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【解説】
注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット

仮想化環境で即座に実行できるアプリケーションの新配布モデル

(2008年04月01日)

仮想化ソフトウェアを導入し、仮想マシン上で各種アプリケーションを稼働させるとなると、セッティングにそれ相応の手間がかかってしまう。そこで注目を集め出したのが仮想アプライアンスである。仮想アプライアンスは、OSを含む動作環境のセットアップを事前に済ませた状態で配布されるため、ユーザーはファイルをダウンロードし、インストールするだけで仮想インフラ上でアプリケーションを即座に実行できる。本稿では、仮想アプライアンスの基本やメリットを押さえるとともに、その最新動向も併せて解説していく。

渡邉利和

仮想アプライアンスとは何か

 「VMware」など仮想化ソフトウェアを実際に利用しているユーザーであればよくおわかりのことと思うが、仮想化されたシステム環境は、ホストOSからは単一のファイルとして見える。仮想アプライアンスの根本的なアイデアは、端的に言えば、このファイルをソフトウェアの配布手段として利用するというものだ。

 もう少し詳細に説明してみよう。物理的なコンピュータ上に仮想化ソフトウェアをインストールすると、仮想化ソフトウェアは新たに仮想マシン(Virtual Machine)を作り出す。仮想マシンは、ユーザーから見ればOSすらインストールされていない裸のハードウェアに見え、この上にOSをインストールし、さらに必要なアプリケーションなどをインストールすることでソフトウェア環境を作り上げる。それにより、実運用可能な仮想システムを構成することになる。

 ここでインストールされるOSやソフトウェアは、仮想マシンから読み出し可能な仮想的なハードディスク・ドライブ(HDD)上に書き込まれることになる。この仮想ストレージは、実体としてはホストOSのファイルシステム上に作られるファイルである。最近のバックアップ・ソフトウェアでは、HDDのイメージを丸ごとコピーする「イメージ・バックアップ」がよく使われるようになっているが、仮想マシンが読み込む仮想HDDは、こうしたイメージ・バックアップとほぼ同様のものだと考えればわかりやすいだろう。

 こうして作られた仮想HDDは、システムが動作するために必要なファイルをすべてまとめたものであり、完全なシステム・イメージになっている。仮想化ソフトウェアを利用して1つの物理コンピュータ上に複数の仮想マシンを動作させる場合、このファイルを必要なだけ用意して仮想マシンに読み込ませればよいのである。システム起動用のHDDを複数用意しておき、必要に応じてHDDを交換し、複数のシステム・イメージを物理コンピュータ上で切り替えて利用することも可能だが、仮想化ソフトウェアを利用すれば、複数のシステム・イメージを同時に実行することで、1台の物理コンピュータ上に複数の仮想マシンを並列的に動作させることができるようになる。

 さて、ここでもう1つ仮想HDDのメリットを挙げたい。それは、仮想HDDに書き込まれたシステム・イメージは、物理的なハードウェア構成に依存していない点だ。実際にシステム・イメージが記録されたHDDを交換した経験があるユーザーならわかると思うが、システム・イメージを作成した時点でのハードウェア構成と異なるコンピュータに接続して起動しようとすると、最悪の場合システムの起動が不可能になる。変更個所がごく軽微な場合は、デバイス・ドライバの更新などで運用可能な状態にまでもっていけるが、作業には手間を要する。

 仮想化ソフトウェアの利用を前提に作成した仮想HDDのシステム・イメージは、仮想マシンの構成に対応してデバイス・ドライバなどを組み込んでいるため、仮想マシンの構成が同じであれば、実際のハードウェアに搭載されているデバイスとは関係しない。つまり、仮想HDDのシステム・イメージは、同じ仮想化ソフトウェアがインストールされ、かつ同じ構成の仮想マシンが動作している環境であれば、どの環境に移行してもそのまま動作することが期待できる。仮想HDDによるシステム・イメージは可搬性が高く、どのような物理コンピュータでも同じように動作すると言えるのである。

 この特性は、ユーザー・レベルで活用することも当然できる。システムを仮想インフラ上に構築しておき、その仮想HDDファイルをコピーしておけば、ハードウェア障害などで運用継続が不可能になった場合に、別のハードウェア上で同じシステム・イメージを起動することができる。通常、こうしたバックアップ・システムでは本番環境と同じ構成の予備ハードウェアを用意する必要があり、コスト面での負担が大きかったのだが、仮想化ソフトウェアを利用することにより、予備のハードウェア構成を厳密に一致させる必要がなくなるという大きなメリットが得られる。この場合は、ユーザーが自分で構成した仮想HDDを他のマシンで転用するという使い方だ。

 仮想アプライアンスは、異なる物理コンピュータで作成された仮想HDDのシステム・イメージを、より広い環境に向けて提供するものだ。単純に言ってしまえば、ソフトウェアの配布手段として、仮想HDDのシステム・イメージを利用するということになる。

仮想アプライアンスのメリット

 仮想HDDのシステム・イメージを仮想アプライアンスとして配布することには、どのようなメリットがあるのだろうか。

 まずは、逆にデメリットから考えてみると、配布サイズが大きくなることが挙げられる。特にアプリケーションの場合に顕著になるが、これはアプリケーションのみでなく、OSも含めたシステムの起動イメージ全体を配布することになるためだ。OS自体を配布するような場合には問題にならないが、アプリケーションの配布が目的の場合は、ファイル転送に要する時間が長くなるというデメリットが生じる。

 一方、メリットは、ファイルを入手したユーザーにとってインストールも実行もきわめて容易であるという点だ。このメリットがファイル・サイズの増大というデメリットを補って余りあると考えられているからこそ、仮想アプライアンスが普及し始めているのだとも言える。その背景として、ブロードバンド接続の普及によるユーザー・レベルでのインターネット接続帯域の拡大も重要な意味を持っているだろう。

 ソフトウェア単体で入手した場合、プラットフォームとなるOS上にインストールし、稼働環境を整えるという作業が必要になる。ソフトウェアによっては、OS側の設定をアプリケーションに合わせて最適化するなど、ある程度の技術力を要することもある。Windowsの場合はレジストリに新たなエントリが追加されたり、既存のエントリの内容が変更されたりすることもあり、こうした積み重ねによって、アプリケーションのインストール/削除を何度も繰り返すとシステムが不安定になると考えているユーザーも多い。テストにしか利用しないマシンを日常作業用のマシンとは別に用意しているユーザーであれば問題ないが、そうでないユーザーにとっては、日常使用しているマシンの安定性が損なわれたり、場合によっては起動しなくなったりするなどのトラブルにつながるリスクもあるため、「ソフトウェアを追加でインストールして試してみる」という作業は、手間もさることながら心理的にも抵抗感のある作業だと言える。

 仮想アプライアンスのインストールは、ホストOSから見れば、単にデータ・ファイルを1つコピーするだけの作業である。当然だが、ホストOSの環境設定を変更する必要もない。さらに、仮想アプライアンスでは、ファイルの提供側があらかじめOS環境まで含めてシステム環境を最適化しておくこともできるので、ユーザー側で何も設定しなくとも、すぐにシステムを稼働することが可能だ。あたかも家庭用ゲーム機にカートリッジやディスクをセットするような感覚で、PC上に新たなシステム環境を導入し、動作させることができるのである。インストールの際にホストOS側の環境を一切変更しないため、不要になった場合にもアンインストールなどの作業は不要で、ファイルシステム上にコピーした仮想HDDファイルを単に削除するだけで済む。既存の環境に与えるインパクトの小ささは、仮想アプライアンスの大きなメリットとなっている。

 ソフトウェア配布側の視点では、サポートの負担が大幅に軽減されることも見逃せないだろう。パッケージ・ソフトウェアのサポートでも、インストールに関するトラブルへの対応は大きな比重を占めている。インストールがうまくいかないという状況は珍しくはないのだが、仮想アプライアンスでは、ソフトウェア配布側があらかじめOSを含む動作環境のセットアップを済ませ、確実に動作する状態で配布できるため、インストールに伴うトラブル発生の可能性を事実上ゼロにできる。そもそも仮想アプライアンスでは、物理的なデバイス構成の違いを仮想化ソフトウェアが吸収してくれるため、インストールの際に想定すべき環境は標準的な仮想マシン環境の1種類だけで済むわけだ。このことがインストールを容易にしている面も無視できないだろう。


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