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【解説】
ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む[HDD編]
テラバイト領域に突入したハードディスク――垂直磁気記録方式、TMRヘッド、パターンド・メディア……
(2008年02月22日)
ナノテクという言葉が使われるようになって久しいが、その進歩は今なお、とどまることを知らない。ここでは、コンピュータ・テクノロジーの最先端、ナノテクが生み出そうとしている近未来のCPU、ハードディスク、メモリの姿を3回にわたって紹介していく。前回のCPU編に続き、今回はHDD編として、大容量化が著しいハードディスクを、さらに容量アップさせるパターンド・メディア技術を中心に紹介しよう。
土屋 勝
かつては自販機サイズで5MBしかなかったハードディスク
磁気円盤にデータを記録するハードディスクが登場して50年以上がたつ。世界最初のハードディスクは1956年に公開された「IBM RAMAC」だ。これは直径24インチ(61cm)ディスクを50枚重ねたもので、自動販売機より大きいにもかかわらず、たった5MBの記憶容量しかなかった。
それが、現在では手のひらに乗る3.5インチのハードディスクで1TB(テラバイト:1,024GB)、切手サイズの0.85インチでも4GB程度の容量を達成している。かつてあった8インチ、5インチといった“大型”ハードディスクは今や生産されておらず、サーバ用、エンタープライズ・ストレージ用としても3.5インチや2.5インチのものが使われている。一般家庭においても、ハイビジョン対応の大容量ハードディスク・レコーダーとなると数百GBから1TBといったものが珍しくない。また、ディスク内部や、ディスクとCPUなどのインタフェースの高速化も進んでいる。
こうしたハードディスクの大容量化と小型化、高速化は磁気メディアの高密度化、磁気ヘッドの微細化、アーム制御の精密化といった技術進化の結晶とも言える。どれか1つだけが突出して進化しても、製品としての小型・大容量ハードディスクは生まれないのだ。
ハードディスクの構造と記録原理をチェックしよう
ここでハードディスクの構造をおさらいしてみよう。現在では、サイズや容量が違っても基本的に同じ構造原理を持っている(図1)。
| 図1:ハードディスクの構造 |
まず、磁気メディアである「プラッタ」という円盤が何枚か積み重ねられており、「スピンドル・モーター」によって高速回転する。プラッタはガラスやアルミニウムなどに磁性体(磁気を帯びる性質を持つ物質)を塗布したもので、その表面はきわめて滑らかである。
プラッタの各面には磁気データを記録/読み書きする「磁気ヘッド」が位置する。磁気ヘッドとプラッタの間隔は、タバコの煙粒子より小さい10〜30nm(ナノメートル)程度しかない。磁気ヘッドは「スイングアーム」で支えられており、「ボイスコイル・モーター」でプラッタ上を瞬時に移動するシーク動作を行うことができる。
データはプラッタを同心円上に区切った「トラック」と、それを扇状に区切った「セクタ」という単位で記録される。また各プラッタで同位置にあるトラックの集合を「シリンダー」という。セクタはディスクにおける物理的な記憶領域の最小単位であり、OSはいくつかのセクタをまとめたクラスタという単位でデータを記録する。
ハードディスクは、ビデオテープ、フロッピーディスクなどと同じ記録原理を持つ。すなわち磁性体粒子を、あるパターンに磁化する(N極とS極を持つ棒磁石のようにある方向に向かせる)ことで、データを記録する。
ビデオテープやフロッピーディスクでは、プラスチックのテープや円盤に磁性体粉末を塗布したものが使われているが、ハードディスクはその名前のとおり、ガラスやアルミニウムなどの固い基板(円盤)に磁性体を蒸着したものが使われている。その構造は下から、約1mm厚の基板、約20nm厚の非磁性体下地層(クロム系合金など)、約20nm厚の記録層(コバルト、クロムなどの磁性体)、数nm厚の保護膜(カーボン)といった階層になっている。
現在のハードディスクでは垂直磁気記録方式が主流
| 図2:水平磁気記録方式 |
小型・大容量を実現するためには、同じ面積に書き込む情報の密度を高めればよい。そのため、磁性体の粒子を細かくすることが求められる。
従来、使われてきた磁気記録方式は、ディスク表面に対して磁性体を水平方向に磁化する水平磁気記録方式(面内磁気記録方式、長手記録方式ともいう)である(図2)。表面から見て、磁石が横に並んだ状態である。ところが、ある程度以上に磁性体粒子を細かくしていくと、隣り合った磁極どうしの反発などにより、磁力が弱くなる問題が生じる。さらに密度を上げていくと、熱によるゆらぎ(熱ゆらぎ)も無視できなくなり、記録密度向上の限界が出てきてしまう。
| 図3:垂直磁気記録方式 |
これを解決したのが、面に対して垂直方向に磁化することでデータを記録する垂直磁気記録方式である(図3)。垂直磁気記録方式は1975年、東北大学電気通信研究所教授の岩崎俊一氏(現在は東北工業大学学長)らにより、水平磁気記録方式に対する優位性が提唱された。1970年代には六角板状バリウムフェライトを使った垂直磁気記録テープが実用化され、1980年代に入るとMOで採用された。
ハードディスクへの応用はだいぶん遅れて、2005年になり東芝が初めて1平方インチ当たり130ギガビットの製品化に成功した。現在は各社が大容量ハードディスクに採用しており、ここしばらくは主流になっている記録方式と言える。
記録密度の向上とともに磁気ヘッドにも進化が求められた
ハードディスクの高密度化を実現するためには、記録と読み書きを行う磁気ヘッドの改良も不可欠である。初期の磁気ヘッド(電磁誘導型)では、ギャップ(空間)のある磁気コアにコイルを巻き、ギャップから漏れる磁場によってデータを読み書きしていた。しかし、記録密度を上げるためにはヘッドの小型化が必要になり、機械的な加工方法では対応できなくなってきた。そこで半導体技術を応用し、エッチングによって精密加工した薄膜ヘッドが登場した。
記録方式の高密度化によって、もう1つ大きな問題が出てきた。それは磁性体粒子を小さくしたために磁性体から発生する磁場が弱くなり、コイルとギャップを使ったこれまでの電磁誘導型ヘッドでは読めなくなってしまうというものだ。そこで開発されたのが磁場の変化に応じて電気抵抗が変わるNi-Fe(ニッケル-鉄)合金などの磁気抵抗素子(MR素子)を利用し、磁場の変化を抵抗の変化として読み取ることで従来の10倍以上の感度を持たせたMRヘッドである。この場合もデータの書き込みには薄膜電磁誘導型ヘッドを利用するハイブリッド構造になっている。
MRヘッドは1990年代にハードディスク用磁気ヘッドの主流となったが、1990年代後半には、さらなる高密度化に対応するため、2倍以上の磁気抵抗効果を持つコバルト系素材を使った巨大磁気抵抗素子(GMR素子)を採用したGMRヘッドが製品化された。ちょうど2007年のノーベル物理学賞は、巨大磁気抵抗効果を発見したフランス・パリ南大学教授のアルベール・フェール氏とドイツ・ユーリヒ固体物理研究所教授のペーター・グリュンベルク氏に決まったばかりである。
しかし、GMRヘッドもこれ以上の高密度化に対応することは困難となり、2006年ごろからはトンネル磁気抵抗(TMR)効果を使ったTMRヘッドが主流となりつつある。トンネル磁気抵抗効果とは、強磁性体と強磁性体の間に絶縁物の薄膜を挟み、磁場の影響によるトンネル効果(絶縁物を越えて電流が流れる微視的世界の現象)によって電気の流れに変化が起きる現象だ。この現象を利用することで、高密度用磁気ヘッドに必要な高い磁気抵抗効果を得ることができる。
また、TMRヘッドよりもさらに微細化が可能とされるCPP-GMRヘッド(GMR素子の面に対して垂直に電流を流す方式)の開発も、一方で進んでいる。
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