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【特別対談】グリッドのビジネス活用

その現在、そして未来を展望する

(2007年04月18日)

科学技術計算の領域で大きな発展を遂げてきたグリッド――その技術は今、ビジネス領域における応用と普及を巡り、新たな局面を迎えつつある。ここでは、ビジネス領域でのグリッドの現在、および可能性を、関口智嗣氏と井出和之氏の対談を通じて明らかにする。関口氏は、独立行政法人・産業技術総合研究所グリッド研究センターのセンター長であり、グリッド協議会の会長でもある。対する井出氏は、市場調査会社IDC Japanのアナリストだ。

Computerworld.jp

グリッドのポテンシャル・ゾーン

関口智嗣氏(産業技術総合研究所 グリッド協議会 会長)

関口氏(以下、敬称略) まずは、グリッドを巡る市場の状況を単刀直入にお聞きしたい。ビジネス領域でのグリッドの活用は、現在、どの程度まで進んでいるのですか。

井出氏(以下、敬称略) IDCの直近の調査リポートを見た限りでは、日本はもとより、米国においても、ビジネスやコンシューマー領域でのグリッド活用はまだ本格化していないようです。

 もちろん、ビジネス・エンジニアリングの分野−−例えば、衝突解析や行動計算、金融工学といった分野においては、グリッドの活用が進展しています。

 ですが、それ以外の領域で、グリッドの技術が本格的に使われ始めたというデータは残念ながらありません。

関口:要するに、グリッドはまだ、一般のビジネス領域で本格的に離陸していないわけですね。

 もっとも、私は、グリッドのビジネス活用について、さまざまなポテンシャル・ゾーンが必ずあると確信しています。

 例えば、業務処理に必要なITリソースの大半を自社でまかないつつ、残りの部分を(グリッドを通じて接続された)外部のITリソースにダイナミックに振り分けられるとすれば、どうでしょう。

 そうなれば、キャパシティ・プランニングや運用管理の作業はぐんと楽になるはずです。また、キャパシティ・プランナーが予測できなかった事態が発生したとしても、それへの対応がすみやかに行えるようにもなります。

 つまり、グリッドの活用で、ITシステムがさまざまな変化に柔軟に対応できるようになり、結果として、ビジネスの俊敏性が高められるというわけです。

井出和之氏(IDC Japan リサーチ第2ユニット グループ・ディレクター)

井出:とはいえ、そうした環境を構成するのは、現状ではなかなか難しい面もあります。

 グリッドを用いたユーティリティ・コンピューティングのサービス・レベルが均一化されており、ユーザー企業のビジネス判断で「それらを「使う」「使わない」を自由に決められたり、個々の料金の高低を判断できたりするならば話は別ですが、今のところ、そうはなっていません。

 グリッドのサービスについては、技術的なアーキテクチャとはまた別の意味での標準的な枠組みなり、取り組みなりが必要ではないかと思います。

関口:そう考えると、IT業界の構造自体の変化も必要なのかもしれません。

 ユーザーにとっては、「やりたいこと」が簡単にできれば、それでいいわけで、サービスの供給元であるハードウェアが何であるかはまったく関係がありません。言い換えれば、ユーザーにとって大切なのは、「アイデアが詰まったサービス」の部分です。

 ところが、今日のITビジネスでは、そうしたサービスが特定のハードウェアや基盤ソフトウェアといっしょに提供されるケースが大半で、サービス部分のみの開発・提供に真剣に取り組もうとするベンダーがなかなか育たないのが現実です。

 グリッドは、そうしたベンダーに救いの手をさしのべる技術です。つまり、グリッドによって、ハードウェア・インフラとサービスとが明確に分離され、サービスの中身やアイデアだけで勝負できる環境が形成されうるというわけです。

井出:要するに、グリッドによってITビジネスの階層化が実現されうるというわけですね。

関口:そうですし、IT産業の健全な育成のためにもそうなることが望ましいと私は思います。

 もっとも、グリッドは、何もITベンダーの既存のビジネスを根底から覆すものではありません。この技術は、現状のITビジネスではカバーし切れないソリューションを実現するものです。

 例えば、一定の資金力を持つ企業ならば、災害復旧(ディザスタ・リカバリ)用のバックアップ・センターを自社の設備として保有することが可能ですし、そこまでいかなくとも、アウトソーサーとの契約を通じて、災害復旧のためのインフラを整えることができるでしょう。

 ところが、中小規模の企業やSOHOの場合、システムのバックアップにそれほどの手間をかけたくないでしょうし、ホット・スタンバイ型のシステムを、外部のデータセンターに個別に用意してもらうだけの資金力もないはずです。つまり、誰かがバックアップや災害復旧のためのマシンさえ用意してくれれば、他社とそれを共有してもよいと考えているわけです。

 ですから、データセンターなり、アウトソーサーなりが、グリッドの技術を用いて、共有型のバックアップ・サービスや災害普及サービスを安価に提供すれば、大きな需要が喚起できる可能性があるのです。

 加えて、日本版SOX法の施行に伴って、内部統制関連のドキュメントを保管してくれるようなストレージ・サービスが登場してくるかもしれません。また、受注処理などを迅速化するITリソースを、ユーザーの必要に応じて提供するユーティリティ・サービスが登場してくる可能性もあります。

 このようなポテンシャル・ゾーンが、グリッドにはあるのです。


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