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【特別対談】グリッドによるサービス・イノベーション
日本IBM首脳と問題学・構想学の権威がグリッドを語る
(2007年05月25日)
「グリッドによるサービス・イノベーション」――このテーマの下、日本IBMの執行役員、岩野和生氏と、産学連携推進機構の理事長、妹尾堅一郎氏の両氏が対談に臨んだ。岩野氏は、日本IBMのソフトウェア開発研究所長であり、IBMの技術戦略を主導する1人だ。対する妹尾氏は、問題学・構想学の権威であり、東京大学の国際・産学共同研究センターの客員教授も務める。専門とする分野も、立場も異なる両氏だが、その対談は、グリッドとイノベーションを軸にさまざまな領域に及んだ。ここでは、そのエッセンスを報告する。
Computerworld.jp
イノベーションに資するインフラ
| 岩野和生氏(日本IBM 執行役員 ソフトウェア開発研究所 所長) |
岩野氏(以下、敬称略):まずは、私から話を切り出しましょう。
グリッドはそもそも、リソースを仮想化する仕組みとして登場し、当初から、さまざまな可能性が論じられてきました。
その中で特に重要だったのは、グリッドによって「仮想組織」が実現されるという点だったと思います。すなわち、「何かをやりたい人たちが、どの場所にいても、また、実世界でどのような組織形態をとっていても、いっしょに仕事ができる」というのが、グリッドが本来目指してきた世界だと言えるわけです。
そして今、そうした世界がいよいよ現実味を帯びてきました。
例えば、今日、Webサービスとグリッドとの融合が進み、かつ、SOA(サービス指向アーキテクチャ)の観点から、サービスをさまざまに融合させ、用いることが可能になっています。
加えて、SaaS(Software as a Service)モデルに代表されるような、“サービスとしてソフトウェアを利用する”というモデルも台頭し始めています。
こうした変革の先にあるのは、もちろん、仮想組織の形成であり、その流れを支えるのが、グリッド・コンピューティングにほかなりません。
ちなみに、これは私個人の考えですが、SOAには3つの層があると見ています。1つは、ビジネス・プロセスのレイヤであり、もう1つが(プロセスにひもづく)データのレイヤ、さらに3つ目がシステム管理のレイヤです。
これら各層のSOAによって、ビジネス・プロセスからデータ、さらには運用管理に至るまで、あらゆるサービス・コンポーネントが統一的な体系の下で管理されることになります。
このようなアーキテクチャの実現は、グリッドが当初から目指してきたものであり、その登場が火をつけた革新と言えるのです。
妹尾氏(以下、敬称略):初めにお断りしておきますが、私は、技術(IT)の専門家ではありません。そのため、グリッドを取り巻く技術的な発展については言及のしようがないのですが、“イノベーションの起爆剤になりうる”という点で、グリッドには興味を抱いていますし、期待もしています。
ただし、私の言う“イノベーション”は、一般的に語られているそれとは多少異なるかもしれません。
岩野:それはどういうことですか。
| 妹尾堅一郎氏(東京大学 国際・産学共同研究センター 客員教授 特定非営利活動法人 産学連携推進機構 理事長) |
妹尾:例えば、私はよく、日本の経営層に対して、「あなたは、会社の“成長”と“発展”のどちらを優先させますか」といった質問をします。というのも、この両者を混同している方が少なくないからです。
改めて言いますが、“成長”とは、既存のビジネス・モデルを量的に拡大させることを意味し、そのために必要なのは“イノベーション”ではなく“インプルーブメント”――つまり、“改善・改革”による生産性の向上です。対する“発展”とは、既存のビジネス・モデルを次の新しいモデルに転換することを指し、それを“イノベーション”と呼ぶのです。
ところが、今の日本企業を見ると、“成長”と“発展”の概念がきちんと整理されているとは思えません。言い換えれば、「生産性を高めることに投資すべきなのか」、それとも、「新しいモデルを創出するイノベーションに投資すべきなのか」の判断が、混ぜこぜの状態にあるわけです。
そのため、「イノベーションによって生産性を高める」といった、そのまま受け取れば概念矛盾と言える発言も、官庁や企業の間から漏れ聞こえてきたりします。
繰り返すようですが、イノベーションは、既存ビジネスの生産性を高めることではなく、まったく新しいモデルを創出することです。
そして、グリッドは、そうした新しいモデルを作るための新しいモデルであり、その意味で、「イノベーションに資するインフラ」と言えるのではないでしょうか。
岩野:なるほど、非常に参考になるお話ですね。
妹尾:もう1つ、私がグリッドに注目している理由は、それが「サービスに資するインフラ」だからです。
これまで、「技術を起点にしたイノベーション」は、もっぱら“モノ作り”という限定的な領域の中で完結していました。ですが、この種の革新は、“モノ作り”のためだけにあるわけではありません。技術がサービス革新につながってもいいはずです。その点で、グリッドには、技術起点型のイノベーションをサービスに直結させる可能性を感じます。
加えて、今日では、主としてベンダー主導でイノベーションが考えられていますが、実際のイノベーションは、ユーザー主導で起こるものです。グリッドは、そうした「ユーザー起点のイノベーション」に資するインフラと言えるでしょう。
さらに、モノ作りとサービスは、必ず相互補完、あるいは相乗関係を成すか、融合されるかのいずれかの方向に進むはずです。
その流れの中でも、グリッドは大きな役割を演じうると、私は見ています。
社会的使命と戦略
妹尾:ところで、良い機会なので、岩野さんにお聞きしたいのですが。
岩野:何でしょうか。
妹尾:仮に、グリッドによって、産業の構造が、“モノ作り”を主体としたモデルから、“サービス”主体のそれへと切り替わるとするならば、御社自身のビジネス構造も、変革を余儀なくされるかもしれません。その辺りはどうお考えですか。
岩野:われわれには、事業の拡大・成功を追求する一方で、社会的な使命を果たす義務もあると考えています。
したがって、仮に世の中がサービス主体のモデルへと流れるならば、そしてそれが、必然的な流れであって、当社のお客様や社会全体にとって正しい方向であるならば、われわれは、多少の痛みを押しても、それを支えていかなければなりません。
例えば、ダウンサイジング”や“オープン化”のうねりが巻き起こったときも、われわれは、それを推進することが社会的な使命であると考え、自らのビジネス変革を進めてきました。また、それと同じ理由から、今日では、ソフトウェアのオープンソース化も推進しています。
そんな中で、われわれはよく、「なぜ、既存のビジネスを窮地に追い込むかもしれないオープンソースに、それほど熱心にコミットするのか」といった質問も受けます。
確かに、オープンソースの台頭で、われわれの既存のビジネス・モデルが揺らぐかもしれません。ですが、オープンソース・モデルの発展は、間違いなく、社会全体、ないしはお客様に大きなメリットをもたらすはずです。
とすれば、われわれとしても、お客様や社会の利益を第一に考え、オープンソースの発展を支えていかなければなりません。またそれは、グリッドについても同様に言えることなのです。
妹尾:とはいえ、御社の場合、ビジネス・モデルの変革を行うにしても、常に戦略的な“巧みさ”がどこかにあります。サービスを展開するにしても、常に、モノ作りが基本にあって、モノ作りが生きるようなかたちでサービスを展開されている。例えば、御社のアウトソーシング・サービスは、IBMのスーパーコンピュータの活用が暗黙の前提になっているのように見受けられますが。
岩野:アウトソーシング・サービスの中で、弊社のスーパーコンピュータの活用が前提になっているかどうかはわかりません。
ですが、われわれのサービス展開には、「モノ作りを生かす」という側面はあるかもしれません。
実際、IBMでは1995年ごろから、「もうすぐネットワーク・セントリック・コンピューティングの時代が来る。そうなれば、メインフレームの時代が再来するんだ」と言っていました。つまり、ネットワークのオープン化やITのサービス化が進めば、必ずや、メインフレームの高い信頼性・可用性の必要性が高まると、当時から考えていたわけです。
また、2001年にオートノミック・コンピューティング(自律型コンピューティング)のコンセプトを打ち出しましたが、それも、ITの世界、ないし社会全体がサービス指向へとシフトするとの確信があったからです。
言い換えれば、われわれは、単に「世の中のビジネス・モデルがサービス主体へと切り替わる」と予測するだけではなく、「それを支えるITプロダクトがどうあるべきか」を必死になって考え、製品の戦略を立ててきたというわけです。


















