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SOA成功の極意は──「開発者の意識改革」
(2006年05月17日)
多くの企業、公的機関が今、コンピューティング環境をクライアント/サーバからSOA(サービス指向アーキテクチャ)にシフトするべく本気で動き始めた。だが、SOAを導入するにあたっては、さまざまな障害を乗り越える必要がある。なかでも最もやっかいな問題は、ITスタッフの間に存在する「技術的、文化的な変化への拒否反応」だ。SOA技術の採用は、IT開発者やITアーキテクトに、役割の変化をはじめとするさまざまな変化を強いるのである。本稿では、その実態を明らかにするとともに、ITスタッフに変化を受け入れさせるためにはどうすればいいかを探りたい。
ヘザー・ヘイブンステイン
Computerworld 米国版
米国を代表する大手銀行であるワコビアのリテール・バンキング部門は、先ごろ、大規模なSOAプロジェクトをスタートさせた。同プロジェクトによって開発されたWebサービス・ベースのシステムは、当初は新しいコールセンター・アプリケーションに用いられるが、その後、同銀行のさまざまな顧客チャネルに導入されていく予定だ。
このプロジェクトは、リテール・バンキング部門にとって、複数のチャネルに共通のビジネス・プロセスを設計・構築・管理するという意味において初の取り組みであり、その実施に当たっては大幅な組織変革が必要とされる。
ワコビアの開発者たちは、今回ほど複雑ではないにしても、すでにいくつかSOAプロジェクトに携わってきた。だが、彼らが従来のウォーターフォール型の開発アプローチから、反復的な開発アプローチに転換するうえで意識改革を実現できているかと言えば、少々心許ない──そう苦笑するのは、リテール・バンキング部門の戦略アーキテクト、ハリー・カー氏だ。
ウォーターフォール型の開発の場合には、開発チームがあるアプリケーションを丸ごと一気に構築するが、反復的なアプローチの場合は、例えば1つのグループが特定のサービスを開発し、別のグループがそのサービスを利用するクライアントを作成するといったような開発方式が採用される。2つの開発方法の間には、単なる手法の違いを超えた“意識の差”“文化の差”が存在するわけだ。
そこで、ワコビアのリテール・バンキング部門では、アプリケーション開発グループの意識改革をスムーズに進めるために、開発プロセスを設計するための新しいツールを導入し、ITの役割を定義しなおすという荒療治に打って出た。
調査会社ザップシンクLLCのアナリスト、ジェイソン・ブルームバーグ氏は、SOAを巡るITスタッフの意識改革の難しさをこう表現する。
「SOAは順守すべき規律、すなわちベスト・プラクティスのセットだ。言いかえれば、それは開発者にとって、従うべき新しいルールなのだ。だが、やっかいなことに、彼らは、いかなるルールにも従おうとはしたがらない」
変革のためのツール
ワコビアは、さまざまな顧客チャネルに用いることができる共通のプロセスを構築するために、先のプロジェクトにIBMのInformation FrameWork──ビジネス・モデルと情報アーキテクチャの設計図のセット──を採用した。同時に同社は、今年から来年にかけて開発および運用スタッフの大部分をアウトソーシングするという計画にも着手した。
「われわれは反復的なアプローチをどうすれば実現できるかについて考え、同時にそうした業務のアウトソーシングについても検討していた。(Information FrameWorkによって)あらかじめビジネス・プロセスがモデル化されていれば、アウトソーシングもスムーズに行うことができるはずだ」(ワコビアのカー氏)とのねらいが、そこにはあったのだ。その線に沿ってカー氏は現在、「アウトソーサーを分散環境に取り込むためには、どうしたらよいかを検討しているところだ」という。
米国の某大手銀行のチーフ・アーキテクトは、匿名を条件にこう証言する。「当行では最近、SOAへのシフトを図るために専任の開発者を採用したが、メインフレームやレガシー・システムに携わってきた古参ITエキスパートたちは、SOAを導入することに激しい抵抗を試みた」
そこで、その銀行では、円滑にシステムを移行させることを目的に、1,200人の開発者を連携させる草の根コミュニティを作ってベスト・プラクティスの共有化を図るなど、開発者同士の情報交換を促進させることにした。また、SOAプロジェクト専任の開発者を雇い入れる一方で、メインフレームやレガシー・システムの開発者たちの再教育にも力を入れているという。同行では、そうしたIT部隊の改革を行ったうえで、今後18カ月間かけて十分なセキュリティとパフォーマンスを備えたSOAを構築し、Webサービスを「ファイヤウォールの外側」、つまり外部でも展開していく計画だ。
SOAへの移行に際して、開発者は、技術的な変化よりもむしろ文化的な変化にまごつく場合が多い、とザップシンクのブルームバーグ氏は指摘する。
「SOAへの移行に際しては、ITに関連する部門の組織的な変化が不可欠であり、場合によっては業務分野(仕事の内容)を変更する必要さえ出てくるだろう。開発者たちの多くは、これまで言葉を交わしたこともない人たちと仕事をしていかなければならなくなるのだ」(ブルームバーグ氏)
まずはスタッフの再教育から
米国鉄道協会の下部組織であるレイリンクは、SOAプロジェクトへの取り組みを強化する一方で、開発者とサービス受益者にSOA導入のメリットを認知させるためのトレーニング・プログラムの開発にも乗り出した。
全米460の鉄道にサプライチェーン情報を提供するレイリンクは、過去2年の間、クライアント向けにいくつかのWebサービスを開発してきた。
レイリンクのトレーニング・セッションは、IT部門の開発者と事業部門の管理者の双方に、SOA構築のメリットを示し、コンセプトの有効性を理解させることを目的としている。「今は作る側に立っていても、来年はサービスを受ける側に立っているかもしれない」と語るのは、レイリンクのエンタープライズ・アーキテクチャを管轄するIT担当役員、ゲリー・グランドリーナード氏だ。「なぜそこに投資するのか──われわれは開発者だけでなく、サービス受益者にも大きな将来図を示す必要がある」と同氏。
一方、地方自治体に目を向けると、初期のSOAプロジェクトにベテランの開発者を充てていたケンタッキー州は現在、統合ガバナンス・グループや能力センターを設置するといった方法で、スタッフのトレーニング強化に乗り出している。同州はこれまでにも、サービス・オリエンテッドなアプローチで、さまざまなアプリケーションを開発してきた。例えば、滞納された税金の徴収を円滑化するための税務部門システムや、米司法省に同州の性犯罪者を登録するためのサービスといったシステムが代表的なところだ。また現在は、最新のSOAプロジェクトにも取り組んでいる。同州技術局アプリケーション開発課ブランチ・マネジャーのアシク・ザマン氏によれば、それは各種のビジネス・プロセスをリエンジニアリングして、関連サポーティング・インフラストラクチャを構築するというものだ。
他方、ワシントンD.C.は今年初め、SOAをベースとするシステムの運用を開始した。「CapStat」と呼ばれる新システムは、自然災害やテロ攻撃といった緊急事態が生じた際に、Webサービスを利用して中央の緊急指令センターと周辺地域との連携を図るようにしようというものだ。
ワシントンD.C.はまた、「DCStat」と呼ばれるプログラムも開発済みだ。これは、Webサービスを利用して行政サービスを監視するためのシステムで、今年初めからはプログラムの拡張にも取り組んでいるという。
こうした“実績”があるにもかかわらず、「開発者たちはSOAの可能性をあまり信じていない」と嘆くのは、ワシントンD.C.のCTO(最高技術責任者)、ダン・トーマス氏だ。「私のやっていることを、単にオーバーヘッドを増やすだけのものでしかないと断じ、いまだに再利用可能性の価値を理解しないでいる開発者も少なくない」(同氏)
導入すれば、メリットは多大
SOAの導入には技術的、文化的な困難が伴うが、導入に成功したユーザーは、「その見返りは計り知れないほど大きい」と口をそろえる。
実際、SOAの導入に早くから取り組んできたスイスの大手保険会社ヘルベティア・パトリア・グループは、6年前に立ち上げたSOAから201パーセントのROIを上げることに成功したという。ヘルベティアの担当者は、SOAプロジェクトによって、インターネット・ベースのビジネスではIT予算が59パーセントも削減できたとしている。
同社でeビジネス・センターのディレクターを務めるディディア・ベック氏は、「ヒューレット・パッカードの変更管理プログラムを利用することによって、開発者を“困難な演習”(本来なら行いたくない技能の習得)に誘い込むことができた」と胸を張る。
同氏によると、HPのツールとサービスは、ヘルベティアの関連会社をまたぐ15のシステムをSOAプラットフォームで統合するうえで大いに役立ったという。「現在われわれが採用している仕事のやり方は、従来のそれとはまったく異なる。これまでは、関連会社がそれぞれ独自の開発プロセスとツールを利用するだけで、互いに連携しようなどとは考えもしなかった。それが、SOAによって統合化されたことの意義は大きい」と同氏。
なお、同社では現在、SOAの統合管理を担当するeビジネス・センターが、新規採用の開発者に対して、6カ月から12カ月の期間でSOAのトレーニングを行っているという。ベック氏は、「SOAの実装は、そう簡単なものではない。ビジネス上の俊敏性を獲得するには、それなりの投資が必要になる」と、開発者教育の難しさならびに重要さを強調する。
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