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【解説】
ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む[メモリ編]
ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ――SLM、2光束干渉法、コリニア・ホログラフィ法……
(2008年02月27日)
ナノテクという言葉が使われるようになって久しいが、その進歩は今なお、とどまることを知らない。ここでは、コンピュータ・テクノロジーの最先端、ナノテクが生み出そうとしている近未来のCPU、ハードディスク、メモリの姿を3回にわたって紹介していく。CPU編、HDD編に続き、最後はメモリ編として、次世代DVDのさらに先を行く新方式の光メモリであるホログラム・メモリを取り上げる。
井上光輝
豊橋技術科学大学 研究専任教授
次世代メモリとして注目されるホログラム・メモリ
情報通信技術の普及によって、テラバイト級の大規模情報を高速に記録・再生できる光メモリの実現が熱望されるようになってきた。表1は、光(ディスク)メモリの進展を記録容量とデータ転送レートの観点からまとめたものであるが、Blu-rayやHD DVDに次ぐ第4世代の光メモリとしてホログラム・メモリと呼ばれる高密度記録技術が注目を集めている。
| 表1:光ディスク技術の変遷 |
ホログラム・メモリは過去何度もチャレンジされてきた技術であるが、装置を構成するレーザーやSLM(空間光変調器)、あるいはCMOS(注1)イメージ・センサーなどの光学機器の発展に伴い、にわかに再認識されるようになってきた。特に、1994年ごろから行われた米国の2つのプロジェクト「PRISM」と「HDSS」(注2)では、デジタル・ページ・データをホログラムとして体積的に記録する方式について、記録材料や記録システムの広い範囲で重要な成果が得られている。
最近では、これらの成果を基礎として、光ディスク・メモリへの応用も国内外で検討されるようになってきた。また、容量は小さいが製品化の段階に入っているものもすでにある。ただし、ホログラムの特性を生かしきれているとは言えず、また現行の光ディスク技術と相性が悪いなどの種々の問題を抱えている。
同一場所に多重記録が可能なホログラム・メモリ
ホログラム・メモリは、ホログラム(3次元像)の生成に使われるホログラフィ技術を基礎とする(図1)。ホログラフィ技術では、2つの光(信号光と参照光:信号光が情報を保持)を重ねることで形成される位相干渉パターン(水面上で重なり合う波紋のようなイメージ)をデータとして記録し、その後、参照光を記録パターンに再び照射して信号光(情報)を再生するという原理に基づく。ホログラフィ技術の原点は古く、1894年にP.M.G.リップマン氏が光ビームを干渉させることでカラー写真形成を試みたことに端を発する(注3)が、ストレージへの応用は1963年にP.J.ヴァン・ヒールデン氏によって提案された概念が基礎となっている(注4)。
| 図1:ホログラフィ技術の記録・再生原理 |
一般的なホログラフィ技術は、3次元物体から散乱された光を記録し、その記録情報を可視化して再生する。一方、上述したデジタル・ホログラフィ技術は、SLMが出す光(信号光)を利用する。SLMは1と0のバイナリ・データを白黒の2次元ビット列(2次元バーコード)として表示するマイクロデバイスだ。
このSLMを用いて、ホログラムの記録は図2(a)に示す方法で行われる。まず、画像データから得られるバイナリ・ビット列が2次元バーコード状に配置され、SLMに表示される。表示されたデータは信号光としてSLMから記録メディアに照射され、それと同時に、別の光(参照光)が記録メディアの同じ場所に照射される。そこで形成される位相干渉パターンがホログラムとして記録されることになる。
| 図2:2光束干渉法によるデジタル・データの記録/再生 |
通常、参照光の入射角度や波長を変えて、同一場所に多数のホログラムを重ねて記録する。これはホログラムの多重と呼ばれ、記録材料の特性や厚さに依存するが、数百から数千に達するホログラムを重ねることができる。
情報の特定のページを再生するには、図2(b)に示すように、そのページを記録した際に使った参照光を記録メディアに照射する。角度多重の場合は、対応する参照光の方向が選択される。
参照光は、記録されているすべてのホログラムと相互作用するが、特定の参照光(方向)のみがその対応するホログラムから影響を受け、ある光のパターンを作り出す。このパターンは、当該ページを記録した際にSLMから出た光のパターンと同じであり、CMOSなどの2次元光検出器で受光して電子的な信号に変換され、元データが再生される。各々のホログラムは対応する参照光によって独立に再生可能である。
ホログラム・メモリは、1960年代から1990年代にかけて、さまざまなものが提案されてきた(注5)。しかし、記録材料の感度やダイナミック・レンジが不足していたことや、レーザー、SLM、CMOSを含む光学機器・デバイスが高価であったこと、さらに光学系が複雑で既存のCDやDVDなどとの整合性がまったくなかったことなどから、実用化には至っていなかった。
ところが最近、前述したPRISM/HDSSプロジェクトの成果として、収縮率が小さく、厚みのあるフォトポリマ材料や、感度がきわめて高いフォトポリマ材料などが現れ、新しいホログラム記録材料として一躍脚光を浴びた。日本でも、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトや科学技術振興機構のCRESTプロジェクトで高感度、高ダイナミック・レンジないくつかのフォトポリマ材料が開発され、ホログラム記録材料の開発が活発化している。一方、すぐれた性能を有する比較的安価な光学機器も市場で容易に手に入るようになり、ホログラム・メモリの実用化がにわかに注目されるようになった。
注1:Complementary Metal Oxide Semiconductor
注2:「the PhotoRefractive. Information Storage Materials」、「the Holographic Data Storage System」
注3:出典 P.M.G.Lippman,“Sur la theorie de la photographie des couleurs simples et composees par la methode interferentielle,”J.De Phys.,vol.3,pp.97-107,1894.
注4:出典 P.J.van Heerden,“Theory of optical information storage in solids,”Appl.Opt.,vol.2,No.4,pp.393-400,1963.
注5:出典 H.J.Coufal,D.Psaltis,G.T.Sincerbox eds.,“Holographic Data Storage,”Springer Series in Optical Sciences,10,2000.
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