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【解説】
実用化に向けて歩を進める「ネットワーク・コーディング」

期待が集まる次世代ネットワーク技術の“今の実力”

(2008年02月25日)

ここにきてMicrosoft、HP、Intelなどの大手ベンダーが、コンテンツ配信からワイヤレス・ネットワークに至るまで、あらゆるネットワーク・システムのスループット、スケーラビリティ、効率性を向上させると目される、ある技術に注目し始めた。それが、「ネットワーク・コーディング」である。本稿では、この次世代ネットワーク技術について解説するとともに、同技術に対するベンダーの取り組み状況や市場としての将来性などについて紹介する。

Jim Duffy
Network World米国版

研究・開発は進むもののその可能性は未知数

 7年前、数人の研究者によって提唱されたネットワーク・コーディングは、これまで一般にはほとんど知られることがなかったが、大学やベンダーの研究所では地道に研究開発が進められてきた。

 まだ評価が確立しておらず、「新たなネットワーキング革命を引き起こす画期的技術」と賞賛する支持者がいる一方で、「既存のルーティング機構をベースにしたアーキテクチャで採用される程度」と冷ややかに見る向きもある。ちなみに支持者側は、この技術はネットワークのスループットを従来の2倍以上に向上させたり、信頼性や安全性を高めたりといった、すぐれた特徴を持つと主張している。

 ネットワーク・コーディングの仕組みを簡単に説明すると、複数のメッセージを小さなビット単位の「エビデンス」に分け、それを一塊にして送信し、宛先ノードで復元するというのがその骨格である(図1)。複数のメッセージを混ぜ合わせるというシンプルな仕組みで、ネットワークの強化が不要であることから、ネットワークの効率性を高めるとされている。


図1:ネットワーク・コーディングの基本的な仕組み

 ネットワーク・コーディングは、ルータやワイヤレス機器などさまざまな製品に実装できるし、「ネットワーク・コーダ」という新たな形態を取る可能性もある。

 すでにIntelは、ネットワーク・コーディングをワイヤレス基地局の通信範囲拡大に利用することを検討しており、Microsoftはこの技術の試験運用を行った(次ページ下コラム参照)。一方、Cisco Systemsは、ネットワーク・コーディングに関する計画を公表しておらず、広報担当も以下のようなコメントを出すにとどめている。

 「ネットワーク・コーディングについては、多様なトラフィックを識別し、それらに優先順位を付けてネットワークのキャパシティを増大させる技術として研究を進めているが、まだ、ネットワーク・コーディング製品を提供する段階ではない」

複数パケットを混ぜ合わせネットワークの効率化を図る

 ネットワーク・コーディングは、ビット単位の「排他的論理和(exclusive or:xor)」という演算子で、パケット内のデータと別のパケット内のデータを操作する。2つのビット・パターンで対応するビットごとに論理演算を行い、対のビットが異なる場合は「1」、同じ場合は「0」とする。この1と0がエビデンスとなる。エンドステーションあるいは論理演算を行う機能を持ったノードは、エビデンスを基に送られてきたメッセージを復元する。こうすることで、パケット数やネットワークのキャパシティを増やすことなく、宛先ノードで効率的に複数のメッセージを受信できるようになる。

 このような利点を「データの代数的性質を利用することで、パケットを操作する自由が得られる。その結果、ネットワークを効率化する可能性が開ける」と表現するのは、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)電気工学/コンピュータ・サイエンス学科の准教授で、ネットワーク・コーディング研究の第一人者としても知られるムリエル・メダール(Muriel Medard)氏である。

 Medard氏のようなネットワーク・コーディング支持者は、この技術は特にインターネットのようなルータ共有型インフラ、ピア・ツー・ピア(P2P)コンテンツ配信、ワイヤレス・メッシュ・ネットワークなどで活躍するとしている。また、同氏をはじめとする研究者たちは、ネットワーク・コーディングはあらゆる形態の通信システムの伝送速度と信頼性を劇的に向上させ、ネットワーク分野に新たな革命を起こすと論文で述べている。なお、Medard氏によれば、ネットワーク・コーディングをどのような形で取り込むかは、個々のネットワークの目的によって異なるという。

 ちなみに、類似した高速転送技術に「MPLSトラフィック・エンジニアリング」があるが、これはパケットにラベルを付加する技術であり、パケット内のデータを直接操作するネットワーク・コーディングとは本質的に異なる。「ネットワーク・コーディングは、パケットのフィールドではなく、パケット内のデータを操作でき、しかもそれを元どおりに復元する」とMedard氏。

 ただし、現行のルータやスイッチでは、こうした操作は不可能だ。現行機器はパケットのソースと宛先フィールドを基に同一ノード上でインプットをアウトプットへとマッピングし、トラフィックを振り分ける。つまり、異なる2つのパケット内のデータを組み合わせたり、あるノードのインプットを別のノードのアウトプットとしてマッピングしたりする機能は持ち合わせていないのだ。

 なお、Medard氏によれば、ネットワーク・コーダはルータに取って代わるのではなく、オーバーレイ・ルーティングの機能を果たすものであるという。もっとも、将来的にネットワーク・コーディングがもたらすメリットがルータに不可欠な要素だということになれば、ルーティング技術そのものが本質的に変貌してしまう可能性も否定できない。


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