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オープンソース

オープンソースVoIP「Asterisk」
エンタープライズ展開の現実味

大規模企業はOSSのメリットを電話においても享受できるか

(2007年07月06日)

従来型PBXから
スムーズに移行可能

 ここで、Asteriskについて簡単におさらいしておこう。1999年にスペンサー氏が開発したAsteriskは、オープンソースのライセンス規約GNU GPL(General Public License)の下にリリースされたIP-PBXソフトウェアである。運用は一般的なサーバ・ハードウェアで行う設計になっており、市販のIP-PBXと比べて大幅にコストを削減できる。テストやバグ・フィックス、機能の開発は、オープンソース・コミュニティで行われている。

 無料でのダウンロード提供のほか、ビジネス利用を目的とした有料版も提供されている。有料版には、シート数に応じたライセンス、保証、サポート契約、説明書などが含まれる。もちろん、購入は、無料ダウンロード版を試しに使った後でかまわない。

 従来のPBXからIP-PBXにリプレースするときには、アナログ電話機への対応が問題となる。Asteriskは、ディジウムのデジタル/アナログ変換器である「IAXy ATA(Analog Telephony Adapter)」のようなFXS(Foreign eXchange Station)ライン・カード、あるいは米国グランドストリーム・ネットワークスや、米国リンクシスの製品などを使うことで、アナログ電話機に接続することができる。

 しかし、Asteriskは主に、ディジウムが開発したIAX(Inter-Asterisk eXchange)プロトコル、もしくは標準のSIP(Session Initiation Protocol)をベースとするIP電話向けに作られており、プロプライエタリなプロトコルへの対応は得意ではない(コラム参照)。例えば、米国シスコシステムズの電話機向けのSCCP(Skinny Client Control Protocol)をAsteriskで利用するためのモジュールは、信頼性が十分とは言えない。

 また、AsteriskはIP電話向けのソフトウェアではあるが、PBXからのリプレースが可能なことからもわかるとおり、発信回線がIPである必要はない。Asteriskは米国ブロードボイスや米国ボイスパルスといった、商用VoIPプロバイダとリンクできるだけでなく、必要なハードウェアがあれば、T1などのTDM(Time Division Multiplexing)回線を使って、公衆交換電話網(PSTN)にも対応することができる。

 また、Asteriskサーバ内のPCIライン・カード、もしくは「Grandstream GXW-4108」などの発信FXO(Foreign eXchange Office)ゲートウェイを介して、複数のアナログPSTN回線を利用することもできる。なお、Grandstream GXW-4108は、8本のアナログ電話サービス(POTS)回線を扱うことができ、それぞれの回線をAsterisk内のSIP回線として指定可能だ。

短時間でのセットアップが
可能なパッケージも登場

 Asteriskに関する最も大きな誤解は、Linuxのみに対応しているというものだろう。しかし、実際は、Asteriskを32ビットのWindowsで走らせるプロジェクトも進められており、Windowsを含む多くのプラットフォームに対応している。

 Asteriskを利用するには、対応OSを搭載したサーバにインストールするという方法のほか、LinuxとAsteriskがあらかじめパッケージ化されたディストリビューションを利用することもできる。

 今日、最も人気の高いAsteriskディストリビューションは「Trixbox」だろう。これは、Asteriskのほか、Red Hat Enterprise Linuxクローンの「CentOS Linux」や、OSSのAsterisk管理ツール群、そして展開を容易にするためのカスタム・コードなどで構成される。Trixboxを使えば、AsteriskとLinuxをベースとしたIP-PBXが、わずか20分で完成する。

 同様なAsteriskディストリビューションとして、本家のディジウムも「AsteriskNOW」を最近リリースした。AsteriskNOWは、Trixboxと同じアプローチをとりながらも、異なる管理ツールを提供する。

 スペンサー氏は、TrixboxとAsteriskNOWの違いとして、TrixboxはAsteriskを同梱しているものの、Asteriskとはまったく連携が図れていないことを指摘する。

 「AsteriskNOWは、AsteriskとWebブラウザをつなぐHTMLゲートウェイを基本としたものだ。手動で加えた変更は、AsteriskとWebユーザー・インタフェースの両方に反映される。一方、Trixboxには、そのような機能は実装されていない」(スペンサー氏)

 しかし、Trixboxは、操作インタフェースとなるデスクトップ・アプリケーション「HUDLite」向けのGUIを容易に開発できるほか、OSSのCRMアプリケーション「SugarCRM」との統合や、一般的なIP電話モデルの構成ツールなど、AsteriskNOWにはない機能を備えている。そもそも、AsteriskNOWはまだベータ版の段階である。

 Asteriskを管理するためには、Linuxの基礎知識を持っているほうが望ましいが、必ずしも必須ではない。管理ツールの「FreePBX」などには、Asteriskを運用管理するためのGUIが用意されており、IP-PBXシステムの拡張や回線の構築はもちろん、複雑なダイヤル・プランまで容易に行うことができる。また、音声応答システム(IVR:Interactive Voice Response)機能や、ボイス・メールなどの機能も容易に管理が可能だ。実際、コマンドラインを一度も使うことなくAsteriskでIP-PBXを構築することができるようになっている。

 ただし、大規模なIP-PBXシステムを構築する場合は、LinuxとAsteriskのコマンドを理解している必要がある。一方、小・中規模での構築であれば、セキュリティ・アプライアンスの中で稼働しているLinuxを意識する必要がないのと同様に、コマンドの知識まで求められることはない。

最大の不安要因である
サポート体制の充実に期待

 大規模企業が、オープンソースVoIPの導入を躊躇する最大の不安要因はやはりサポートである。その点に関してAsteriskは、十分なサポート体制を用意していると言える。

 オープンソース・プロジェクトが行うサポートと言えば、オンライン・フォーラムやメーリング・リスト、そしてたまに出版される解説書といった形になるのが一般的だ。しかし、Asteriskの場合は、ディジウムというサポートを行う企業が存在する。同社は、AsteriskをPSTNと接続するためのアナログおよびデジタル・インタフェース・カードなど、Asteriskを使うのに必要なハードウェアに加えて、サポート・サービスも提供している。

 もちろん、先に述べたように、現在のところディジウムが注力しているのは中規模市場であり、今後、大規模企業に対するサポート・サービスに本腰を入れるかどうかは不明だ。しかし、Asteriskの提案書が予算獲得のために社内の各部署を回るときに、サポート・サービスが提供されているという事実は、承認されるための重要な決め手になることは確かだ。

柔軟なカスタマイズを可能とする
外部との連携インタフェース

 Asteriskを採用する企業にとって、コストの削減以外のメリットは、優秀な管理者がいれば、必要な機能を得るために自社で手を加えて自由にカスタマイズできることだ。

 実際にAsteriskには、AGI(Asterisk Gateway Interface)と呼ばれる、外部アプリケーションと連携するためのAPIが用意されている。AGIを使うことでPythonやPHP、Ruby、Java、C、Perlを含むほとんどの言語で、Asteriskのプラグインを開発することができる。

 AGIによる機能セットのカスタマイズは比較的容易な作業であり、Asterisk向けのツールを設計する開発者コミュニティが急速に拡大するのに伴って、さまざまなAsteriskプラグインが出回るようになった。例えば、チケット番号の入力を受け付けるチケット管理アプリケーションや、入力した10けたのISBNナンバーを調べてAmazon.comサイトで書籍を特定し、発信者人にその書籍の価格を読み上げるアプリケーションなどが提供されている。

ビジネスの基幹である
電話の進化形

 電話は業務に不可欠な道具として、今後も企業で使われ続けるはずだ。その機能やパフォーマンス、安定性は、今もなお高いレベルを維持し続けている。例えば、ボイス・メールの機能と使い勝手、ボイス・メールと電子メールのゲートウェイ、通話品質などは、ビジネスを支える重要な機能である。また、IVRの機能と信頼性は、企業の売上げを左右しかねない。そうなると、次代を担う電話として、IP-PBXの導入の検討はいかなる規模であれ、必須で行うべきだ。特に、今後さらに進化するVoIPアプリケーションがもたらすメリットを考えれば、その重要度はますます高くなる。

 すべてのOSSに共通することだが、Asteriskのメリットは、購入する前に試せることだ。さらにAsteriskの場合は、TrixboxやAsteriskNOWといったディストリビューションとして、あるいはソースコードとして提供されており、入手方法だけでも多様な選択肢がある。TrixboxとAsteriskNOWに関しては、VMwareイメージとしても提供されている。イメージをダウンロードしてVMwareの仮想マシンとして稼働させれば、オープンソースVoIPを自社へ導入すべきかどうかの検証作業のために、ハードウェアを用意する手間も削減することができる。

 このように、周辺の環境は着実に整ってきている。オープンソースVoIPは、今後数年のうちに、大規模企業にも浸透していくと筆者は考えている。繰り返しになるが、AsteriskのようなオープンソースIP-PBXは、従来の市販製品には望めない、柔軟なカスタマイズ性を備えている。これは、特に強力な武器となるだろう。

COLUMN
Asterisk対応のSIP電話機が続々登場

 通常、商用IP-PBXを導入する場合は、ベンダーが専用のIP電話機も提供してくれる。そして、IP電話機をIP-PBXに適切に接続する作業を行ってくれるほか、IP電話機のセットアップや配線作業、運用開始後のメンテナンスまで面倒を見てくれる。だが、AsteriskのようなオープンソースIP-PBXを導入する場合は、ユーザー自身がIP電話機を調達しなければならない。

 とはいっても、50ドル程度の基本的なハンドセットから1台当たり800ドルの高機能な電話機まで、Asteriskに対応する製品は、すでに膨大な数が出回っている。現在市販されているIEEE802.11に準拠した無線LAN電話機の中には、SIP、MGCP(Media Gateway Control Protocol)、ディジウムが開発したIAX(Inter-Asterisk eXchange)など、複数のVoIPプロトコルをサポートするものも存在する。

 Asteriskの生みの親でディジウムの会長兼CTOのマーク・スペンサー氏によると、IP電話機の大手ベンダーの中でも米国ポリコムは、Asteriskとの完全互換を目指してディジウムと緊密に協力してきたという(写真A)。ポリコムはIP電話機のほかに、SIPに準拠した会議室向けのスピーカー・フォンも販売している。同社に加えて、米国アーストラ、グランドストリーム・ネットワークス、リンクシス、スノムといったベンダーのIP電話機も、すべてSIPをサポートしており、Asteriskに容易に統合することができる。

写真A:Asteriskを核とした電話システムで利用できるポリコムのSIP対応IP電話機「SoundPoint IP 501 SIP」

 シスコシステムズなど、独自のIP-PBXを開発/販売するベンダーについて、スペンサー氏は「Asteriskは彼らの製品と競合する反面、補完的な役割も果たしている」とコメントする。

 シスコとしては当然、自社のVoIP関連製品をまとめて導入してほしいという考えがあるはずだが、同社のIP電話機は現在、単品での販売もできるようにSIPをサポートしている。同社の電話機が搭載しているSIPファームウェアのバージョンによっては、Asteriskとの相互運用性を確保していないものもあるが、SIPの互換性に向けたシスコの努力は評価されるべきものだろう。


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