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【解説】
PLC(電力線通信)、 企業では普及しない?

IT業界の定説――嘘か真実か?

(2008年02月20日)

PLC(Power Line Communication:電力線通信)に対応した製品の提供が始まってから約1年が過ぎた。コンシューマー向けの製品は徐々に浸透してきているが、企業でのPLC導入はこれからが本番になると見られる。PLCの導入が期待されているのはオフィス、工場、ホテルなどとされているが、通信速度や使い勝手の問題から、「企業では普及しないのでは?」といった声も聞かれる。この定説が本当かどうかを、現行のPLCの問題点や企業での導入メリットを挙げながら検証する。

三上 洋

設置環境によって性能が異なる
ベスト・エフォート型の技術

 約1年前の2006年12月に、「コンセントでインターネット」のうたい文句で、PLCは華々しくデビューした。電源コンセントにつなぐだけでLANが使えるとあって注目され、一時期は在庫切れになるほどの高い人気となった。


図1:PLCの基本

 PLCは、電源ラインをネットワークの配線として使う通信技術である(図1)。PLCアダプタと呼ばれる機器が、信号を短波帯の周波数(3〜30MHz)に変換し、電源ラインに載せてデータをやり取りする。PLCアダプタはハブやルータなどのネットワーク機器に接続する親機と、そのクライアントとして使う子機の最低2台が必要になる。通信速度は、PLC規格の1つ(後述)であるHD-PLC方式を例にとると、TCP速度で最大50Mbps前後であるが、これは理想的な環境によるもの。実際には30〜50Mbpsが最大で、環境によってはそれ以下になり、場合によっては接続自体ができなくなることもある。PLCは電源ラインの長さ、分岐などの配線状況、併用する機器などによって通信速度が大きく異なる、ベスト・エフォート型の技術だということを念頭に置いていただきたい。

 PLCには、「HD-PLC」「HomePlug」「UPA」の3種類の規格があり、それぞれ別個の製品が国内で流通している(表1)。現時点では、国内で最初のPLCアダプタ製品を出荷した松下電器産業のHD-PLCが最もシェアが大きく、OEMも含めて各社がこの規格に対応したコンシューマー向け製品を販売している。また、HomePlugは、米国のIntellon製チップを使うもので、シャープや台湾のZyxelなどがこの規格の製品を販売している。HD-PLCと同様、こちらもコンシューマー向け規格であり、家庭内での使用が想定されている。一方、3つ目のUPAは前の2規格と趣が異なる。同規格はスペインのDS2製チップを使うもので、どちらかというと企業ネットワーク向けと言える。もともとが屋外のアクセス線でのサービスを目指した規格だけあって、リピータ(中継)機能を備え、オフィスやホテルなどの利用にも向いているのが特徴だ。UPA規格のPLCアダプタは、企業向けとして、NECネッツエスアイや住友電工などから販売されている。


表1:日本国内のPLCには3つの規格がある

 
最大の問題は「接続できるかどうか」

 PLCにはいくつか問題点が存在するが、最も根源的な問題となるのが、「実際に試してみないと接続できるかどうか不明」という点だろう。図2に、現在までに挙げられている問題点をまとめた。


図2:PLCの問題点

 PLCでの接続距離は、分岐がない理想的な状況であれば100〜150mほど(HD-PLCの例)と言われているが、そんな理想的な環境は実地ではありえない。何らかの分岐があるはずで、場合によっては接続できないこともある。

 図2の1のように、分岐がいくつもあれば、接続できたとしても通信速度は大幅に低下する。また延長用のテーブルタップも速度低下の原因となる。各社とも「PLCアダプタは原則としてコンセント直結」となっているため、他の機器と併用している場合は速度がかなり落ちるだろう。

 また図2の2のように、分電盤を途中に挟むと、多くの場合は接続できなくなるか大幅に速度が低下してしまう。同じ分電盤を使っていても、系統が異なるだけで大幅なダウンとなる。分電盤がどこにあるかビル管理者に確かめる必要があるのが面倒だ(UPA方式のリピータを使えば分電盤を挟んだ場合でも接続可能)。

 さらに3のように、他の機器が発するノイズの影響もある。例えば液晶テレビやコピー機、ドライヤーや充電器などが速度低下の原因となる。筆者が経験した家庭内の例では、それまで20Mbps前後の速度が出ていたのに、携帯電話の充電器を同じコンセントに接続したところ、5Mbps前後までダウンしたこともあった。

PLCによる電波障害問題
行政訴訟や異議申し立ても

 このように、PLCは細かな環境の違いで、通信速度が大幅に落ちるだけでなく、接続できなくなる場合も多い。あくまでもベスト・エフォート・サービスであるため、実際に試してみないと接続できるかどうか、通信速度がどれだけ出るかわからないという問題点がある。有線LANのようにケーブルさえ引けば確実につながるというものではなく、事前の実地テストが必須となる。

 またPLCには電波障害の問題もある(図2の4)。家庭内・企業内の電源ラインは、ほとんどがシールドのない単なる2本の電線にすぎない。そこに短波帯の信号を載せるため、周囲に電波が漏洩してしまい、短波ラジオ、アマチュア無線、電波天文観測などに妨害を与える可能性がある。仮にPLCを導入した建物のそばにアマチュア無線家がいたとすれば、電波妨害の抗議を受けるかもしれない。

 この点については、アマチュア無線家などによる行政訴訟が起こされており、東京高裁で控訴審が行われているほか、PLCを認可した総務省電波審議会への異議申し立ても出されている。


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