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グリーン・コンピューティング

【インタビュー】
極寒の地にも「熱問題」あり――南極基地の管理者が語る、マイナス50℃下のITマネジメント

データセンターの構成から過酷な伝統行事まで一問一答

(2008年05月02日)

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直径10mの電波望遠鏡で宇宙マイクロ波背景放射を調査

──最近のプロジェクトで特に興味深いものは何か。

Malmgren氏:2006年の話になるが、イリジウム衛星ネットワークへの接続に利用する画期的なシステムを開発した。12個のモデムを多重化して、28.8Kbpsの回線を24時間・365日いつでも使えるようにしたのだ。こんなものがきちんと動作するとはだれも思わなかったし、いつでも使える回線を南極点で確保できるとはだれも思っていなかった。現在、この回線はネットワーク通信による最後の手段になっており、ブロードバンドの衛星回線が使用できなくなると、自動的にこの回線に切り替わる。

──そちらの基地ではどのような科学プロジェクトをサポートしているのか。

Malmgren氏:この基地では非常に大規模な科学プロジェクトがいくつか進行中であり、そのすべてで膨大な量のデータが収集されている。とりわけ大がかりなのは南極点望遠鏡だ。これは、直径10mの電波望遠鏡で、宇宙マイクロ波背景放射を調べるのに用いられる。

 科学者たちはこの望遠鏡で暗黒物質などを探しており、その際に集められた膨大なデータはできるかぎり早く米国に送る必要がある。もしブロードバンドの衛星回線がなければ、冬の間9カ月もデータをここに置いておかなければならない。衛星回線のおかげで、分析結果が出るまでの時間が大幅に短縮されているわけだ。またこれによって、望遠鏡に関するあらゆる問題を分析し、冬の観測期間中に修正することが可能になっている。従来は、まるまる1年間待たなければならなかった。

──研究者や科学者をどのような形でサポートしているのか。

Malmgren氏:基本的に、研究用の機器などは彼ら自身が用意し、われわれはバックエンドの設備を提供する。ただし、それらの機器が故障したときなどは、われわれも修理の手伝いを申し出るなどしている。

 これは彼らを非難して言うわけではないのだが、多くの科学者は、研究データをほかのだれかの手に委ねることを好まない。それゆえ、われわれはあくまで彼らが必要とする情報や技術サポートを提供することに徹している。

──実績のない先進的なテクノロジーを取り入れる機会はあるのか。

Malmgren氏:南極は、登場したばかりのテクノロジーを試すような場所ではない。最先端のテクノロジーというのは何かと手がかかるものだし、ここでその人手を確保することは困難だ。南極はそうしたことにふさわしい場所ではない。

──過酷な気象条件はシステムの信頼性や稼働時間にどの程度影響するのか。

Malmgren氏:とにかく空気が乾燥しているので、静電気が大きな問題となる。実際、静電気はノートPCやハードディスクの最大の故障原因となっている。特に故障が多いのは、電源やハードディスクというようなたぐいのものだ。海抜3,650mの高地にあるため空気が薄く、冷却ファンが十分な空気を送れないためだ。したがって、熱を発生させるものについては特別な配慮が必要になる。

 ハードディスクについては、高地に関連するもう1つの問題がある。ハードディスクのヘッドは一般に、プラッタとの間の空気の層をクッションにして浮いている。だが、ここでは空気分子の量が少ないため、ヘッドがプラッタから十分に浮くことができず、故障が多発してしまうのだ。

──機器の故障が発生した場合はどのように対応するのか。

Malmgren氏:ベンダーのサポート担当者を呼ぶわけにもいかないので、少なくとも1年ぶんのスペア・パーツをストックするようにしている。

──ディザスタ・リカバリはどのように行うのか。

Malmgren氏:これは重要な問題だ。空気が乾燥し、液体水が貴重である南極では、火災が壊滅的な被害をもたらす可能性が高い。そのため、すべてのデータを別の場所にバックアップし、各システムをできるかぎり2つの場所で並行して動作させるようにしている。

──火災が発生したときはどのように対応するのか。

Malmgren氏:南極では非常に先駆的なことなのだが、この基地には湿式スプリンクラーが設置されている。建物自体もモジュール構造になっており、複数のセクションに分割されている。

 またメインの基地が使えなくなった場合に備えて、シェルターも用意されている。シェルターには緊急用の通信装置や発電機、キッチンが備え付けられており、非常時にはそこに避難することになる。ここから1kmほど離れたところにバックアップ用のデータセンターがあるので、非常時にもデータが失われることはない。

 火災の発生が夏であれば、われわれは基地から脱出することになっている。冬の場合は、輸送機がいつこちらに来られるかによるが、4〜5カ月間を何とか生き延びなければならないだろう。

「300クラブ」で華氏300度の温度差を味わう

──南極基地での生活の中で、一般にあまり知られていない意外な話はある?

Malmgren氏:食生活の意外な充実ぶりには驚かれるかもしれない。ここにはちょっとした温室があって、2〜3日おきにサラダを食べられるほどの野菜が水栽培で収穫できる。

──業務の中で最も楽しいこと、そして最もつらいことは何か。

Malmgren氏:最も楽しいのは、科学者たちといっしょに働けることだ。皿洗い係から科学者、建設作業員に至るまで、ここにいる人々は皆、興味深い経歴を持っている。ありきたりで平凡な人など1人としていない。

 最もつらかったのは、丸2年をこちらで過ごしたときだ。時折、特に休暇期間中などに、家族や友人たちと長く会えずにいることが本当につらく感じられることがある。

──南極基地での生活から学んだことで、将来役に立ちそうなのは?

Malmgren氏:まず挙げられるのは外交術だ。博士号レベルの科学者、初めて南極にやって来た建設作業員、コンピュータの電源を入れる方法や家族へ電子メールを送る方法といったことばかり尋ねてくる人など、実にさまざまな人々とうまくやっていくことが求められる。このように、まったくタイプの異なる人々をサポートしなければならない状況というのは、めったに経験できるものではない。

──これまでで最も過酷な経験は何か。

Malmgren氏:この基地には「300クラブ」と呼ばれる伝統的なイベントがある。気温が−73℃(華氏−100度)まで下がったら、まずサウナに入る。93℃(華氏200度)の温度で限界まで体を温めたら、今度は裸のまま外へ飛び出していき、南極点のポールをぐるっと回って戻ってくる(写真5)。つまり、華氏300度の温度差を身をもって体験するわけだ。

写真5:「300クラブ」でのMalmgren氏。裸のまま、南極点ポールをぐるっと回って戻ってくるのがルールだ

 このイベントに参加すれば、実に強烈な感覚を味わうことができる。この温度差を直接肌に感じるという体験は、ほかの何にも例えようがない。−50℃と−70℃の違いなどわかるのかとよく聞かれるが、もちろんわかる。

──その温度で皮膚が凍ったりしないのか。

Malmgren氏:できるだけ長くサウナに入るのは、それを防ぐためだ。大切なのは、ゆっくり歩くこと。走ったりすると、肺が凍傷になってしまう。ただし、あまりゆっくりすぎると、今度は体の熱を奪われ、寒さに弱いあちこちの部位に凍傷を負うハメになる。要は、その中間のスピードで歩く必要があるということだ。

 もっとも、うまくペースを守れたとしても、室内に戻ってきたときには皆、咳をしている。その後の数日間、基地内はまるで結核病棟のように咳の音が鳴り響くことになる。

──いつまで南極での仕事を続けるつもりなのか。

Malmgren氏:わたしは、こちらへ来るたびに自分は幸運だと感じる。毎年何かしら変化があるし、ほかの仕事をしている自分の姿など想像することができない。だが、ガールフレンドには常々こう言われている。もっと近くで別の仕事をしてほしいとね。今もそのことで話し合いを続けているところだ。


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