組みやツールを提供することができれば、それがグリッドの起爆剤になりうると。

妹尾:そのとおりです。ぜひ、そのような仕組みによって、グリッドによる“なら・ならモデル”を実現していただきたい。また、そうなることを期待しています。

岩野:今日は夢のあるお話をありがとうございました。

(Computerworld.jp)


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