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VoIP/IP電話

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オープンソースVoIP「Asterisk」
エンタープライズ展開の現実味

大規模企業はOSSのメリットを電話においても享受できるか

(2007年07月06日)

オープンソースのIP-PBXソフトウェア「Asterisk」が市場で脚光を浴びたことで、これまでオープンソースVoIPの導入を検討さえしなかった大規模企業もそのメリットに少しずつ気づき始めている。実際に現在は、1番の不安材料だったサポート体制が充実しつつあることに加え、コスト削減効果や柔軟なカスタマイズ性といったメリットが事例という形で実証されてきているからだ。本稿では、Asteriskの「エンタープライズ展開」の可能性を探る。

ポール・ベネチア
InfoWorld米国版

電話のOSS化に対する
大規模企業の不安

 Linuxや関連オープンソース・ソフトウェア(OSS)の普及を目的とした非営利団体、Linuxインターナショナルのジョン“マッドドッグ”ホール氏は3年ほど前、「Asterisk」に代表されるオープンソースのIP-PBXソフトウェアについて、「今日のLinux市場全体を上回る規模のビジネスを創出するだろう」と予測していた。しかし、小・中規模企業向けはともかく、エンタープライズと呼ばれる大規模企業向けのオープンソースVoIPについては、これまでのところ、市場が盛り上がっている気配は見られない。

 オープンソースVoIPは、電話にかかわるコストの削減につながり、また、自社の利用形態に合ったカスタマイズが可能であるため、小・中規模企業ではかなり採用が進んでいる。だが、ほとんどの大規模企業は、オープンソースVoIPの導入に関して、耳を傾けようとさえしない。

 もちろん、大規模企業がOSSのもたらすメリットに気づいていないわけではない。何らかのソフトウェアの導入を検討する際には、市販の製品を購入する前にOSSで使えるものはリリースされていないか、あらかじめ調査する企業が増えてきており、OSSへの関心が高まっているのは間違いない。

 しかし、電話に関しては、OSSを選択肢の1つととらえる大企業は、ほとんど存在しなかったと言ってよい。電話に関するさまざまなOSSを入手することが可能になった現在でも、その状況は変わっていないのである。

 電話のオープンソース化については、リスクが高すぎるというのが大規模企業の一般的な見方だ。ちょっとしたネットワーク障害でさえ、ヘルプデスクに電話が殺到するような状況であるのに、電話が使えなくなったとしたら、業務が完全に停止してしまう可能性がある。また、そもそも99.999%の可用性を誇る従来のPBXをあえてオープンソースVoIPに切り替える積極的な理由は見当たらない。コスト削減のためにオープンソース化に踏み切っても、パッチが配布されるたびにIP-PBXの再起動を余儀なくされるぐらいなら、これまでどおりPBXの運用コストを支払い続けるほうがずっと安心だ――オープンソースVoIPに対して大規模企業が抱いている考え方は、このようなものである。

 以上のような意見の下では、従来のPBXを撤去して全面的にオープンソースVoIPに乗り換えるという選択肢は急速に消えていく。こうした考え方を持つ大規模企業が大多数を占めている以上、IP電話が広く浸透したとは言えないだろう。

 とはいえ、音声通話がIPネットワーク上で利用可能になったことは周知の事実である。今や、多くの既存PBXベンダーがVoIP市場に参入しており、歴史と実績のあるPBXでVoIPのメリットを安心して生かせるように機能を強化している。例えば、2つの拠点間をVoIP回線で結ぶVoIPモジュールの導入が一般化しつつあり、現状の市内通話を維持しつつ、長距離通話のコストを削減するために利用されている。このようにVoIPは、そのコスト・メリットが生きる部分でPBXの代わりに使われている。

 そのため、オープンソースVoIPに関しても、今後しばらくは、目的を絞って利用するというのが企業における一般的な使われ方になるだろう。大規模企業が徐々にそのメリットを理解していけば、オープンソースVoIPの普及にも大きく弾みがつくことは間違いないだろう。オープンソースVoIPのコスト削減効果とカスタマイズの柔軟性は無視できないほど魅力的だからだ。

中規模企業に向けられた
Asteriskのターゲット

 米国ディジウムの「Asterisk」は、現在入手できるオープンソースのIP-PBXソフトウェアとしては成熟度、人気ともに群を抜いている。同様なオープンソースIP-PBXはほかにも提供されているが、その多くは「OpenPBX」のようにAsteriskから派生したものだ。もちろん、「FreeSwitch」のように、独自に開発されているものもある。競争は激化しているものの、Asteriskは、オープンソースVoIPの“王者”であり、その地位は磐石である。

 機能や性能の面からも、Asteriskの実力は確かである。これは、いくつかの導入事例を見れば明らかだ。例えば、米国サム・ヒューストン州立大学は2005年、6,000以上の内線番号を「Cisco CallManager」からAsteriskにリプレースした。これにより、IP電話のライセンス料を省くとともに、IP-PBXシステムのカスタマイズや運用上のセキュリティに関する問題を改善できたという。

 また、タイム・シェアリング方式のリゾート施設を運営する、米国サマー・ベイ・リゾーツは、13台のサーバからなるAsteriskシステムで、月間100万分を超える通話記録を取っている(ケース・スタディ参照)。

 このように、Asteriskは大規模展開にも十分対応できることが実証されているにもかかわらず、ディジウムが注力するのは相変わらず中規模市場である。

 「大規模企業向けの市場には、われわれにとっても大きなビジネス・チャンスが潜んでいる。だが、その市場は当社のコア・ビジネスではない」と、Asteriskプロジェクトの創設者で、今はディジウムの会長兼CTO(最高技術責任者)の職に就くマーク・スペンサー氏は言う。

 同社は昨年、ベンチャー・キャピタルから1,380万ドルの資金を獲得し、先ごろCEO(最高経営責任者)として、米国アドトランの前COO(最高執行責任者)、ダニー・ウィンドハム氏を迎え入れた。

 「Asteriskは大規模展開にも対応できるが、今は中規模市場を重視している」(スペンサー氏)。多くの大規模企業がオープンソースVoIPの導入に二の足を踏んでいる現状を考えれば、同社がこの市場にまだ積極的な取り組みを見せていないのは理解できる。

 採用を阻むネックとしてよく指摘されるのは、サポート体制の不備、必要な機能の有無、導入と運用管理には専門家を必要とするのではないかという懸念、そしてプラットフォームの互換性についての心配などだ。しかし、Asteriskの実像と関連製品の開発者の急増を見れば、こうした不安はほとんど根拠のないものだということ、また、Asteriskは大規模企業向けとしても安心して展開できるレベルに達していることを理解できるはずだ。

CASE STUDY
600人規模のコールセンター業務を支えるAsterisk
米国サマー・ベイ・リゾーツ

 今のところディジウムは、中規模企業をAsteriskのメイン・ターゲットとして位置づけている。だが、大規模企業による導入事例も、すでにいくつか存在している。これらの事例は、オープンソースIP-PBXの拡張性と柔軟性の高さを物語っていると言える。

 Asteriskを大規模展開している企業の1つが、タイム・シェアリング方式のリゾート施設を運営する米国サマー・ベイ・リゾーツである。顧客数6万、3カ所のメイン・リゾートを所有する同社では、電話システムも必然的に大規模なものとなる。実際に、米国全土に複数のコールセンターを抱えており、業務のほぼすべてで電話が重要な役割を果たしている。同社にとって電話は、正にビジネスの生命線と言っても過言ではないのだ。

 サマー・ベイのコールセンターには、600人近くのスタッフが勤務している。音声通話の時間は毎月100万分以上にもなり、1年で710万件の電話のやり取りを記録している。13台のサーバで構成される同社の電話システムは、常時フル稼働しているはずだ。そうした過酷な業務を引き受けるIP-PBXは、すべてAsteriskで構築されている(図A)。

図A:サマー・ベイ・リゾーツがコールセンター業務のために導入したAsteriskの構成図

 2年前までサマー・ベイには、40人ほどのスタッフが在籍するコールセンターが1カ所あるだけで、そこでは従来型のPBXが使われていた。その後、事業の急速な拡大に伴い、数カ所のコールセンターを新たに設置していった結果、従来型PBXを核とした電話システムは限界に達し、同社の業務に対応しきれなくなった。そうしたことから、Asteriskで構築したIP-PBXへのリプレースが決定した。

 その決定に基づき、サマー・ベイは、コールセンターの全席に米国ポリコムのIP電話機を導入し、各センターにCentOSとAsteriskをインストールしたヒューレット・パッカードのIAサーバ「HP ProLiant DL360」を1台以上導入した。そして、電話システム全体を本社で統合した。

 サマー・ベイのIT担当ディレクター、デビッド・クルツ氏によると、市販のIP-PBXではなくAsteriskに移行することに決めた最大の要因は、柔軟なカスタマイズ性だという。「例えば、通話無料の電話番号を40個追加し、それらの番号にコール・ルーティングをかけなければならないといったことが必要になる場合がある。そうしたときでも、Asteriskなら容易に対応することができる。これほど柔軟かつ迅速に必要な機能を展開できるIP-PBXソフトウェアは、ほかに例がない」とクルツ氏は語る。

 すべての音声をデータとしてやり取りするようになったことで、サマー・ベイの長距離通話と無料通話のコストは、データ転送にかかるコストと同程度に低減した。しかも、Asteriskがもたらしたコスト削減効果はそれだけではないという。

 「全体の導入コストは、IP電話機の購入費を含めて約9万ドルにしかならなかった。当初、商用IP-PBXベンダーが提示した見積もりでは1シート当たり約1,000ドルにもなっており、600シートで60万ドルだった。Asterisk以外で電話システムを構築したら、これほど安く済むことはありえないはずだ」(クルツ氏)

 意外なことに、サマー・ベイはLinuxをメインに使う企業ではない。「当社のITインフラは、ほぼマイクロソフト製品で占められている。しかし、Windows上でIP-PBXを運用することは想像できなかった」と、同社のネットワーク・マネジャー、ジェイソン・ブラウン氏は語る。

 Linuxの信頼性について尋ねたところ、ブラウン氏は「ここ数年間に、Asteriskのプロセスが1度か2度、異常終了したことはあった。しかし、それが大きな問題になったわけではない」と語った。一方、クルツ氏は、「想像を絶するROI(投資利益率)を実現した。導入してすぐに支出を抑えられたばかりか、生産性も大きく高まった」と、Asteriskの導入メリットを語った。


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